― わたしっていったい
― 誰なのかしら
― ああ、それって
― 大いなる謎ね
「できたよ〜」
今日も今日とてカレーのランチです。
味変してるから飽きないのか、みんないつも通り集まってくる。
「食べたらどこ探検しよっか」
ワイルドエリアデビューして気づけば2週間。
あたしはいつものように落とし物を拾いつつキャンプを楽しんでいた。
大所帯になったし。彼らと遊んでいるとあっという間に時間が過ぎるのだ。
(みんなどんどん進んでるんだろうなー)
テレビやネットでジムチャの状況は随時更新されているけど、あまり追っていない。
気にならなくもないが、優先順位としてまずは拾い物を集める、ようはお金を貯めることが一番。
でも一応とはいえ参加している身である以上、ニュースを目にするとね。心乱されるというか。
だからあえて触れずに日々を過ごしている。幸いダンデさんも何も言ってこないし。
「キュキュ!」
「ンメラァ〜?」
「どうしたの?…あれ」
「あ……」
騒がしくなった方を見ると、そこにはハニーなおめめ。
懐かしい!(気がする)
「ホップ?久しぶり、どうしたのこんな所で」
「それはこっちのセリフだぞ!まだナックルに行ってなかったのか?」
「うん、まあね」
「ミッキュウ?」
「ヌメンラ、ラメラーラ」
「ブシ」
「みんなーお客様ですよー」
突然やって来たゲストに興味津々な面々…いやミッキュンとキリくんだけか。
ナマコさんはスルーしてるし、ツボンヌはカレーに夢中だし、ヌメたは元々知り合いだしなー
「…手持ち、増えたんだな」
「そうそう。ヌメたと頑張ったんだー」
というかヌメた先輩が頑張りました。ナンパを。
あたしは応援してただけだしなー
「…そっか。ナナシも…強くなるために、努力してるんだな」
「いや強くっていうか…」
ん?なんか元気ないな。
いつもの溌剌としたキャラクターはどうした?
と茶化せる感じでもないので、そっとしておこう。
「ホップも一緒にカレー食べよ?」
「俺は…」
「フツー味だけどね。ちょっと待ってて」
予備のお皿にそこそこ盛り付けて、と。
男の子だから足りないかもだけど、おかわりしてもらえばマーイーカ。
「そんなことってあるのか?」
「ね。ビックリしちゃった」
キリくんが助けてくれたという話をすると、大きな目を更に大きくしてホップは驚いた。
あたしも後から図鑑読んでヒエーってなったもんなー
でもうちのキリくんはやさイケ(やさしいイケメン)よ。
「ミッキュンは、なんか橋?渡った後に草むらで会って」
「ああ、霧が出てる時は遭遇しやすいみたいだな!」
「ツボンヌは、なんか砂?っぽい所でキャンプしてたらカレー食べに来て」
「ツボツボって本当にカレー好きなのか…Tシャツのデザインだけだと思ってたぞ」
みんなとの出会いストーリーを展開すると、ホップはちょっとずついつもの感じを取り戻した。
うんうん、君にしょんぼり顔は似合わないよ。
「せっかくパーティー増えたのに、なんでナックル行かないんだ?」
「一応行こうかなとは思ってるんだけど、何回も橋渡ってたら疲れちゃって」
「…何回も橋?」
「だからいつもこの辺でキャンプしてるんだよねー」
「メー」
お片付けしながらヌメたも相槌。かわいいなあ。
でもホップはなぜか黙り込んでしまった。何か悪いこと言ったかしら。
「あのさ」
「なーに」
「ナナシって、もしかして方向音痴か?」
「なんで?」
「ナックルに行くための橋は一つしかないぞ」
「……」
「……」
「……実はそうなんだよねー」
あーあ。とうとうバレちゃったよ。
別に隠してたわけじゃないんだけどさ、ほらダンデさんという大御所がいるじゃん?
