…やっぱり、何も無いのかなぁ。
「ん?どーした?」
「う、ううん」
隣のキバナくんをチラチラ眺めていると、ばっちり目が合ってしまった。
慌てて首を振った私に笑って食器を洗うキバナくんはかっこよくて優しい。
こうして後片付けをしてくれるのも、私の手が水仕事で荒れないようにと気遣ってくれるから。
ガラルの殿方は紳士でなければいけないそうで、だからキバナくんはとっても紳士でかっこいい。
「ありがとう、拭いた分は戻しておくね」
「サンキュー」
キッチンから出たキバナくんは、迷わずリビングのソファへ向かう。
食後にSNSをチェックしたり更新したりするのがキバナくんの日課。
始めると一時間でも二時間でもスマホに夢中なので、その間に私がお風呂をいただくんだけど…
(あの時キバナくんもプレゼントくれたから…そういうことなのかなぁ?)
実は今日、ホワイトデーなのです。
もちろんお返しを期待してチョコあげたわけじゃないんだけど…
バレンタインの日の男の子って、こんな気持ちなのかなぁ。
「お風呂先にいただくね」
「あ。ナナシ、ちょっとこっち来て」
いつものように声をかけてからお風呂場に向かおうとした私は、キバナくんに呼び止められた。
スマホへ集中していると思っていたのでビックリしたけど、言われた通りソファへ向かう。
「はい、プレゼント」
「わ…あ!す、すごい!きれい!」
「気に入った?」
「うん、ドラマみたい…!キバナくんありがとう!」
真っ赤なバラの向こう側、青い瞳が細められてドキドキする。
いつ見てもキバナくんはかっこいい。すっごくかっこいい。
「ホワイトデーって言うんだな。初めて知ったぜ」
「初めて?」
「ガラルにホワイトデーはないからな〜」
「そ、それじゃ、どうして…?」
キバナくん曰く、朝から私がソワソワしているので不思議に思い調べてみたそうだ。
その結果ホワイトデーに辿り着くキバナくんも凄いけど、私ってそんなにわかりやすいのかなぁ…
「時間なくって、それしか用意できなかったんだけど」
「ううん、ありがとう!バラの花束なんてもらうの初めてだぁ」
バラ特有の柔らかい香りにウットリする。
ガラルの男の人って、カントーの男の人と全然違う。
こういうドラマチックなことも、ガラルの人たちには当たり前らしい。
だから私はいつもドキドキしている。
「でもそれだけじゃなんだからさ。ナナシのお願い何でも聞くぜ」
「うん、うん!…え!?」
花束に添えられたカードを読んでいた私は慌てて顔を上げた。
い、今、『何でもお願い聞く』って!?
「オレさまに出来ることなら、ナナシのお願い何でも聞くぜ?」
「何でも…?」
「なーんでも。だから言ってみ?何してほしい?」
「あの、じゃあ、ふくらはぎ触りたい!」
「…ん?ふくらはぎ??」
つい日頃思っていることがポロリと口から出てしまった。
それを聞いたキバナくんはキョトンとしている。
「あ、あの、キバナくんって鍛えてて、ふくらはぎもガッチリしてるなって、あの、身近でそういう男の人の脚って見たことなくって」
「へぇ〜?」
「どう、なってるの、かなって、その、思って…」
「それで触ってみたいんだ?」
私、とっても破廉恥なことを言ってる気がする。
恥ずかしくなって俯いてしまった。
はしたない女と思われたらどうしよう。
「なーに恥ずかしがってんの?いいぜ、今日は好きなだけ触らせてやるよ」
「あ…う、うん♡」
いつも余裕でオトナなキバナくんに、いつも私はドキドキしてしまう。
これじゃあ心臓がいくつあっても足りないよ…
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