ハッピークリスマスイヴ パーティー編


「お、ホップも正装なんだな。似合ってるぜ」

会場に足を踏み入れたキバナは、同じく到着したばかりのホップに声をかけた。
本日、リーグ運営委員主催のクリスマスイブイベントを行っている。
イベント限定のトーナメントも終了し、打ち上げも兼ねた関係者のパーティーが始まるところだ。

「慣れないから変な感じなんだぞ」

基本的には内輪の集まりであるものの、ドレスコードは存在している。
平素と違う正装に身を包んだホップは、どことなくぎこちない。

「ホップ、お疲れ様!」
「ユウリ!ユウリもその恰好なのか?」
「そうだよ!せっかくだからみんなで揃えようって」
「いいじゃんいいじゃん。華があって」

近寄ってきたユウリは、いわゆるミニスカサンタの服を着ている。
彼女だけでなく、マリィやルリナ、そしてホップと会場に入ったソニアもそうだ。
女性に関してはドレスコードとは名ばかりのもの。
その為ミニスカサンタで統一しているらしい。16歳の元ジムリーダーを除いて。

「ってことは…ナナシもミニスカサンタか?」
「え!?そうなのか!?」

ふと、キバナは疑問を口にする。
思わず食い気味になるホップに、ユウリは苦笑した。

「それが…ギリギリまで外に出てるから、って断られちゃって」
「そっかー残念だよな、ホップ」
「な、なんで俺に聞くんだよ!?」
「でもちゃんと正装するって言ってたし、ドレスとかワンピースで来るんじゃないかなあ」

一応ドレスコードは認識しているようだ。
ファッションにこだわりのある彼女なら、きっと綺麗な姿で現れるのだろう。

「へえーナナシの正装か。見たいよな、ホップ」
「うん…って、キバナさん!」

ケラケラと笑うキバナは全くもって悪びれていない。
からかうつもりはないのだが、ホップの反応により結果としてそうなってしまうのだ。

「それで、ナナシはいつ来るんだ?」
「もうそろそろだと思います!さっき連絡あったので」

マリィに呼ばれ、二人の元から離れるユウリ。
慣れた手つきでシャンパングラスを持ったキバナは、エントランスを見た。

「ナナシはどんな恰好で来るんだろうなー?」
「さ、さあ」

明らかにソワソワしているホップ。
頭の中であれかこれかと想像しているのが丸わかりである。

「ちゃんと綺麗だよって言ってやるんだぜ?」
「うん…って、キバナさん!」

赤くなったホップの抗議を受け流しつつ、目線は入り口へ。
するとタクシーが降り立ち、その窓からお目当ての顔を見つけた。
着いたぜ、と教えてやると緊張しだす彼は生粋のピュアボーイ。

「あ、キバナさんにホップ。お疲れ様ー」
「……」
「……」
「どうしたんですか」
「え、いや…え?え??」
「……」

いつものように、マイペースな空気でこちらにやって来るナナシ。
ホップは完全に固まっている。キバナ自身も固まっていた。
それでも言葉を絞り出せたのは、ホップよりも長く生き経験を培ってきたからだろう。

「ホップー?どうしたのー?」
「いや、ちょ…え?ちょっと待って」
「何を待てって言うんですか…二人しておかしいですよ」

おかしいのはお前だろ!?
出かかったセリフを胸に留め、キバナは改めてナナシを確認した。上から下まで。

「…ナナシ。ドレスコードって知ってるか?」
「もちろん知ってますよ、失礼な…だからちゃんとクリスマスの正装で来たんじゃないですか」
「それのどこが正装!?」

とうとう我慢できずに、キバナは勢いよくツッコんでしまった。
なぜなら彼女の服装。大きなニットセーターをワンピースように着て、ブーツを履いている。
それだけなら問題ない。かわいいと言えるだろう。
だが。

「そうだぞ!なんだよそのヨクバリス!」

石化を解除したホップも強く同意する。
そう。彼女が着ている赤と緑のセーター。
これでもかとクリスマス柄が詰め込まれ、極めつけはでかでかと刺繍されているヨクバリスの、顔。

「クリスマスセーターだよ?かわいいでしょ?」
「(ダサッ)」
「(ダサすぎるんだぞ)」

控え目に言ってダサい。いや普通にとてつもなくダサい。
日頃オシャレにしている彼女の気が狂ったとしか思えないデザインだ。
まかり間違っても綺麗だよ、とは言えないレベルのひどさである。

「ナナシ、もう一度聞くけどよ。ドレスコードは知ってるな?」
「だからこれが正しいクリスマスの服装じゃないですか」
「いったいどこの文化なんだよ!聞いたことないんだぞ!」
「ええー?」

微塵も納得していないナナシに、キバナとホップは頭を抱える。
記憶喪失のせいか、彼女は時折とんでもないことを平然とやってのけるのだ。
今回のこれもそのひとつだろう。それにしてもどうしてこうなった。
デリバードのコスプレでもしてくれた方がまだ良かったものを。

「これがクリスマスの正装だもーん」
「え、マジでそのまま行くの!?」
「クリスマスの正装ですもーん」
「待てって、ナナシ!ああー…」

期待していただけに落胆も大きく、ついつい詰め寄るキバナとホップ。
そんな二人にナナシはとうとう機嫌を損ねてしまったようだ。
プイっと顔を背けて歩き出すナナシの背中。そこにもヨクバリスがいた。



んもう。ホップもキバナさんもクソダサセーターの良さがわかってないんだから!
これは歴史あるクリスマスの伝統なんですけど?