だから必然的に隠れてただけで、うん。
「それでナックルに辿り着けなかったのか!?」
「違いますぅー。ワイルドライフを満喫してただけですぅー」
これはガチ。あたしはジムに挑戦するつもりは全然ないのだ。
そのうち一応行こうかな?くらいには思ってたけど。
「変だと思ってたんだぞ。いつまで経ってもナナシが次のジムに来たってニュース流れないし」
「マイペースマイペース」
「それは…そうかもしれないけど」
「だってキャンプしてたらあっという間に一日が終わっちゃうんだもん」
「…本当にマイペースなんだな」
食後の運動やおしゃべりをするみんな。
でもホップは未だにウールーやサルノリをボールから出さなかった。
「…なあ」
「なーに」
「…ナナシは、さ」
「うん」
「……自分が弱いせいで、アニキに恥かかせてるって思ったこと、ないか?」
ははーん。なるほど、誰かに嫌味を言われたのか。
それでこんなに落ち込んでるんだ。ダンデさんも幸せ者だなー
「ないよ。一回もないし、これからもないよ」
あたしの即答に、驚いた表情をするホップ。
君は優しい子。だからきっと、真正面から受け止めてしまうんだろう。
「だって、あたしはダンデさんのためにジムチャしてないもん」
「え…」
「もしダンデさんが、あたしを最強無敗!俺が育てた!みたいに宣伝してるなら話は別だけど」
そうだとしたら、敗北は彼の顔に泥を塗ることになる。
けど実際は推薦状をもらっただけ。それ以外に何もない。
「そうじゃないでしょ?だから、あたしの負けは誰にも関係ないよ。勝ちもね」
「でも」
「それに対して何か言う人は絶対いるけどさ。そういう人って、何にでも言いたいだけの人だし」
あたしは以前、ホップが負けた後言ったセリフを聞いたことがある。
とても印象深いそれをよく覚えていた。
「『勝って嬉しい、負けて悔しい。それを繰り返して強くなる』、んでしょ?」
「……」
「そもそも、あたしの弱さ程度じゃ、ダンデさんの名誉にかすり傷も負わせられないって」
大好きで憧れで。世界一のファンだからこそ、無視できない中傷。
すごくショックだったよね。けど、ジムチャレンジ中の成長というのは、処世術も含まれているはずだ。
「ホップはダンデさんのためにジムチャしてるの?」
「違う!俺は…俺は、強くなって!アニキを倒して、次のチャンピオンに…」
「じゃあよくない?言いたいやつには言わせておけば」
我ながら何の優しさもないアドバイスだわ。
でもこういうのって、他人があれこれ言ったって何の意味もないからなー
手探りでも自分なりに答えを見つけて行くしかないよ。
かつてあたしもそうだったように。
「多分だけど。そのセリフ、きっとその人が一番言われたくないことなんだろうね」
「え?」
「知ってた?人ってね、自分が一番言われたくないことを一番ひどい悪口にするらしいよ」
なーんてね。それっぽい嘘でーす。
実際のところは知らん。真実かもしれないし、そうじゃないかもしれないし。
でもまあ、視点を変えるっていうのも必要ってことで。
「その人、誰かのために参加してるんだろうね。カワイソ」
「なんでかわいそうなんだよ!」
「だってジムチャは誰にでも与えられる機会じゃないんだよ?せっかく心身共に成長できるチャンスなのに」
なんとなく。なんとなーくだけど。
上から目線のエリートくんが思い浮かんだ。
「誰かの面子とか献身とか、そんなので消費するなんてもったいないじゃん」
「……」
「その相手がいなくなった後、自分に何も残らなかったりするし。そっちの方が最悪だと思うけどね、自分にもポケモンにも」
己の人生が他人に生きられない以上、結局悔いの残らないようやって行くしかないのだ。わたしたちは。
…あーなんか無意味に説教っぽいことしてるかしら。やめよ。
「とにかく。世の中、悪口言うやつなんて腐るほどいるんだし、そういうのは所詮雑音。構うだけムダ」
「…ナナシって、意外と大人なんだな」
「なにそれ。失礼しちゃう!まあでも、これはあたしの考え方だから。ホップが納得できる答え、早く見つかるといいね」
大人ですけど?リアルに中身は大人なんですけど?
でもホップは少しだけ笑っていた。寄り添えなくてごめんね。
「きっとダンデさんも、同じこと思ってるよ」
躓くのも、壁にぶつかるのも、すべては歩みを進めているから。
このひと時が、前を向くため苦しむ君の、ささやかな休息になりますように。
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