オオカミさんと赤パーカーさん 1


昔々ある所に、オオカミさんたち(とネコさん)がいました。

「ナナシ、それじゃあ頼んだわよ!」
「はい!任せてください、ムサシ先輩!」

オオカミさん(とネコさん)は、森の中に入ってくる人間を罠に嵌めては食べ物を奪っていました。
なぜなら、このオオカミさんたちは正義の悪いオオカミだったからです。

「大体、人間が森にズカズカ入り込んで来なきゃこんなことにはなんないんだから」
「そうです!勝手に木を切ったりお花を荒らしたり…みんな可哀想です!」

力強く頷くのは、後輩オオカミのナナシさん。
小さい頃ムサシ先輩に助けられて以来、ずっと先輩に憧れてお手伝いをしていました。
そして今日、いよいよ自分だけで獲物を見つけ落とし穴まで誘導するというミッションをもらったのです。

「だからあたしたちで人間を懲らしめてやるのよ!ナナシ、頑張んなさい!」
「はい!頑張ってきます!」
「大丈夫かニャ…」
「オレも心配だぜ…」

先輩オオカミのコジロウさんと先輩ネコのニャースさんは、不安そうに見ていました。
ナナシさんはみんなにとって大事な妹分、それに(お世辞にも)器用とは言えないオオカミなのです。

「なぁ〜に言ってんのよ!それじゃあいつまでも独り立ちできないじゃない!」
「イデッ!それはわかってるけどさあ…」
「大丈夫ですよコジロウ先輩!私、頑張ります!」
「ナナシ、ちょっとでも困ったらすぐに戻ってくるニャ!」
「わかりましたニャース先輩!」

やいのやいの。
賑やかな先輩たちに見送られ、後輩オオカミことナナシさんは意気揚々と出発しました。



「オオカミとネコのトリオねえ…」

一方、こちらはイケメンハンターのキバナさん。
トレードマークの赤いパーカーを着て、森の中を歩き周っています。

「さっさと見つかればいいんだけどな」

オオカミ(とネコ)退治を依頼され、朝から探し回っているのですがなかなか見つかりません。
暗くなる前に片を付けなければ。
そう思ったキバナさんの耳に、何かが聞こえてきました。

「えっと…『こんにちは、おにいさん』…」
「?」
「あ、違う違う!えっと…『こんにちは、おにいさん。あたしと一緒に遊ばなぁ〜い?』」
「……」

よく見ると、離れた木の陰からフサフサのおみみとしっぽが出ています。
キバナさんは息を殺して様子を窺いました。

「先輩はウィンクも…。ウィンク……。ぇぃ」
「……」
「これでいいのかなぁ…?」
「(できないのかよ)」

コソコソしているつもりのようですが、なんというか全部ダダ漏れです。
キバナさんはそっと溜め息をつきました。
目当てのオオカミではなさそうですが、いったいどうしたものか。

「こういう時は行動あるのみ…キャアッ!?」
「え?」

勢い良く飛び出したオオカミさんは、遠くにいたはずのキバナさんが至近距離に移動していたことに驚き尻餅をつきました。
キバナさんもまさかここまで自分に気付いてなかったのかと面食らってしまいます。

「ゴメンな、大丈夫か?」

けれど、キバナさんはハンターという名の紳士。
転んでしまったオオカミさんにさっと手を差し出し労ります。
オオカミさんは戸惑いつつも、ニッコリ笑いかけられ恐る恐るその手を取りました。

「怪我させちまったかな」
「あ…う、ううん」

丁寧に土埃まで払われたオオカミさんは、覚えたセリフをすっかり忘れてしまいました。
なんせこんな優しい人間には出会ったことがありません。
先輩たちが落とし穴に入れるような人間は、いつだってオオカミさんを捕まえようとするのですから。

「そっか、よかった。ところで聞きたいことがあるんだけどさ」
「う、うん」
「この辺に他のオオカミいないか?」
「え…」

予想外の質問に思わず詰まるオオカミさん。
キバナさんは何も知らない様子で話を続けます。

「実は、この森に悪さするオオカミたちがいるらしくてさ」
「!!!」
「オレさま退治するように頼まれてるってわけ。ハンターだから」
「(ハンター!!!)」

なんということでしょう。
優しい笑顔の人間は、オオカミさんたち最大の敵ハンターさんだったのです。

「(どうしよう!このままじゃ先輩たちが!)」
「ちなみに…お前は悪さしないよな?」
「し、しみゃいよ!」
「(噛んでるし)」

目に見えて狼狽えるオオカミさんに、いっそ心配になるキバナさん。
なんというか全部バレバレですから。

「(そうだ!遠くに連れて行けば…!)あ、その、悪いオオカミならあっちにいるよ!」
「お。どこにいるか知ってんの?」
「うん!案内してあげる!」
「そっか〜オレさま助かっちゃうな〜」

フニャリと警戒心ゼロスマイルを浮かべるキバナさん。オオカミさんは密かにガッツポーズ。

「(ご安心ください先輩方!私がお守りします!!)」
「(こりゃ良い獲物拾ったわ)」

使命に燃えるオオカミさんの後ろ。キバナさんも心の中でガッツポーズ。