まだ何か言いたげな二人を残し、鍾離は伏龍の木に足を運んだ。
大切な友の眠る地。そして、忘れられぬ思い出の地。
『あのね…わたし、弱くて生きられないからって、置いて行かれたの。ずうっと昔の話だよ』
巨体の肩にちょこんと座る彼女は、龍の呼吸で吹き飛んでしまいそうな程に華奢で小さかった。
白い猫を落とさぬようにと若陀龍王は微塵も動かずじっとしている。
『だから…今度は、頑張って、強くなる…から…。……もう、置いて行かないでほしいな……』
消え入りそうな声でぽつりと漏らした本音。
後にも先にも、この時だけのこと。
『姉上に武力は似合わん』
モラクスの耳が、目が、届かぬ範囲など璃月にはなく。
便宜的に”弟”となった若陀龍王もそのことをよく理解していた。
『強さとは力だけの話ではないだろう。姉上には姉上の強さがある、それを磨くのだ』
『わたしのつよさ…?』
ほら、自覚していない。
遥かに離れた洞天で笑みを漏らす岩神と一緒に、巨龍も隠れて笑みを浮かべた。
『荒事はこの弟に任せておればよい』
『えへへ…うん!』
疑問符にうんうんと唸っていた彼女が、ぱあっと明るい表情を浮かべる。
花が咲き、暗雲を晴らす、満面の笑み。
『ずうっと一緒にいようね。モラクスも、若陀も。みんな、一緒!』
全身全霊で己の角を抱き締める”姉”を、若陀龍王もこの上なく愛していた。
みなと同じように。
『大好き!』
璃月を愛し、モラクスを愛し、目に映るもの全てを愛し、また愛された生き物。
「…結局、置いて行ったのはお前の方だったな」
契約の神が唯一、その手からこぼれ落としてしまった―――
「我が妻、ナナシよ」
→それは魔法と彼女は言った