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「ジムチャレンジャー?」

例年のことだが、午前中は開会式で丸々潰れてしまう。
昼過ぎに戻ったヤローは畑仕事のためジムを不在にしていた。

「驚いたなあ…もう来たんかい?」

何も考えなしに空けているわけではない。
エンジンシティからここターフタウンまで、長い街道や鉱山を抜ける必要がある。
開会式当日に到着するチャレンジャーがいてもせいぜい夜だ。
そしてジムの受付時間は夕方まで。

「そうなんです。今日中に挑戦したいらしくて」

つまり、挑戦者が来るのは早くても開会式翌日。
去年も一昨年もそうだったのに。

「ほんならすぐに向かうわあ」

今年はどうやら違うらしい。



「ウールー!待っておくれよ」
「グメメッエ!!」

急ぐ自分にペースを合わせたのか転がり始めたウールー。
慌てて止めようとするも聞かず、道行く少女に迫っていく。

「あのう……ポケモンのたいあたりをくらって大丈夫ですかねえ?」
「大丈夫です。うちのイケメンが守ってくれたので」
「ラーンッ!」

ぶつかったように思ったが、何事もなく抱えているヌメラへ視線を落とす少女。
ハラリと結ばれたリボンが揺れる。開会式で空を見上げていた時も、そうだった。

「おや?きみはもしかしてジムチャレンジャーですよねえ?」
「違います」
「またまたぁ、おたわむれを……開会式でおみかけしましたよ」

素っ気ない対応の彼女がようやく顔を上げる。
マクワはモスノウと称していたが、ツンとした態度にアマージョが過ぎった。

「チャンピオンが推薦したというジムチャレンジャーの実力……ジムスタジアムで確かめますねえ」
「よろしくお願いします」

これまでの記録を更新する最速の挑戦者。チャンピオンの推薦。
ボウルに大人しく入っているヌメラも鋭い眼差しをこちらに向けている。

「ほらジムに帰ろうな。ジムチャレンジャーが待ってるぞ」
「グメメ!!!」

にげあしの如く走り出したウールーと共に、ヤローはジムを目指した。
今日という一日の終わりに相応しいバトルを期待しながら。



「これは…前代未聞だな……」

ターフタウンより遠く離れた空の上。
開会式の後も忙しく駆け回っていたダンデは、タクシーの中でその光景を目にしていた。

「まさか全ての牧草ロールに突っ込んで行くとは…」

速報でナナシのジムチャレンジが伝えられた時、それはそれは驚いたものだ。
無事バッジを獲得できれば、最速記録を塗り替えることになるだろう。
彼女はどんな風に突破してくれるのかと中継を食い入るように見ていたのだが。

「(あのウールーたち…いったいどうしたんだ?)」

ナナシが追いかけようとした途端、一斉にゴールへと向かってしまったウールーたち。
転がるスピードは通常の倍、あるいはそれ以上か。
のんびり屋の代名詞ともされるウールーが、信じられない速さで転がるのは。

「(……敵から逃げる時……)」

まどろみの森。深い霧の中。
ありとあらゆる所から注がれる視線。
敵意というより、畏怖のような―――

「ようこそジムチャレンジャー!申し訳ないがきみを追い返すのが仕事なんです」

脳内の光景をかき消し、ダンデは再び画面へ視線を向ける。
怖気づくことなくバトルを開始するナナシにふっと笑みがこぼれた。

「キミのジムチャレンジ、見せてもらうぜ」



「さっきのジムミッションといい、ナナシさんはとにかくスピードが速いんだな」
「そうですね。最速でバッジを集めるのが目標なので」

予想外の結果だったが、不正なしとのジャッジにヤローも彼女を迎え入れる。
大勢のギャラリーに緊張も動じもしないその集中力は大したものだ。

「こりゃあ手ごわい勝負になる!ぼくもダイマックスを使わねば」

バトルの指示は暗号化されている。
おまけにこのヌメラも最弱ドラゴンとは思えない逞しさ。
素直に感想を吐き出せば、彼女が不敵な表情を浮かべた。

「ヌメた、ゴー!」
「ンメーラ!!」

今期最初のチャレンジャー。
一番手のジムリーダーにてお手並み拝見としよう。



「さあダイマックスだ!根こそぎ刈りとってやる!」
「ヌメた!リャッヌメリャ!」
「ヌメッッ!!」

残り一体。ダイマックスさせたワタシラガを前に、ナナシも何か指示を出す。
彼女も相棒をダイマックスさせるはずだ。
ダイマックス同士のぶつかりあい、これぞジムチャレンジの醍醐味である。

「ヌメッッ!!!」
「…ンメーア!メリャ〜!」



2022.03.18