01
郊外にある屋敷が燃えているというニュースを見かけた時、血の気が引いた。
ここに来ることはもうないと思っていた。自分がしてきた数々のことを、蓋をして閉じ込めた感情を、思い出してしまうからだ。
何故来てしまったのかなんて、明白だった。妹がいるからだ。ここで僕と同じ時間を過ごした、同じ顔をした双子の妹が。
ただ、顔を合わせるつもりはない。あんな事をしたんだ、きっと彼女は僕を恨んでいるに違いない。だから今日は出来るだけ接触しないで、様子を見るだけ。無事かどうかを確認するだけ。
本当に、そのつもりだった。
「あれは…!」
燃えて倒れはじめた柱の下に人影が見えた。僕は咄嗟に滑り込んで、その下にいた人物を抱えて退避した。確実に影の下から抜けたと思った頃、真後ろで大きな音を立てて柱が倒れた。
「…怪我はないか?」
そこで初めて自分が助けた相手の顔を見た。
「…え、ええ、大丈夫、です…」
視界に飛び込んでくる、同じ髪色、同じ瞳。それを認識すると、こんなに火で囲まれた場所にいるというのに背筋が凍った。
もう数年は経過しているというのに、すぐにわかった。僕が助けたのは、顔を合わせないと決めていたはずの双子の妹だった。
「安全な場所まで運ぶ。捕まってくれ」
「は、はい…」
弱々しく触れてきた腕が震えている。怯えているのはこの状況にだろうか、それとも僕に、だろうか。
今は考えている時間が惜しい。必要のない思考は振り切って、僕は彼女を抱えたまま部屋の窓から飛び降りた。炎を地面に向けて放つことで落下速度を下げ、庭の広い場所に着地して、抱えていた彼女を地面に降ろした。
「後は救助を待てばいい、僕は行く」
「ま、待ってください!」
立ち去ろうとしたところで、腕を掴まれた。
「わ、私が発火原因なんです。ここにいたら、捕まっちゃう…」
彼女はそう言った。つい先ほどまで火を扱っていた僕の手を平気で掴んでいるあたり、嘘をついているわけではなさそうだ。彼女もバーニッシュとして覚醒したのだろう。
「……わかった。連れて行く」
僕達が目指しているのはバーニッシュの街を作ることだ。幾ら曰くつきの相手だからといって、例外として放っておくのはそれに反する。
「…あ、ありがとう、ございます…!」
しかしどういうことだろう。てっきり彼女は僕を嫌っているか恨みを持っているものとばかり思っていた。彼女の僕に対する一連の対応は、その様子がほとんど無いように思える。ましてや助けを請うだなんて。まさか僕に気付いていない、なんて事はないと思う。僕は一目見ただけでわかったのだから。
「…あ、あの、一つ聞いてもいいですか?」
「何だ」
炎でバーニッシュサイクルを生成し、彼女を抱えて乗り込んだ直後、
「宜しければ、お名前をお聞きしたくて」
彼女は、ありえない質問をしてきた。
「…何を言っている」
「え?あ、あの、良くなかったでしょうか…?」
「そうじゃない。君は、」
既に知っているはずだ。あんな事をされて覚えていないはずがない。いや、もしかすると彼女は、まさか。
「…君は、僕を覚えていない、のか…?」
「え、えっと、初対面だと、思いますけど…」
彼女は、僕のことを忘れていた。
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