彼が望む最愛 1


この世界でたったひとつだけ―――お前だけが俺のものなんだ



「…………」

陽だまりの中で艶々の黒い猫耳が目立ち、同じく艶々の黒い尻尾も静かに揺れている。
モンド城内で一二を争う有名な猫娘―――西風騎士団のナナシは静かに溜息を吐いた。
脳内を占めているのは、最近のとある睦言。

(……どういう意味……なんだろう……)

彼女の恋人は、よくできた男である。
見目麗しく剣の腕も立ち、頭は切れるが驕った部分もなく親しみやすい。
その人柄から酒場では“安心して孫娘を託せる”なんて称されるほど。

『お前がいるから、託されても困るけどな』

それでいて、恋仲である自分をとても大事にしてくれる。
何かあっても大丈夫なように、とナナシが寮を出て同棲を始め、時間的な擦れ違いがあればすぐに埋めて。
スキンシップも愛の言葉も夜の営みも、彼女が幸せを感じるには十分すぎるほど。

『この世界でたったひとつだけ』

それなのに、このところ、言い知れない”何か”を感じていた。

『お前だけが俺のものなんだ』

こちらを見つめながら口にする彼の瞳は、” 何か ” 、

(……でも…先生やジンさんに、聞くの……)

セリフの真意がわかれば、と自分なりに考えたところでナナシは絶望した。
関係を秘密にしている手前、騎士団以外の人間に聞かなければいけないのだが、交流範囲の極めて狭い彼女に適任の相手がいない。

(……いいのかな……?)

ナナシは現状に満足している。だから些細なことなのだ。
よくわからない”何か”が気になる。その程度なのだ。
生活に影響を及ぼしているわけではない、彼との関係性が拗れているわけではない―――


『 この世界でたったひとつだけ 』


”何か”が、ほんの少し、気になるだけで。