04


― 私はとても頭が切れるのさ
― ときおり
― 自分の発言することでさえ
― 理解できなくなるほど、ね



「やっぱりトレーナーだなあ」
「ヌメ!」

文字を覚えるのは案外簡単だった。元々言語を学ぶのは得意だし。
読むのはだんだん慣れてきた。書くのは苦手だけど。

ということで、早速ホップから借りた本を呼んでいるわけだが。
予想通り、子供に許されるお金のやり取りはポケモンバトルだけだった。
てかこんな幼いトレーナーもいるの!?ピカチュウとかイーブイの格好してるじゃん!

「でもさ〜負けたら逆に払わなきゃいけないのよね〜」
「ヌメ〜」

今日も今日とて、ホップはユウリと外出中だ。
午後はあたしも一緒に行こうかなあ。特訓しようかなあ。
ヌメラって最弱のドラゴンらしいし。随分失礼な図鑑説明よね。
かわいいは正義なんですけど?最強なんですけど?

「勝つには作戦も必要よね」
「メア」

能力値だとか種族値だとか、勝利を導く大切な要素は色々ある。
でもそれらは完全に個体依存になっちゃうから、あたしはあんまり好きじゃない。
生まれついたものでアレコレ判断されるのは、人間だけでじゅーぶん。

「…あ!結構良いの思いついたかもしれない!」
「リャッ?」

雑誌のバトル指南をパラパラめくっていると、あることに気づく。
これはもしかしたら使えるかもしれない!念の為、映像でも確認してみよう。
不思議そうなヌメたが入っているボウル(乾燥対策で水を張ってる)を抱えて、あたしはテレビをつけた。
ホップはダンデさんのバトル以外にも色々と録画をしている。参考資料は十分だ。

「よし!ヌメた、一緒に強くなるよ!」
「ヌメェ!」

そしてみんなからお金を巻き上げてやんよ!



「ユウリはまだ会ってないよな。いっしょに来いよ!アニキを自慢したいんだ!」
「うん!」

いよいよダンデさんが帰ってくる当日。
キバナさんとのバトルもきっちり録画設定して、朝から浮き足立つホップ。
ユウリもワクワクしている。二人ともかわいいなあ。
あたし?相変わらず寝不足なのでぼーっとしてます。

「ほら、ナナシも行くぞ!」
「(やっぱあたしもですかー…ねむ)」
「ナナシちゃん、早く早く!」

でもキラキラと瞳を輝かせる二人には敵わない。
ヌメたの入ったボウルを抱えて、あたしも家を出る。
ブラッシータウンまでは一本道。
途中で草むらもあるけど、ユウリはポケモンを持ってないし、最短ルートで駅まで向かう。

すると橋を渡る前から、人集りができているのがわかった。
考えなくてもわかる。ダンデさんが到着したのだろう。
うーん。あたし、ああいう騒がしいの嫌いなんだよね…

「われらが無敵のチャンピオン!」
「あんたとリザードンは最高だ!」
「ダンデさん、凄い人気だね!」
「へへっ…」

周囲の声援に応えるダンデさん、興奮するユウリ、笑顔で腕を組むホップ。
よしよし、この様子ならあたしがいなくなってもわからないな?

「ヌメた、ちょっと草むらお散歩しよ」
「ラー」

特訓にもなるし、ちょうどいいや。まだまだ賑わっているその場を後にする。
人が多いのは嫌いなの。寝不足なら尚更ね。

そうニヒルを気取っていたあたしは、この後ホップとユウリに怒られました。
一人で勝手に離れるなってさ。子供に叱られるあたしって…



「ユウリはヒバニーにするんだ」
「うん!みんなかわいくって迷っちゃった」
「だよねー迷うよねー」
「ヌ゛!」
「あたしはヌメたが一番だよー」
「ヌン♪」

いやでもメッソンとかめっちゃかわいくない?ホップのサルノリもかわいいけど。
素敵なポケモンたちによるご機嫌なアピールタイム、最高すぎる〜
アンコール!アンコール!

「ナナシくんは本当にいいのか?」
「ええ。あたしにはヌメたがいますから」
「メリャ!」

ダンデさんが連れてきたのは三体。ヒバニー、サルノリ、メッソンだ。
あたしもどうかと言われたけど、丁重に断った。
正直ポケモンという存在にまだまだ慣れず、ヌメたのお世話だけでも手がいっぱい。
そこに新しくまた仲間をという余裕はなかったのである。

