唐松に寄り添って - 春風
熱き青春への招き

視点:遠山蘭


「でもよ、あの試合にはホントびっくりしたよな〜」
「目には目を、歯には歯をって言うでしょ。それを体現したまでだって。やられたらやり返す気持ちがあったから、あの結果は当然だよ。…それに私昔から、泣かすけど泣かされない、打ち負かすけれど負かされないってのがポリシーだからね」
「そんなジャイアンみたいなポリシー威張って言うもんじゃねーと思うぜ」

朝の下駄箱で切原と偶然に会った私は、二人並んで会話を交わしながら教室まで向かった。


あれから二日が経った。私は、男女学年関係なく人から避けられるようになった。別にいつもと変わらないと思うし、別に気にもならない。寧ろ過ごしやすいと思える自分の性格は、こういう時には凄く便利だと思う。
しかし、その例外がいたのである。


「赤也〜!お前、今日提出の英作文ちゃんと仕上げたか?」
「げっ!あれって今日提出だっけ?!」
「そうだぜ、今日の放課後まで」
「やっべー!すっかり忘れてた!まだ俺一文しか書いてねーし!」

教室に入るなり切原へと話し掛けて来たのは、クラスメイトで切原とよく共に行動している京極だった。すると京極は、切原の隣にいる私へと視線を向けた。そして色黒の肌によく映える白い歯を覗かせ、朗らかに笑って言った。


「遠山もおはよう。あ、昨日も言おうと思ってて忘れてたんだけどさ、お前のあの試合すっげーカッコ良かったぜ。俺は男だけど、ついほれぼれしちまったよ」
「よな?ほら見ろ蘭、お前けっこーすげぇことやってのけたんだぜ?」
「…ただやり返しただけなのに?」
「実力がないと、まずやり返すことなんてできねーしな」
「…ふーん」


すると京極は、私へと向かってそのごつごつとした分厚い右手を差し出して来た。何かスポーツをしているのだろうな。それを取り敢えず握り返す。


「俺、京極楓。剣道部所属だ。これから宜しくな」
「…遠山蘭、帰宅部所属。宜しく」
「ハハ!帰宅部に所属も何もねーだろ!お前おもしれーのな!」


そう言うと京極は背中をバンバンと叩いてきた。決して痛くはないが、結構な力だ。きっと私でなければきっと女は誰もが泣くレベルの強さだろう。コイツは手加減と言うものを覚えた方がいいというのが、この男に対する第一印象である。
すると入り口付近に立っていた私たちのところに、もう一人の男が入って来た。


「おはよう」
「穂坂じゃん、はよっす。あ、お前英作文終わらせた?」
「勿論僕は終わらせたよ。あ、遠山さんもおはよう」
「…はよ」
「あれ?遠山さん、寝癖付いてるよ」


そう言うなり、穏やかな微笑を浮かべた穂坂優人が私の後頭部の髪を撫で付けた。
この穂坂は、私があの試合を終えた後に「僕も男子テニス部に入っているんだけれど、こんなに清々しい試合は初めて見たよ」と言って私に握手を求めて来たのである。そう言えばコイツ、審判をしてくれていたっけ。


「え、蘭って朝髪の毛セットしてねーの?」
「当たり前じゃん。髪いじってる時間があるなら、その分弁当を豪華にするよ」
「お前のいっつも弁当彩いいなって前から思ってたけど、そーゆうことかよ!」
「食に妥協したくないからね」
「アハハ!お前ってホント何かツボ!赤也が構い倒すのが分かった気がするぜ!」
「だろ!!」
「ちょっと京極に切原、遠山さんの背中バンバン叩きすぎだよ。これでも一応女の子なんだよ?背骨折れたらどうするのさ」
「…一応も何も、私は紛れもなく女だけど」


つまり、変化は少しあった──この京極と穂坂の二人が、私に話し掛けて来るようになったこと。


だが。


「頼む!テニス部のマネージャー、やって!」
「(……一体何なんだコレは)」


放課後、課題を一通り終えてそろそろ帰宅しようと鞄を手に立ち上がった私の目の前で結構な勢いで土下座をする切原には、訝しげな視線を送ることしかできなかった。

- 1 / 7 -
春風