− 溜息を吐くが否や 何故かと互いに尋ね合い
− 理由を知るが否や 求めたのです
− 恋煩いの治療法を
「さてと…」
ダンデさんからそ〜っと離れたあたしは急いで下着を履いた。
彼が目を覚ます気配はない。よしよし、そのままスヤスヤしててくださいね。
「どうしよ」
それにしても完全にやっちまった。欲って恐ろしいわね。
欲求不満が解消されたおかげか、意外と冷静な自分がいる。
さあ考えよう。このままじゃダンデさんが未成年に手を出した犯罪者になってしまう。
「…これしかないな」
うん、我ながらバッチリだ。色んな所を最終チェック。
服よし!シーツよし!ゴミ箱よし!メイクよし!完璧です。
「ダンデさーん。起きてください、ダンデさーん」
「ん……」
「ダンデさーん」
「…ん…?」
「あ、起きた。おはようございます」
「………ナナシ!?」
数秒遅れて覚醒したダンデさんは勢いよくガバアッ!と起き上がった。
これ下手なポジションいたら間違いなく頭突きされてたな…危なっ
「すみません、気持ちよさそうに寝てたのに。でもお仕事大丈夫かなって」
はい、ここからが本番です。一瞬足りともスキを見せてはならんぞ…!
ダンデさんは鋭い人だ、ほんのちょっとでもボロを出せば見抜かれてしまうだろう。
「…え…あ…?」
「汗かいてますね。やっぱり一緒にお昼寝してると狭かったですか?」
「あ…?昼寝…?」
「ダンデさん?」
持てる限りの演技力をフルに発揮し、いかにもなキョトン顔を作る。首も傾げて…っと。
当然ハニーなおめめは“信じられない”とでも言いたそうにこちらを見つめている。
「…ナナシ?」
虚を衝かれた状態から抜け出せず、ダンデさんは恐る恐るあたしの名前を呼んだ。
っしゃあ!!!順調だ、この調子です。ただ油断はするなよキープキープ。
「ど、どうしたんですか…いつもは“くん”付けなのに…急に呼び捨てされると照れちゃいますっ」
前髪をちょっといじりつつはにかんで…あざとく!超絶あざとく!あとできればほっぺた赤くしろ自分!
あまりにもテンプレすぎる振る舞いだが、王道は最強って決まってらあよ!
「……ナナシくん?」
「はーい。ってダンデさんさっきから変ですよ?寝惚けてます?」
「…いや…その…」
困惑しながら、あちこちに目配せしているダンデさん。情事の痕跡がないか確認しているんだろう。
が…残念でしたー!そんなものありませーん!
「もしかして夢、見てたんですか?」
笑いながらダンデさんに声をかけると、わかりやすくギクッと反応した。
今度は自身の身体をそれとなくチェックしている。
「ゆ、夢…!?」
そう、あたしの作戦とはいわゆる夢オチだ。
普通に考えたらかなり無理がありそうなものだが、今回に限って言えばそうでもなかった。
いくつもの偶然が重なったのだ。それも良い方向に。
まず、服はお互い脱いでなかった。だからダンデさんのアレをしまって整え、あたしはボタンを留めてもう一度ワンピにすればOK。
それと中出しだったので独特なシミや汚れはシーツに残らず、使用済みゴムもない。
(素股もしてたのにアレな液体が一切付着してなかったのはマジで奇跡だと思う)
ちなみにその他諸々の処理はトイペを使って全部流してある。ここトイレもあってよかったー!
あとは換気をしつつ、服を整えてメイクを元通りに。
ダンデさんの髪も寝かしつける時に手櫛で直しておいた。
どこを取ってもセックスした形跡はない。ゴリ押しすればいける。はず。
「どんな夢だったんですか?」
かなり危険な賭けだったが上手く行きそうだ。
それにダンデさんなら夢オチと思ってくれるだろうという多少の自信もあった。
なぜならこのおにいさん、中身も外見もイケメンだけど、異性関係にはあまり明るくないようだから。
「え!?そ、それは!」
予想通り、信じ始めたダンデさんは真っ赤になって慌てている。
あたしは引き続き知らないふりをして敢えて追及。ピュアっピュアな女の子、装ってやんよ!
「なんで教えてくれないんですかー?」
「み、見てないんだ!夢は見てない!」
「夢“は”ってことは、夢以外に何か見たんですかー?」
「見てない!!俺は何も見てないぞ!!!」
全力で否定するダンデさん、かっわい〜!
でもあんまり長引くとあたしも困るのよね。
ダンデさんにはこの現場から一秒でも早く立ち去ってほしい。
「そういえばさっき机の電話鳴ってましたよ」
「俺は何も!あ、い、いや、すまない…」
「取ろうとしたら切れちゃったんですけど」
「そ、そうか。教えてくれてありがとう」
ちなみにこれは嘘じゃない。突然内線かかってきてめちゃくちゃ焦った。
なんせ隠蔽工作完了直後だったからね。ダンデさん起きなかったからよかったけど。
「あ、また」
「!」
再び鳴り響くコール音にダンデさんは慌てて部屋を出て行った。
あの様子だと、エッチな夢(仮)のことはすぐに忘れてくれるだろう。
これにて一件落着だな!我が演技力に盛大な拍手〜
(やっっっっばい眠い)
一時間程度で仕事を終わらせたダンデさんとご飯を食べ、二人でタクシーに乗っている今。
あたしは尋常じゃない眠気に襲われていた。
(体力的にもとっくに限界超えてるし)
だってセックスした後、横にもならずせっせとお掃除やら後始末やらしてたのよ?
それからお土産買ったりカフェ行ったり…休息取るタイミングがまっっっったくなかった。
「眠たいのか?」
「ん〜…だいじょぶ、です…」
眠いよ!めちゃくちゃ眠いよ!
でもさ、昼寝したのにもう眠い…?みたいに勘繰られたら困るじゃん!
だから必死に睡魔と闘っていたのに(ほぼ負けてたけど)、ダンデさんは笑って寝てもいいと言ってくれた。
「ハロンまで時間がかかるぜ。今日は疲れただろう、着いたら起こしてやる」
「…じゃぁ、お言葉に甘えて……」
「ああ。こっち来るんだ、そのままじゃ風邪を引くぞ」
今は素直に寝かせてもらおう。マジで死にそう。
マントを広げてあたしを迎え入れるダンデさんに遠慮なくもたれかかる。
あったかーい。これは…いい……おふとぅん………
「おやすみ。…ナナシ」
不思議なことに、この時はいつもの夢を一切見なかった。
おかげであたしは、この世界で初めての熟睡を存分に堪能したのである。
→