「ナナシちゃん!?どうしたのそのセーター」
「クリスマスセーターだよ。かわいくない?」
「うーん…」
「ナナシはかわいか」
「でしょでしょー」

ユウリは微妙そうだけど、マリィは頷いてる。
やっぱりあの二人がこだわり強すぎるんじゃないの。
それにしてもミニスカサンタさん、かわいいなあ。癒される〜

「あらナナシ…とヨクバリスね」
「なにそのセーター!かわいいじゃん」
「えへへー特別に作ってもらったんです」

ルリナさんとソニアさんもミニスカサンタさんだ。
ティーンキュートにアダルトセクシー、どっちも迷っちゃいますね。
おいおいこの会場の男性陣は幸せだなあ、まったく。眼福眼福。

「なんですかその悪趣味なセーターは…」
「クリスマスだけの特別セーターだよ?あげないけど」
「いりません!」
「さすがに今日はピンクじゃないねえ」

ビートも今日はスーツだ。スラッとしてて似合うね〜
彼は劇団で舞台にも上がっているから、着こなしもバッチリだ。
そしてポプラさんはミニスカサンタじゃないんですね。よかっ…いいえ、何でもありません。

「やあ、ナナシちゃん。珍しいセーターだね」
「カブさん!見てください、特別仕様なんです」
「ヨクバリスか、かわいいですねえ」
「ブーツともぴったり合ってますよ」

オシャレなマクワさんに褒められると嬉しい。
ヤローさんもニコニコとデザインを評価してくれる。
こりゃ商品化もアリか?メーカーさんには共有しておこ。

「これはまた随分とアレなデザインで…」
「ネズさんもたまにはイメージカラーをチェンジしてみませんか?」
「しねえですよ」

しねえですよねー。
これからステージに上がるネズさんは相変わらずモノトーン&ピンクだ。
そんなネズさんがクリスマスカラーに染まってたら…やばいめっちゃおもしろい。
テキトーなこと言って絶対クソダサセーター着てもらお!後で!

「ナナシも来たか。大体揃ったようだな」
「ダンデ、お前こいつの服装なんとか言ってやりなさい」
「失礼な。これは由緒正しき伝統服ですよ」
「そんな伝統知らねえ」

あたしとネズさんの会話でも、キョトンとしているダンデさん。
この人ファッションに興味ないから気づいてないかもなー
裾をちょこっと引っ張ってダンデさんにアピール。
ほらほら!ヨクマス(ヨクバリスのクリスマス)セーターですよ!

「…なるほど、ヨクバリスのセーターか!」
「そうです。かわいいでしょ?」
「ああ。よく似合ってるぜ」
「……」
「フッ」

ネズさん、今笑いましたね。
満面の笑みで頷いて、似合ってると答えたダンデさん。
なんだろう…このセーターは好きなんだけど、クソダサいんだよね。
そのクソダサが似合うっていうのは、なんか…ねえ…

「…似合ってますか?」
「ああ!ヨクバリスとナナシがピッタリだ!」
「……」
「ブフッ」

わかってる。この人に他意はないんだ。素直に褒めてるだけなんだ。
でもヨクバリスがピッタリってなに?セーターじゃなくてヨクバリスがピッタリってなに?
そしてネズさん、めっちゃ笑ってますね?
絶対ブサイクリスマスセーター着せてやる!

「ヨクバリスが似合っててかわいいぞ」
「ダンデさんのおばか」
「なっなぜ不機嫌になるんだ!?」

ショックを受けているダンデさんを置いて、あたしはユウリとマリィの所に行った。
我ながらめんどくさいけど、乙女心は複雑なんですぅー
ダサかわいいは似合っちゃダメなカテゴリなんですぅー

「ナナシちゃん、どうしたの?」
「ダンデさんはKawaiiをわかってない」
「そんなプンプンしないで…ラザニアあるよ?」
「いっぱい食べる」
「ケーキは食べないと?」
「ケーキも食べる」
「(ヨクバリスだ…)」
「(ヨクバリスになっとーよ…)」

ごちそうをあれもこれも頬張っていたら、ビートにヨクバリスですねってバカにされた。
割と腹が立ったので、来年は大人しくデリバードになってやらあよ。やらあよ!


おまけ


2020.11.28