「体力差ってご存知ですか」
「それは…素直に謝るぜ」
キレイなベッドで横になるナナシさんを甲斐甲斐しくお世話するダンデさん。
昨日のせいで声も掠れているナナシさんは絶賛ひんし状態です。
「そもそも挿れちゃダメってあんなに言ったのに」
「う……」
仕掛けたのはナナシさんでしたが、途中から主導権を握ったのはダンデさん。
大の男がダメ止めてと懇願する少女を力任せに―――よく考えなくても立派な犯罪ですね。
「あーあ。これでまた最初からやり直しかあ」
「え?」
「カウントが振り出しに戻っちゃったんですよ。んもう、ダンデさんのせいですからね」
強姦魔!出て行ってください!訴えてやる!
こんなセリフを想像していたダンデさんは拍子抜け。
でもナナシさんはそれ以上話すつもりがないようで、ぬるいレモンティーをちびちび飲み始めました。
「怒ってるんじゃないのか?」
「怒る?」
「俺が、その…無理やり…」
「あーそっちですか」
まるで今日の天気でも聞かれているような軽さ。
俺は変なことを聞いてないよな。自問自答するダンデさん。
「あの状況で我慢できないのは普通でしょ。だからえっち自体は別に怒ってないです」
「?」
「あたしが困るのは最後までシちゃうことなんですよ」
「??」
要領を得ず首を傾げるダンデさんに、ナナシさんは説明します。
そもそもナナシさんの呪いは、性に奔放な生活を戒めるためにかけられたもの。
正確には、“男の人のアレを受け入れない日々を繰り返せば解ける”らしく。
「つまり…俺のせいでまた…」
「やり直しですね」
「……すまなかった」
ナナシさんの口振りから察するに、それはきっと長い期間しなければならないこと。
もしかしたらあと数日で元の姿に戻っていたかもしれません。
感情に身を任せてそのチャンスを奪ったのではないだろうか。
そう考えるとダンデさんはひどく暗い気持ちになりました。
「そんな顔しないでくださいよ。いつ戻れるかなんて誰にもわかんないんだし」
「だが…」
「繰り返しとか、そういうの慣れてますから。それに、」
「?」
「…ああいうの、嫌いじゃない…かも、だし…」
「!!!」
消えてしまいそうなほどの小さな声ですが、ダンデさんのお耳にはバッチリ。
よく見るとほっぺたもほんのりと赤くなっています。
何でもない風を装っているドM成り立てのナナシさんに、思わず胸キュン。
「なあ、キスしてもいいか」
「昨日いっぱいしたでしょ」
「今したい。ダメか?」
「…ダメって言ってもするくせに」
「フフ、もちろんだぜ」
返答を待たずにダンデさんは唇を重ねます。
触れるだけのキスを繰り返して離れると、ナナシさんに名を呼ばれました。
「ダンデさん」
「なんだ?」
「あのバラが枯れても、まだ此処にいますか」
握りしめた両手に視線を落として、どこか寂しそうにするナナシさん。
ダンデさんはその硬い拳を大きな掌で包んであげました。
「ああ。枯れてもまた次のバラを咲かせよう。その次も、またその次もだ」
「…知りませんよ。魔女の傍に長くいると、そのうち魂を奪われちゃうんですから」
「そうだな。俺はもう奪われてしまった」
驚きでナナシさんは顔を上げます。
そこには勝ち誇ったようなダンデさんの姿が。
「言っただろう。俺は君の為にバラの手入れを覚えたんだ。これからは君の為に咲かせることを誓うぜ」
「……意外とロマンチストなんですね」
「今頃気付いたのか?」
不覚にも照れるナナシさん。
ダンデさんはニヤリと笑って、華奢な左手の甲に口付けを落としたのでした。
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