「もう行ってもいいですか」
「まだだ…!まだ終わらんよ…!」
「いや終わりましたよね」
なんだこの人…。せっかくの美人が台無しだよ……。
あたしだけでなくヌメたもジト目で大人二人を睨んでいる。
いったい何が起きているのかというと。
「だって…!ナナシ選手、全然質問に答えてないもの…!」
「聞かれたことにはちゃんと答えましたけど」
「『出身地は?』の質問に『個人情報に当たるので回答は差し控えます』なんて初耳よ!?」
「どうするかは本人の自由ですから」
いざエンジンシティへ!と鉱山に入ろうとした時、インタビュアーとカメラマンのコンビに捕まったのだ。
それも薄暗い鉱山の中で映像を撮るのは避けたいらしく、それはもう何度も頭を下げられた。
『お願い!昨日インタビューできなかった時点で、かなり不味い状況にいるの!』
『頼む!美少女は数分映るだけで撮れ高バッチリなんだ!』
『ええ…(なにこの人たち…)』
正直、面倒なので受けたくはなかったが、この人たちも仕事だもんなと思えば多少は協力する気になるわけで。
どうせ5分程度で終わるだろうと高を括っていたら。
『それでは!何かと話題の尽きないナナシ選手に突撃インタビュー!』
『手短にお願いします』
『予想通りのクールな対応!だがそれがいい!』
『美少女とヌメラの組み合わせはカメラ越しに光ってみえる』
『ええ…(なにこの人たち…)』
謎のテンションに気圧されるわ、謎の質問攻めにあうわで辟易した。
テキトーに返事してるあたしも悪いんだけどさ、出身地とか答えられない内容も多いのよね。
「ミステリアスなナナシ選手のこと、全国のファンが少しでも知りたいと思っているの!」
「謎は謎のままが一番だと思いますよ」
「元も子もない!」
「だがそれがいい」
いつになったら終わるんだコレ…
ヌメたも飽きてきたのか、とうとう威嚇し始めた。かわゆっ
「とにかく、こちらは全てお答えしたので…失礼しますね」
「待ってー!せめてチャンピオンとの関係につい「そこを退いてくれますか」
食い下がるインタビュアーのおねえさんに被さる、意識タカオな声。
聞き覚えのあるトーンは間違えようもなく―――
「ビート選手!?」
「僕はさっさと先へ進みたいのでね」
「あたしもあたしも」
「ヌメラヌメラ」
ラッキー。邪魔者(ビート)のおかげで立ち去ることができそうだ。
とりあえず彼の話に乗っかって、ヌメたと一緒に行きたいアピール。
「ビート選手にもお話を!」
「僕は既にインタビューを受けていますが?大体、チャレンジャーの行く手を阻むなんて妨害もいいところだ」
お?ビートってば、大人の嫌いな正論で撃退するつもりだな?
丁度いいや。あたしはなんか疲れたし、任せちゃお。
「…貴重な時間を…」
「…迷惑行為として…」
「…あなた方はいつも…」
……いや説教長いな!?しかもめっちゃネチネチしとる!
これは日頃のマスコミに対する不満までぶつけてるパターンだ。
さすがにミチさん(インタビュアー)とテルさん(カメラマン)が可哀想になってきた…
「…そもそも…」
「ねえねえビート。もう行こうよ」
「なっ、引っ張るんじゃありません!」
「伸びてないからへーきへーき」
隠れていた彼の背中から服をちょいちょいすると、焦ったように振り向かれた。
こういうTHEあざとい仕草☆慣れてないですね?かっわい〜
「さっさと断ればいいでしょう」
「まあね。でもあの人たちも仕事だし」
「フン」
ビートは納得してない様子だったけど、それでも鉱山の中をリードしてくれた。
このペースならかなり早くエンジンシティに到着できそう。やったね!
「それにしても…ここの作業員さんってみんなトロッゴン連れてるんだ?」
「メエ」
「何を言っているんです?どう見てもポケジョブでしょう」
「ポケジョブ?」
無知な人ですね、と呆れながら解説を始めるビートくん。
意外と面倒見いいよね。絶対言わないけど。
「そんなお仕事システムあるんだ」
「常識ですが?その程度でよくここまで来られたものですね」
「確かに。全部ヌメたのおかげだね」
「メェラア〜」
こいつ皮肉わかってねーだろ的な眼を彼に向けられたけど、事実だし。
キュートで強くて頼りになるヌメたが、今のあたしを生かしてる。
大袈裟な表現かもしれないけどね。間違ってなんかない。
「ここまで来ればもう分かるでしょう。早く行きなさい」
「ありがと。ねがい星見つけたら、絶対あげるね」
あとは一本道、という所でビートとは別れた。
多分またカツアゲするつもりなんだろうな。それとなく察したが、特に触れず出口を目指す。
彼の選択は彼自身のもの。そこにあたしが口を出す必要はない。
「エール団!トレーニングにおつきあい、ありがとう!だが……働くトロッゴンのじゃまは許されないことです!」
開けた所に出た瞬間、凛とした大きな声が辺りにこだまする。
何事だ?と先へ進むと、薄暗い中に浮かび上がる赤いユニファームを見つけた。
「ジャマなんてとんでもない!トロッゴンへのエールです……」
「でもポケモン勝負でぼろぼろにやられちゃったから、エール団は消えーるのです……」
「応援はいいけれど、じゃまはいけないからね!」
スタコラサッサと逃げる人影に念押しするナイスミドル。
次の目標であるエンジンジムのリーダー、カブさんだ。素敵…!
