そんな男からは一秒でも早く離れなければいけない
「…………」
頭の中をグルグルと回るディルックの言葉に、ナナシは昼間以上の溜め息を吐いた。
帰宅途中で食材を買い込む予定だったが、そんな気にもなれずトボトボ一人家路につく。
(……どうして……なんだろう……)
ディルックは意地悪をするような人間じゃない。
寧ろ口数が少ない分、発言にはいつだって真意の重みがあった。
ナナシもそれを知っている。だからこそ、
(……どう、して…………)
気落ちしたままドアノブに手をかける。
こんな時、ガランとした我が家に入るのが彼女は嫌いだ。
彼がいれば楽しいリビングは、まるで他人の―――
「よっ。遅かったな」
「…!?ガイア先輩……?」
出迎えられたことが信じられず、何度も目を瞬かせるナナシ。
幽霊にでも遭遇したかのような顔を作る少女に、ガイアはウインクしてみせた。
「この所ずっと夜間勤務だったからな。交代してもらったのさ」
「それ、いいの。だいじょうぶ?」
「気にするな。お前、最近元気がないだろ。こんな時俺が傍にいなくてどうするんだ?」
悪戯っ子のような、それでいて優しく笑いかけるガイア。
芯まで冷えていた身体がじんわりと温かさに満ちて行く。
「おかえり、ナナシ」
「ただいま!」
広げられた腕の中に飛び込めば、しっかりと抱き締めてくれる。
やっぱり自分の恋人は、世界で一番素敵な男だ。
「ナナシ、今日、買い物してない」
「俺が用意したぜ。一緒に作るか?」
「つくる!」
ぎゅうぎゅうとハグされて満足したのか、嬉しそうに隣へ並ぶナナシ。
数分前まであんなに落ち込んでいたなんて嘘だと思える程の上機嫌ぶりである。
「ガイア先輩のごはん、ひさしぶり」
「家では呼び捨てでも良いって言ったろ?」
「外で間違えちゃうもん。ガイア先輩って呼びたいもん」
『ナナシも、アンバーみたいに、ガイア先輩って言いたいよ』
たったそれだけで正式入団を希望した彼女の意思は変わっていないようだ。
他愛ない話を装った再確認。自然と口元が吊り上がる。
「よし!特製の串焼き完成だ」
「ナナシそれすき」
瞳を輝かせるナナシ。
自分の料理が好きなのは当然だ。
だって好きだと教えてやったのだから。
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