えすけいぷ! 1


「おっ、ナナシじゃないか!」
「パイモン?空も」
「久しぶりだね」

モンド城内、買い物をしていた猫耳娘が振り返る。
久方ぶりに訪れた風の国は変わらず平和で、ナナシもまた変わらず彼らを迎え入れた。

「すごい量だな!これ全部食べるのか?」
「うん。ほとんど料理に使うけど」

食材が詰まった紙袋は小柄な彼女に比較してずいぶんと大きい。
そんなに食べるのかと空は不思議に感じたが、ナナシはフルーツが好きだから嵩張るのだろうと思い直す。

「スミレウリっていう果物があって」
「おいしい?」
「うーん、そのままだとあんまり…」

他愛ない話をしながら、3人で歩き出す。
パイモンが稲妻に自生している果実を教えてやると、ナナシは目を輝かせた。
ところが―――

「だからそれをこうして」
「!ナナシもう行かなきゃ。じゃあね」
「えっ?」
「おい!どうしたんだ!?」

突然会話をぶった切り、ナナシはそそくさと去って行く。
止める間もなく彼女が消えた方向をポカンと眺めていると、後ろから別の声が。

「空。パイモン」
「レザーじゃないか!お前も久しぶりだな!」
「あっ、久しぶり」

フードを被り、相変わらず落ち着いたトーンで話すレザーは一点を見つめている。
それはナナシが不自然に去って行った方向だ。

「……ナナシ、一緒にいたのか」
「うん、でも…」
「急に帰っちゃったぞ?」

二人の言葉に、深く溜息をつくレザー。
どう見ても訳ありな様子が気になり、尋ねてみると。



「あの子はまだ狼ちゃんを避けているのね」

通い慣れた図書室で、リサも同様に溜息をついた。
以前からナナシはレザーを避けているらしい。
彼女も鼻が利くので、近付いただけであっという間に去って行くとのこと。

「レザーは何か思い当たることある?」
「初めて会った時、ニオイを嗅いだら威嚇された」

初対面の際、ナナシの放つ”イイニオイ”に誘われ嗅いでしまった。
元々警戒心の強い彼女は飛び上がる程驚き、毛を逆立てて威嚇したことが。

「そんなことしちゃダメだろ…」
「でもね、その後ちゃんと和解したのよ」

頭を抱えるパイモンにリサが補足する。
レザー自身がまだ社会的マナーだとか付き合い方だとかの知識が乏しい頃の話だ。
リサは悪気がなかったことをナナシに説明し、仲直りしたはずだったが。

「しばらくは何ともなかったのだけれど…いつからかしら」
「切っ掛けみたいものはなかった?」
「…多分、ない」

徐々に徐々に、ナナシはレザーと距離を取るようになり、ついには逃げ出すまでになった。
リサにもレザーにも、最初のアレ以外で記憶に残るようなことはない。

「私から止めるように言うのは簡単よ。ただ、それだと根本的な解決にならないわ」

確かに、ナナシは先生と仰ぐリサから注意されれば素直に受け入れるだろう。
だがそれは一種の命令に近く、溝を深めることは容易に想像できた。

「空、助けてやろうぜ!レザーだってナナシと仲良くしたいんだろ?」
「ああ。ナナシは、俺にとって姉弟子だ…できれば、仲良くしたい」

緩慢に頷くレザーへ、空とパイモンは胸を叩く。
交友関係に悩む友人を助けるのは当然のことなのだ。