21


こんにちは。毎日パトロールに励むリーグスタッフだ。
本日は私の目にした不思議な光景を話そうと思う。

「…のすごく…い!?も……い見せ…!」

ローテーションでこもれび林の担当が回ってきた私は、通常通り既定の場所で待機していた。
離れた場所にいるのはジムチャレンジャーのナナシ選手だ。
彼女は一番にエンジンシティを突破したはずだが、まだナックルへ出向いていないようだった。

「おお〜!ミッ……ンすごい!」

このワイルドエリアで仲間を増やしたらしい彼女は、ミミッキュやツボツボに拍手をしている。
今まで手持ちはヌメラのみだったはず。喜ぶ気持ちはわからなくもない。

「てか……ンヌも、さ…き逆に…うげき…がって……ね?……レ!?何!?」

先日、同僚が鼻息荒くナナシ選手の魅力を鬱陶しいほど語ってきたことを思い出す。
テレビ越しだと淡々と見えたが、はしゃいでいる姿は…うん、まあ、かわいい。
アイツの言うこともわからなくないかもな。

「ね、ヌ…た!………れ?」

ヌメラがいなくなったことに気付き周囲を見渡したナナシ選手。
たしか…さっきナマコブシと話した後、なぜか木に登りはじめたよな。
意味不明な行動に疑問を感じていたため、私は記憶していたのだ。

「ヌメたー?ヌメたさーん?」

しかし、ここで口を出してはいけないもの。
ジムチャレンジとはポケモンバトルの腕を磨くだけではない。
道中に降りかかる様々な困難を通じて成長する大事な機会なのだ。

「……………した……?」

よって我々スタッフも、それぞれの自主性個性を尊重し、積極的なサポートを禁じられている。
当然、彼らを危険から全力で守るものの、本人たちから打診がない限りは見守りに徹するのみ。
だからこの時も、私はヌメラが木の上にいることを知っていながら黙秘していた。

「〜〜…、…メたぁ!!!」

真っ青になり慌てる彼女の様子に胸が痛む。
どうか頑張ってくれ。すぐそこから君を見ているんだ…

「み…なこっ……て!…メた探…て来…から!!」
「ナママァ!?」
「キュ、キュッキュー!?」

(な、なにぃー!?)

ところが、ナナシ選手はあらぬ方向へと走り出してしまった。
彼女のポケモンたちも予想外の行動を止めようとしたが、あっという間に行ってしまう。

「………ブシシ!ナマ、コブッシッ!!」

ちょっとした悪戯だったのだろうか。
ナマコブシに怒られてヌメラも動揺しているようだ。
案外向こう見ずなんだな、あの子……

「みんな隠れて!キリくん絶対隠れて!!早く!!!」

そうのんびり見守っていたことが悔やまれる。
テリトリーに踏み込んでしまったのか、彼女はキテルグマに追われて戻って来た。

「う、わ!」

容赦なく出されたとっしん。逸れたのは幸いだったが、これで終わるはずない。
興奮状態のポケモンをこれ以上刺激しないよう注意しながら彼女の元へ向かう。

「クー」

私の相棒はケンホロウ。キテルグマなら追い払うのも簡単だ。
ホルスターのボールを彼らに目掛けて投げる。
しかし―――

(出てこない!?)

弧を描いたまま地面に落ちたボール。こんな時に不具合だと!?
別のポケモンを出そうと自分の腰に目をやった直後、10万ボルトのような音がした。

「ぅわ!?」

技が直撃してしまったのか!?
血の気が引いた瞬間、上から声が降ってくる。


「メエリャアアアアア!」



「…ごめんね…」
「ヌ…ヌンメェ〜〜〜メエラア〜〜〜」
「ぅ…ごめ……」

少女とヌメラが泣いている。
私は何もしていないのだが…非常に居心地悪く、いったん離れていることにした。
幸い危機も去ったしな。

「ゥメェリャア〜〜〜〜」

それにしても一連の流れはいったい何だったのだろうか。
開かなかったボールを何度も確認したが異常はなく、普通にケンホロウも出てきた。
…念の為、修理に出しておこう。有事の際に同じことがまた起きてはならない。

「…うん。仲直り、ね?」
「ヌンァ〜〜〜ゥエエ〜〜〜」

いつの間にか手持ちに囲まれていたナナシ選手は落ち着いたようだ。
ヌメラは依然泣いているが、私も仕事をせねば。
頃合いを見図り彼女に近付いた。

「ナナシ選手、行動に気を付けてください。あのような場合、逃げる際に背中を見せてはいけません」

改めて、ワイルドエリアにおける危険性や対処法、心構えを彼女に説く。
恐らく何度も耳にしているだろうが、我々が口酸っぱくなるのも仕方がない。
なぜならここは自然が豊かで猛威を振るう野生の地。
足を踏み込んだ以上知らなかったでは済まされず、悲劇だって後を絶たないのだ。

「重々承知しました。今後は細心の注意を払って行動します。ご教示いただき、ありがとうございました」

………。
最近の子はこんな言葉遣いまでするのか?大人びているとは思っていたが…
深々と頭を下げる彼女に戸惑いつつも無事でよかった旨を伝える。

「では、これで。大変でしょうけれど頑張ってください。くれぐれも安全に」
「あ、えーっと…あのー…ちょっとお伺いしたい、んですけど…」
「何でしょうか」

立ち去ろうとする私をなぜか引き止めるナナシ選手。
先程のビジネスチックなセリフはどこへやら、何か言い辛そうにしている。

「どうしましたか」
「あ、の…全然大したことじゃないんです、けど…」
「?」
「…さっき、泣いてるとこ…見てた…んです、よね…?」
「……えーっと……」

流石に堂々と見てましたとは答え辛い!!!
涙を流したせいか、ほんのり赤くなっている目元に余計ドキドキする。
私はどうして!そんなことを聞かれているんだ!?!?

「あの、違うんです。ヌメた家出しちゃったかもってビックリしたっていうか、キテルグマ怖いとかじゃなくて」
「……」
「自分ひどいことしちゃたんだっていう気持ちで、で、でも!いつもはあんな風に泣かない、ですから…」
「……」

私が返事をしていないせいだろうか。
説明しながら、だんだんと彼女の顔が赤くなる。

「な、なんでもないです…変なこと言ってすいません……」
「いえ…見たというか…いえ見たんですが……」
「で、ですよね……」

画面の向こう側や、淡々とした応対から想像できないような表情。
これがまさか…ギャップ萌え……!?

「いつもは、全然泣かないですから」

恥ずかしそうに何度も繰り返すナナシ選手。
その姿にやられてしまった私はその日、同僚に教えられたポケッターアカウントをフォローしたのであった。






2023.01.13