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「すみません」
「ええ…」
「メエ…」

ヌメたとあたしは揃って気の抜けた声を出した。
だってさ、だってさ。

「ヤローさん畑に行っちゃったんです」
「なぜ……」
「開会式あったその日にチャレンジャーが来るなんて…ねえ?」
「うん」
「ええ……」

おっとりと頷き合うグリーンボーイ&ガールに再度脱力。
受付時間終了間際だからと急いで来たのに!そんなのありかよ〜

「でもさっき連絡したので」
「すぐ挑戦できます?」
「ミッションの準備もあるから一時間くらいは…」
「わかりました」

明日でもイインジャナイノ的な雰囲気漂ってるけど、冗談じゃない。
あたしは一日も早くバッジを集めてワイルドエリアデビューしなきゃなのだ。
こっちはある意味生活かかってんですからね!ぬるいこと言ってられないんだから!

「じゃあまた後で来ます」
「すみませーん」

仕方ない、散策して時間を潰すか。
初めて来た所だしネタは尽きないだろう。



「あら石碑に暗号らしきものが」
「ヌッ!?」
「なになに…『あ、く』…?」

「ラァ〜〜!」
「お花屋さんキレイだね〜」
「ンメェ……」
「よだれ出てるよ」



「これが地上絵か…」
「ヌァラ…」

立ち寄ったお花屋さんで地上絵のことを教えてもらい、丘へやって来た。
日も傾き始めているからか他に人はいない。
橙色に染まる丘陵、静かに吹く風。神秘的な光景だ。

(すんごい大きさだな…てか何の絵だろ?ちっちゃいエイリアンみたいなのもチラホラいるし)

あたしの世界にも同じような地上絵があった。それは砂地に描かれたものだったけど。
いったい誰がどんな目的で技術で完成させたのかと、七不思議になっていたっけ。

(これだって明確なデザインになってるよね。やっぱり宇宙からの来訪者的な)


……ちょ…さ……

あ  また

…ちょう……ん…

   こ   え


「ヌメラッッ!!!」
「え?」
「ヌゥーメッリャ!!!」
「…ヌメた?」

大声に視線を下ろすと、ヌメたがなにやらプリプリ怒っていた。
さっきまでおいしい草でご機嫌だったのに。ずっと立ってたせいで風が冷たかったのかしら。

「ごめん、なんかぼーっとしちゃった。寒かった?」
「メララン。ヌンメ〜ヌンメ〜」

素直に謝ると、ニッコリ笑ったヌメたはツノですりすりとあたしの腕を撫でて許してくれた。
優しいな〜うちのヌメたは優しいな〜

「そろそろ行こっか」
「リャ」

傍にあった水飲み場で水分補給をしてから、ターフスタジアムへ向かう。
ゆっくり行けばちょうどいいくらいかな?もしまだ準備できてなくても、ロビーで待たせてもらお。

「ウールー!待っておくれよ」
「グメメッエ!!」
「?」

などと考え事をしながら歩いていたせいで、転がるモフモフに気づくのは遅く。
あ、これ終わった……

「メリャッ!」

ヌメたの まもる!
ウールーは バリアにぶつかり とまった!

「(咄嗟のまもる…!?やだ、ヌメたってばマジイケメン…!!)」
「あのう……ポケモンのたいあたりをくらって大丈夫ですかねえ?」
「大丈夫です。うちのイケメンが守ってくれたので」
「ラーンッ!」

誰かに心配されるも、王子様ばりの活躍をしたヌメたに胸キュンするので忙しい。
これ記念に一枚撮っておくべきか…でも肝心の決定的瞬間はもう過ぎちゃったし…

「おや?きみはもしかしてジムチャレンジャーですよねえ?」
「違います」
「またまたぁ、おたわむれを……開会式でおみかけしましたよ」

テキトーな返事をしていたあたしはそこで初めて顔を見た。
ちょっと待てよ、この人は!

「ぼくはヤローといいます。くさタイプのポケモンで戦うジムリーダーなんです」
「失礼しました。チャレンジャーのナナシです。どうしても今日挑戦したくて、さっきスタジアムへ」
「連絡もらいましたよ。それでぼくも向かっていたところなんです」

ハハハと朗らかに笑う、THE好青年といった感じのヤローさん。
ファーマー感溢れる穏やな人だが…そのマッシブボディ、ギャップすごすぎません…?
好きだけど。マッチョもギャップも好きだけど。

「チャンピオンが推薦したというジムチャレンジャーの実力……ジムスタジアムで確かめますねえ」
「よろしくお願いします」
「ほらジムに帰ろうな。ジムチャレンジャーが待ってるぞ」
「グメメ!!!」

迎え撃つ側ということで、一足先にスタジアムへ駆けて行くヤローさん&ウールー。
よかった、リーダーが到着してるなら安心だ!あたしたちも急いで行こう。



「これは…前代未聞だ……」
「あのー…もしかして失格になったりします…?」

ミッション開始早々、茫然とするダンペイさん(レフェリー)に恐る恐る声をかけた。
なぜこんなことになっているかというと。

「まさか全ての牧草ロールに突っ込んで行くとは…」

さあ追いかけちゃうぞ☆と走り出した瞬間、ウールーが一斉にゴールまで転がってしまったのだ。
それも妨害役のワンパチたちもビビッて逃げるほどの凄い勢いで。
結果。

「最後の所まで吹き飛ばしちゃいましたけど…これって、アウトですか…?」
「う、う〜ん」

あっという間に空となったミッションエリアで、ダンペイさんも唸っている。
いやあたし何もしてませんけどね!?ちゃんと着替えて、不要な物は預けて、ルールに従って参加してるし!
ただ逆に何もしてないのにクリアした、みたいになってる…というか……

「…いいえ!わたしが見ていた限り、不正等ありません。続行してください!」
「あ、ありがとうございます」

必死の形相なダンペイさんにお礼をしゴールを目指す。
多分あれは自分で自分に間違ってないと言い聞かせてるやつだ。
事実小細工なんてしていないが、さっさと立ち去ろう…

「ようこそジムチャレンジャー!申し訳ないがきみを追い返すのが仕事なんです」

トレーナーいるの忘れてた…



「さっきのジムミッションといい、ナナシさんはとにかくスピードが速いんだな」
「そうですね。最速でバッジを集めるのが目標なので」
「こりゃあ手ごわい勝負になる!ぼくもダイマックスを使わねば」

順調にジムのトレーナーさんともバトルを重ね、ついにヤローさんと対峙した。
パワースポットでもあるスタジアムで、おニューのダイマバンドに力が集う。
なんか、すごいな、コレ…!めっっっちゃ漲ってる…!感じがする。

「ヌメた、ゴー!」
「ンメーラ!!」

華麗なるスタジアムデビューだぜ!



「ウオオ!ぼくたちは粘る!農業は粘り腰なんじゃ」
「(うわっなんか来そう)」
「さあダイマックスだ!根こそぎ刈りとってやる!」
「(うわっやっぱ来た)」

ヒメンカを苦なく倒したものの、次に繰り出されたワタシラガのダイマックス。
うひー本物ダイマってこんなでかくなるの!?!?

「ヌメた!リャッヌメリャ!」

こっちも対抗しなきゃ。秘密コマンドでダイマックスを指示する。
途端に振り向いたヌメたと目が合った。

「ヌメッッ!!」

―――え。どうして。

「ヌメッッ!!!」

―――……それなら。

「…ンメーア!メリャ〜!」



2022.03.18