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― この世は舞台
― 男も女もみな演者にすぎぬ
― 退場し、入場しては
― いくつもの役を演ずるのだ



「今のすごくない!?もっかい見せて!」

ワイルドエリアデビューしていつの間にかn日目。
こもれび林であたしは一人興奮していた。

「キュキュッッ!!!」
「おお〜!ミッキュンすごい!」

ミニマムボディが披露するつるぎのまい。
名前の通り剣舞にふさわしく宙を飛び交う刃に目を奪われる。

「てかツボンヌも、さっき逆にこうげき上がってたよね?何アレ!?何!?」

ミッキュンのあまえるを受けてもなぜかダウンしなかったステータス。
無表情だけどちょっとドヤしてる(気がする)ツボンヌにまたワクワク。

「いや〜うちの新入りは期待できますね〜!」

実はこのコたち、新しく仲間になったばかりなのだ。
縁とは不思議なのもので、それはナマコさんとキリくんが手持ちに加わって数日後のことだった。

「キュ♪」

ミッキュンことミミッキュは、ある日橋を渡った先、霧深くて探検を諦めようとしていた時に遭遇。
最初は首折れたピカチュウだと思って死ぬほどビビった。首折れてたし。首ばっきり折れてたし。

『えっちょ、これ治る!?薬で治るの!?!?』

テンパってとりあえず自分が持ってるきずぐすりで一番いいのをあげ…ようとしたらナマコさんに落ち着けとチョップされた。
被り物だから命に影響はないんだとか。図鑑で確認したあたしはホッとしたので、とりあえず持ってたハンカチをあげて。
その後カレーを一緒に食べたらいつまでも帰らなかったので、そのまま無事にマイファミリーへ。

『あたしのカレー気に入った?』

その次に迎えたツボンヌことツボツボは、ちょっと砂地っぽいとこでキャンプしてたらいつの間にかいた。
正確にはカレー食べに来てた。突然の来客…

『フツー味だけど』

で、不思議とうちのカレーを気に入って、ツボンヌも仲間に加わった。
カレーの力って偉大だわ。自分で言うのもなんだけど、めっちゃおいしい!わけじゃないのに。
ともかく、エンジンジムを突破してから手持ちは増えたというわけ。

「ね、ヌメた!……あれ?」

そして今日は新しく入った彼らの持ち技を披露してもらっていた。
残念ながら野生のポケモンが全然出てこないので、ミッキュンvsツボンヌの模擬バトルで確かめる。
ちなみに以前キリくんは張り切って見せてくれたけど、ナマコさんはめんどくさそうだった。塩対応。

「ヌメたー?」

噂でしか知らない技の数々にテンション上がっていたあたしは、後ろを見てヌメたがいないことに気付いた。
さっきまでナマコさんとそこでおしゃべりしていたはずなんだけどな。どこ行ったんだろ。

「ナマコさん、ヌメたは?」
「……ブッシ」

体を左右に振って知らないと言うナマコさん。隣にいるキリくんも困った顔。
変だと思いながら辺りを見渡してお馴染みのまんまるパープルボディを探す。

「ヌメたー?ヌメたさーん?」

いつもなら元気よくヌメ!ってお返事があるのに、静かなままだ。
ミッキュンとツボンヌにも流れる微妙な空気。…待って、これ、まさか

「……家出…した……?」

ここ2,3日の様子を思い出す。
最初は大所帯になりキャッキャしていたヌメたは、ちょっと元気がなかった。
疲れているのかと不必要に構うことを控えていたけど、原因が疎外感だったら。

「…ヌメた!ヌメた!?」

一気に血の気が引いて、慌てて木陰など隠れられそうな所を覗き込む。
でもいない。どこにもいない。ヌメたが、いない。

「ヌメたー!ヌメた、どこー!?」

この世界に来てから、いつだって彼はあたしの傍にいた。
甘えていたんだ。バトルも道中も、ヌメたはいつだってリードして守ってくれてたから。
大丈夫だからと放って置かれる寂しさは、誰よりも自分がわかっているはずなのに。

(どうしよう、どうしよう)

もし愛想を尽かされてしまったら。それだけならまだいいかもしれない。無事でいるのなら。
でも。
家出の途中で凶暴なポケモンに襲われていたら?他のトレーナーに狙われていたら?

