お菓子の家にはまだ足りない 1


昔々あるところに、森で暮らす男たちがおりました。
ネズさん、キバナさん、ダンデさん、そしてホップくん。
彼らは森の平和を守りながら、穏やかに暮らしていました。

「なあ。最近変な噂があるの、知ってるか?」
「変な噂?聞いたことないんだぞ」
「ああ…魔女の家があるってやつでしょう」
「魔女?この森にいるのか?」

最初に話を挙げたキバナさんは、ホップくんとダンデさんに説明してあげました。
このところ、森に迷い込んだ子供が帰ってこないのだそうです。
噂では、魔女の家に誘い込まれ食べられているのだとか。

「それなら、すぐ助けに行こう」
「さすがアニキだぜ!俺も手伝うんだぞ!」

ダンデさんは悪を討つことに、いつだって使命感を燃やしているのです。
そんな兄に憧れているホップくんも、一緒になって立ち上がりました。

「待ちなさい。その家は子供にしか見つけられないそうですよ」
「む。それならどうすればいいんだ?ホップだけでは危険だろう」
「丁度この間、若返る薬ができましたから、お前がそれを飲んで行動すればいいでしょう」
「ネズさんって…」
「お前こそ魔女なんじゃねえの…」
「そうか!相変わらずネズは天才だな!」
「アニキ…」
「ホップ、お前マジで気をつけろよ…」

ドン引きするホップくんとキバナさんをよそに、ダンデさんは元気よく怪しげな薬を飲みました。
すると煙に包まれ、15歳くらいのイケメン少年に早変わり。

「すごいな!本当に若くなったぞ!」
「すっげえ!アニキって昔はこんな風だったのか!」
「さすが兄弟だな。よく似てるじゃん」
「そうですね。失敗作だと思っていましたが、ちゃんと効果が出たようで」
「ネズ…お前ダンデ実験台にしたのかよ…」

またもやドン引きするキバナさんですが、身体に問題はなさそうです。
ひとまず調査がてら、ダンデさんとホップくんに捜索させることにしました。

「それじゃあ行ってくるぜ!」
「ホップ、ダンデに先を行かせるなよー」
「わかってるんだぞ!あ、待ってくれよアニキ!」
「ノイジーなやつらですね。まあ何もなければ戻ってきなさい」

こうして、ダンデさんとホップくんは、普段は足を踏み入れない森の奥へと入っていきました。



「アニキ、なんか甘い匂いがしないか?」
「ああ…いったいどこからだ?」

しばらく歩いていると、なにやら甘い香りが漂ってきます。
ダンデさんとホップくんは注意深く辺りを窺いました。

「ん…もしかしてあれか?」
「みたいなんだぞ…」

驚いたことに、お菓子で作られたお家があります。
匂いの元はここで間違いありません。
それにしても、いったい誰が住んでいるのでしょう。

「…なんですか、あなたたちは」
「うわっ!?」
「もしかしてここは君の家なのか?」

突然ドアが開き、細身の美少年が不審者を見る眼付で出迎えています。
ダンデさんは人の好い笑顔で質問しましたが、フンッとバカにしたような顔。

「まさか。こんな悪趣味な家がボクの住まいだとでも?」
「違うならなんでいるんだよ」
「あなたたちには関係ありません」
「なんだよその言い方!」
「落ち着けホップ。なあ君、聞きたいことが…」
「ビート?誰か来たの〜?」

家の中から、高い声が聞こえてきました。
ひょっとすると魔女かもしれません。
ダンデさんとホップくんは緊張しました。

「いいえ。誰も来ていませんよ」
「ちょっと待てよ!俺たちがいるだろ!」
「うるさい人たちですね。お引き取りください」
「ま、待ってくれ!少し話を聞きたいだけなんだ!」

