― 人生とは歩き回る影、哀れなる演者
― 舞台にて己が時を大仰に振舞おうと
― 退場すれば一切が消えてしまう
(久しぶりによく寝た…気がする)
アラームより早く目覚めたあたしは、キバナさんを起こさないよう慎重にベッドから出た。
まだ日が昇っていないけれど身体も軽く頭もスッキリしている。昨日は遅かったのにねえ。
(キバナさんの寝顔かわいー。意外と無邪気〜)
なーんてこっそり笑いながら身支度。彼が起きる前に出て行っちゃいましょ。
さっさとしなきゃ誰に見つかるかわかんないし。ジムリの家からチャレンジャー!?なんてゴシップ御免だし。
(気持ち程度の伝言だけ添えて…と。またねキバナさん)
達筆とは言い難い文字で感謝を述べたメモをボードに残し、あたしはそうっと部屋を後にした。
幸い誰にも会わず大通りまで着き、ようやくバッグからボールから取り出す。
「メンリャ!」
「お待たせヌメた。行こっか」
俺たちの戦いは始まったばかりだ!
「普通に死にそう」
ラテラルタウン。ラテラルジム。へと向かう道中で、あたしはそう呟いた。誰もいないからね!
足が棒とか最早そんなレベルじゃない。疲労がやばい疲労が。
(あんなに高低差あるなんて全然聞いてないよ)
古い遺跡は道も整備されておらず、歩くだけでも一苦労だった。
結局抱えていられなくてヌメたは再びハウス。朝満タンになったHPも急激に減少。
野生のポケモンに遭遇しなかったおかげで明るい時間に着けたのがせめてもの救いだ。
ただここからチャレンジは無理。とりあえず場所を確認してから、
「イヌヌワッ!!」
「(あれ、このワンパチ……)」
「ナナシちゃん!!!」
「ナナシ?久しぶり!」
思いがけない二人と再会。
遺跡を調べに来たソニアさんは、ジムの前でユウリにアドバイスを聞いていたそうだ。
「ナナシも意見をきかせてほしいんだ」
「はあ……」
ドウーン!!
生返事をした直後。地震のような揺れに身構える。
すぐに治まったものの、その場にいる誰もが険しい顔だ。
「なんの……音?遺跡の方からきこえたけど?いってみよ!おいでワンパチ」
「私も行きます!」
「え、ちょっと待っ……(早っ!)」
危ない時は避難しましょう、と止める間もなく駆け出す背中。
嫌な予感がするから行きたくなかったのにー!
「もっと!もっと壊しなさい!ねがいぼしを掘りだすのです」
やっぱり来るんじゃなかったな。真っ先にそう思った。
「ねがいぼしを集めれば委員長が認めてくれます!」
アレはいったい誰だったろう。―――ああ、そうだ。
まっすぐなひねくれ者で、
「やれやれ。あなたたちですか……」
意外と熱いハートの、
「ですがそんなことは認めません!だれにもジャマは「このクソガキー!!!!」
考えるよりも先に身体が動いていた。
あたしにしては珍しく、一瞬でカッとなって。
「っ!?な、なにをするのです!放しなさい!」
「放すわけないでしょこのクソガキ!!!」
「なっ……」
完全にタックルだったのに、細身の彼はビクともしなかった。
いつものあたしならあら男の子〜なんて茶化すんだけど。
「あんたね!これ作った人に許可取ってんの!?壊していいって許可もらってんの!?!?」
「はあ!?!?そんなものあるわけないでしょう!!!」
「じゃあ壊しちゃダメに決まってんだろクソガキ!!!」
超えちゃいけないラインってものがある。
君だってそのくらい知っていたはずでしょう。
「さっきから人をなんだと…!」
「勝手に人のもんを壊すのがクソガキじゃなくて何なのさ!バカ!!」
「〜〜うるさい!ダイオウドウ!やりなさい!」
「あ!だから止めろってバカ!!!」
ビートは真っ赤な顔をしていた。頭に血が昇ったんだろう、散々な言われようだったし。
また動き始めたダイオウドウを止めるため、あたしは急いでボールを取り出した。
うちで一番大きな個体はキリくんだ、同じはがねタイプとしてなんとか
― ちょうちょさん
「ぅ゛っ」
なんでこんな時に
― ちょうちょさん
「、っえ」
うるさい
― あなたはいったい
うるさいうるさいうるさい う る さ い !!!
― どこに
「(だまれ!!!!!)」
「危ない!」
どちらが先だったんだろう。
誰かの声が耳に入った方?それとも、例の声が止まった方?
我に返って見上げたら、何かが目前に迫っていて。
「ナナシちゃん!!!」
走る衝撃。パッと散る赤い飛沫。不思議と痛くはなかった。
ただゆーっくりと世界が傾いて行って。
ああ、ほらね。やっぱり来るんじゃなかった、って。
「だから言ったでしょ」
視界の端で真っ青な顔をする彼。さっきとは真逆だ。
それがなんだか可笑しくって、あたしは口を開いたんだと思う。
「バカビート」
その言葉が届いていたかは、わからないけど。
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