「オマエたちがポケモントレーナーかどうか、俺が見届けよう。二人で勝負するといい!」
「はい!ホップ、バトルしよう!」
「もちろんだぞ!手加減しないからな!」

おーなんか熱い展開になってる。若いっていいわね。
ダンデさんも腕を組んで見守ってる。若いっていいわね。

「どちらのポケモンも、ナイスファイト、グッドファイト!」
「くっそー!今度は負けないぞ!」
「私だって、また勝ってみせるから!」

うんうん。良き友であり良きライバルって感じだね。
結果はユウリの勝利。やっぱり主人公なだけあるなあ…才能ハンパない。

「あたしもバトルしたい。ね、ヌメた」
「メ゛!」
「え、ナナシってバトルするのか?」
「するよ!秘密の特訓してたんだから。ね、ヌメた!」
「メ゛ー!」

訝しげなホップに、意外そうな顔をしているユウリ。
それもそっか。このところ、お勉強と称して別行動してたもんね。
でも実は密かにヌメたと訓練していたのだ!

「それならユウリくんとバトルしたらどうだ?ヒバニーを元気一杯にするぜ」
「ありがとうございます!ナナシちゃん、私負けないよ!」
「それはこっちのセリフだよーというか絶対負けられないし」

渡せるお金ないんすよ、自分。
でもその言葉をポジティブに捉えたのか、男子二人は熱いな!って騒いでる。
違います、お金ないだけなんです。だから負けられないんです。

「いけっ、ヒバニー!」
「ヌメた、ファイト!」

庭のバトルフィールドに繰り出されたポケモンたち。
ヌメたもやる気満々だ。ふふふ…あたしたちの作戦に火がつくぜ!

「ヌメた!ヌメラメラ、ンメーア!」
「えっ?」
「うん?」
「??」

向かいにいるユウリも、フィールド外のダンデさんとホップも、めちゃくちゃポカーンとしている。
だがな…バトルは始まっているんだぜ!この隙も作戦の恩恵だ!

「リャッ!」

この場で唯一、意味のわかっているヌメたはあたしの支持通りたいあたりをする。
そこで我に返ったユウリも反撃してくるが、まもるでそれを防いだ。

「ヌメラメラ!ヌンメッ、ヌンメッ!」
「ヒバニー、もう一度たいあたり!」

お互いの身体がぶつかりあう。でもヌメたは柔らかい。
だから、たいあたり自体に然程強さはない。
大切なのは、そのボディだからこそ衝撃を吸収する。
つまり弾かれない…相手の懐に入った状態を維持しやすい。

「ヒバニー…!」

至近距離でみずでっぽうを喰らったヒバニーに追い打ちでもう1回。
ほのおタイプには効果抜群だ。ヌメたは攻撃を終えささっと元の位置に戻る。
そして、フラフラになったヒバニーは目を回して崩れ落ちた。つまり…

「やったー!ヌメた、勝ったぞー!」
「ヌメ〜!」
「作戦成功だ〜!」
「ヌメ〜!」

よかったー!お金請求されなくてよかったー!
あたしはヌメたを抱き上げてシャルウィダンス。
ほんとはキスもしたいけど、このコの粘液は雑菌だらけらしいから…エアキスに留めておこう。

「ナナシちゃん、強いね!はい」
「あっ、ほんとにもらっていいの?ほんとに?」
「さっき私とホップのやり取り見てたでしょ?いいんだよ!」

ニッコリ笑うユウリ。かわいいなあ優しいなあ。
年下からということに些か抵抗はあるが、お金を受け取る。
まだ先は長いな…でもこれで稼ぐ方法は確立できたぞ!一安心。

「なあナナシ。さっきのいったい何だったんだ?」
「さっきのって?」
「ヌメラの鳴き声真似してなかったか?」

頭にハテナマークがいっぱい出ているホップ。
仕方ない、説明してあげましょう。全然大したことじゃないけど。

「あれね、指示を暗号化したものなの。ヌメラメラならたいあたり、ンメーアならまもるって」
「なるほど…それは自分で考えたのか?」
「ええ、まあ」

ダンデさんも加わって、なるほどなるほどと何度も頷いている。
そう、あたしの作戦とはポケモンに出す指示の暗号化だ。

意外なことに、どのトレーナーも基本的に技名を声高に叫んでバトルしている。
あたしは単純に、それ相手にわかんない方がよくない?と思ったので、鳴き声に置き換えた。
こうすれば、こちらの選択が悟られず、相手の選択はわかる。一石二鳥ですわ。

「素晴らしい作戦だな!キミはきっと凄いトレーナーになるだろう。これからが楽しみだ」

別に凄いトレーナーっていうのを目指しているわけじゃないけど…
こうして真正面から褒められると悪い気はしないっていうか嬉しい。もっと言ってください。

「ヌメッ!」
「うんうん、一番の手柄はヌメただよねー」

ダンデさんにエッヘンと胸(?)を逸らすヌメた。
そうそ。最弱のドラゴンだなんて、誰にも言わせないもんね!





2020.10.21