嫌そうに眉を顰めて、さっさと扉を閉めようとする美少年。
慌ててダンデさんはそれを止めます。
単なる事情聴取だというのに、彼に協力する気は全くありません。

「なに騒いでるの〜?…あれ?お客さんじゃん」

何事か見に来たらしい声の主は、なんと美少女でした。
まさかこんなかわいい女の子がいると思わず、兄弟揃って固まってしまいます。
それを見た美少年―――ビートくんは、更に眉間の皺を深くしました。

「お客さんじゃありません。ただの野次馬でしょう」
「野次馬…?あ、もしかしてこの家のファン!?やっぱり芸術だよね〜」
「悪趣味なだけです」
「もう、すぐそういうこと言う!あと勝手に帰しちゃダメっていつも言ってるでしょ!」

迷子だったらどうするの!そう言って背の高い少年を見上げてお説教する女の子。
正直自分も上目遣いで怒られたい。
ダンデさんとホップくんは揃ってそう思いました。さすが兄弟。

「君たち、多分迷子だよね?疲れてるなら入って休めば?」
「…チッ」
「ビート、舌打ちしないの!んもう!」
「俺も叱ってくれ」
「えっ?」
「いや、なんでもない。それじゃあお邪魔するぜ」
「(アニキ…今心の声が出てたんだぞ…)」



「魔女?あ、それあたしあたし」
「そうなのか!?」
「あまり魔女には見えないが…」
「ドジを踏んで子供になったんですよ」
「ビート!勝手にチクんないでよ!」

プンプンしながらも、みんなに食事を用意するロリ魔女ことナナシさん。
彼女は立派な大人なのですが、以前魔法に失敗して幼くなってしまったそうです。
合法ロリか。ダンデさんは密かにウキウキしました。
合法か違法かは微妙なところですが、きっとそれは些細なことですね。

「でもカニバリズムの趣味はないよ?寧ろこうしてご飯食べさせることはあるけど」
「そうか…じゃあただの噂だったんだな」
「もうわかったでしょう。明日になったらさっさと帰ってくださいよ」
「(ナナシから引き離したいのバレバレなんだぞ…)」
「なにか?」
「べつに」
「準備かんりょー。それじゃみんなで食べよ!」

ニコニコとかわいらしい笑みを浮かべるナナシさん。
美味しいご飯を平らげたダンデさんとホップくんは、暖かな寝床に入りました。



(ん…?ああ…身体が元に戻ったのか)

その夜。ベッドの窮屈さにダンデさんは目が覚めました。
ネズさんのくれた薬は、数時間しか効果がないようです。

「……♪」
(なんだ?…ナナシ?)

誰かの気配を感じそっと寝返りをうつと、ナナシさんがビートくんを覗き込んでいました。
彼女の寝室は別のはず。なぜここにいるのでしょう。

「いい感じに育ってきたね…あーあ、早く大きくなんないかなあ」
「(一体何の話だ…?)」
「それにしても、人間の噂ってのも侮れないなあ…気を付けなきゃ」
「(!!!)」
「でも今日は2人もゲットしちゃった♪やったね〜♪」

小声で独り言を呟いているようです。
ホップくんも覗き込んだ後、いよいよこちらに近づいてきます。
ダンデさんはバレないように寝たふりをしました。

「それにこのコはほとんど出来上がってるし…」

細い指で、布団の上からダンデさんの胸板をつう、と撫でます。
そのまま緩やかに線を描いて、ソコに辿り着きました。

「味見しちゃおっかな…♪」
「君の夜這いならいつでも歓迎するぜ」
「!?え、な…ぐむっ!」

驚いているナナシさんの口を大きな手で塞ぎ、さっさと連れ出すダンデさん。
暴れていますが、大人に戻ったダンデさんの前では無意味な抵抗です。

「残念だ。やっぱり悪い魔女だったのか」
「あ…そ、それは…」

真っ青になるナナシさん。完全に黒の反応です。
ダンデさんが厳しい目で見下ろすと、小動物のようにビクッと震えました。

「さあ。お仕置きタイムだぜ、ナナシ」



2020.10.17