二度と会えなくなって、しまったら?

「〜〜っ、ヌメたぁ!!!」

まだ間に合うかもしれない。幸いにも彼の匍匐スピードはとてもスローだ。
走れば追いつく可能性なら充分あるだろう。急がなきゃ。手遅れになる前に。

「みんなこっちいて!ヌメた探して来るから!!」
「ナママァ!?」
「キュ、キュッキュー!?」

ごめん、今は気にしてる余裕ないんだ!
騒ぎ出したみんなを置いて走り出す。
慌てたあたしはすっかり忘れていた。ワイルドエリアに潜む危険を。

「ぃ……」

大声で刺激してしまったのだろう。
闊歩していたピンクの巨体がゆっくりと振り返る。
このエリアを根城にしている、キテルグマ。

(やばい!!!)

ついこの間も同じことしたな、なんて思う間もなく引き返す。
ドスンドスンと揺れる振動。追ってきてる。みんなに遭遇しちゃう。

「みんな隠れて!キリくん絶対隠れて!!早く!!!」

なりふり構わず叫んで、固まっていたみんなを散らす。
キテルグマの迫る気配にボールへ戻った確認もできなかった。

「う、わ!」

たいあたり?とっしん?どちらにしても凄まじい威力だ。
何かがぶつかるような音に空気がビリビリ震えた。そして、静寂。
自爆したかと楽観視するあたしは、やっぱり不用意だったと思う。

「クー」

ピンピンしてた。背後まで来てた。目が合った。
ものすごくでかい。大きな瞳に、真っ白な顔の自分が映ってる。

「ぬ、めたに…」
「……」
「あや、まんな、きゃ」

人間って絶体絶命の時でも、わけわかんないこと、口走れるのね。
その時あたしの頭にあったのは、怖いとか終わったとか以上に、謝らなきゃいけないってことだった。

「クー」

澄んだ瞳。うちのヌメただって、つぶらなかわいいおめめ、してるのよ。
全然関係ないね。バッキバキに骨折られるのかな。伸びてくる腕がスローに見える。

「グ!?」
「ぅわ!?」

掴まれそうになった瞬間、バチバチィッ!と強い静電気が流れた。
それでキテルグマが怯んで―――

「メエリャアアアアア!」



「ごめんね、ヌメた。嫌な思いさせちゃったね」

上から降ってきたヌメたがのしかかりでキテルグマを撃退した後。
あたしは座って彼と話をしていた。
というか相変わらず君すごいね…のしかかりヌメラverなんて軽くて大したことないと思ってたのに。

「あたし今までヌメたしかポケモン知らなかったからさ」

ヌメた、いつから元気なかったのかな。
本当はもっと前から落ち込んでたのかな。
そんなこともわからないで、トレーナーなんて。

「家族が増えて浮かれて…それで放置しちゃうなんて……」

この世界に来たばかりの時。なんだか全部があやふやだった。
夢の延長みたいな。実際そう思っていたし。
それを現実に変えてくれたのはヌメただ。触れた時、血の巡るような感覚がして。

「…ごめんね…」

ようやくあたしは、地面に足をつけられたような気が、したんだ。

「ヌ…ヌンメェ〜〜〜メエラア〜〜〜」
「ぅ…ごめ……」

とうとう泣いてしまった。あたしが。
ヌメたも触発されたのか、わんわん泣きながら擦り寄ってくる。
彼の身体に触れると安心した。ほら、血が巡ってるでしょう。

「ゥメェリャア〜〜〜〜」

結局、ボールから出てきたみんなに慰められるまで、あたしたちは一緒にメソメソし続けた。
ちゃんと仲直りした。






2023.01.13