「こんにちは、カブさん」
「やあ。きみはダンデが推薦したナナシだね!」
もうあたしのことは知っているようだ。
やっぱジムリの人たちはチャンレジャーのこと把握してるのね。
「よくここにいらっしゃるんですか」
「そう、きみたちジムチャレンジャーと最高の勝負をするため、ギリギリまで鍛えているんだよ!」
わーお。いつまでも燃える男!と開会式で紹介されただけある。
一切の妥協を許さない姿勢に、あたしもヌメたも気持ち背筋がピンと伸びた。
「もしかしてこれから挑戦かい?」
「いえ、今日はもうホテルに行くつもりです」
「それがいい。第二鉱山を抜けてまっすぐ進めばエンジンシティ。ゆっくり休んで、コンディションを整えなさい!」
日が暮れるまで修行するらしいカブさんに再度挨拶し出口へと向かう。
登竜門とされるエンジンジムのチャレンジは厳しい戦いになりそうだ。
「つ、疲れた……」
「ン、メエア……」
あたしとヌメたはくたくたになってソファや床に寝転んでいた。窓の外はもう真っ暗。
お昼過ぎにチェックインしてから今まで、ずーっと作戦会議を繰り返していたのだ。
「ヌメた、おさらい…『ヌメラメラ』…」
「ラアラ……」
「はい…OKです……」
あたしたちの秘密コマンドはジム戦毎に変更している。
毎回同じだと意味ないもんね。そしてこれがめっっちゃくちゃ大変。
間違って覚えたら意思疎通ができないし、混乱を招く。
しかも最短のジム突破を目指したことで、連日対応する技を変えることになり。
「やば…あたしの方がミスしそう…」
「メェエ……」
ターフジムやバウジムでのコマンドと混同しそうになるのだ。
必死にこの数時間で詰め込んだけど…知恵熱とか出そう……
「ミックスオレ飲んだら…最後のチェックしよっか…」
「ヌン………」
かなりしんどいけど、エンジンジムを突破できれば目標のワイルドエリアデビュー。
ここで諦めるわけにはいかない。
「ワイルドエリアで資金を貯めて一人暮らしする…その第一歩に向け、かんぱーい」
「リャンラーア♪」
コップに注いだミックスオレで乾杯。ふは〜〜甘さが染み渡る〜〜〜
と一息ついていたところに電話が来た。こんな時の着信は相手が決まっている。
「こんばんは、ダンデさん」
こうして連絡を取り合うのも、あと何回のことだろう。
というのも、あたしはワイルドエリアに入れるようになったら折を見て棄権するつもりでいる。
「インタビュー観たぜ。俺との関係をアレコレ聞かれたようだな。迷惑をかけてすまない」
「いえいえ。ダンデさんの方が大変でしょうからお気になさらず」
推薦状を出してくれたダンデさんには悪いけど、あたしには生活基盤を築くのが最優先事項なのだ。
ひどく自分勝手だということは重々承知している。
だからダンデさんへの説明にはそれらしい別の理由を―――
「なあ。キミはなぜジムチャレンジに参加したんだ?」
「……あたしのことを知ってる人が見つかるかもしれないから、ですよ」
「そうだったな。他には?」
まるで心の中を見透かしたような問いに一瞬動揺したが、初めて推薦状を強請った時と同じ理由を口にする。
実はインタビューで同じことを聞かれた時、記憶喪失とは明かせないため、別の答えを言っていた。
「『自分のために参加した』、んだろう?」
「……見つけてほしいのも、チャンピオンになりたいのも、ダンデさんと戦いたいのも、全部自分のためじゃないですか」
「フフ、なるほどそう来たか」
む…。スピーカーの向こうで、不敵な笑みを浮かべているダンデさんが容易に想像できる。
なんですかあ〜その反応〜?言いたいことでもありますか〜??…反撃してやれ!
「仮に他の理由があったとして、どうしてダンデさんが知りたがるんです?」
「キミのことだからな。俺はキミのことが知りたい。…何でも、だ」
ふいうちの低いセクシーボイスにドキドキ…!
なんてしませーん。そのくらいじゃ胸キュンしないもーん。
「ダンデさん。『謎は謎のままが一番』、でしょ?」
あたしのこと?そんなの絶対秘密だよ。
真実なんか、いつだってロクなものじゃないんだから。
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