唐松に寄り添って - 春風
熱き青春への招き

視点:第三者


「頼む!テニス部のマネージャー、やって!」
「……」

土下座をした切原を目の前に、蘭は何とも怪訝そうな眼差しを向けた。その眉間にはいつもより少し深い皺が寄っている。


「……はァ?」
「だーかーらー!俺さっき部室で、合宿中の臨時マネージャー今すぐ探してくれって俺ブチョーに言われてさー!こんなこと、お前以外に頼めねーんだよ!な?頼む!」
「…絶対イヤ。今回の騒動で色々迷惑掛けて悪いとは思ってるけと、それとこれとはまた別でしょ。…他の女子に頼めば?女は他にいくらでもいるじゃない」
「え、蘭!俺ら友達だろ!頼むって、俺のこと助けるって思って頼まれろよ〜!」
「友達って言えば何でも私が動くと思わないで」


土下座をしながら蘭を見上げる切原だが、蘭の表情は変わらない。すると無情にも蘭は、荷物を詰め終えた鞄を手に取り、椅子から立ち上がってさっさと教室を出ようとした。


「じゃ、私もう帰るから」
「蘭ー!待てってばー!」

バタバタと足音慌ただしく蘭の後を追い掛ける切原。そして追い掛けられている蘭は、かなりの早足である。
廊下を二人揃って半分小走りになりながらも、切原は粘り強く(と言うよりもしつこく)蘭へと声を掛け続けた。流石常日頃からあの独裁政治を掲げる横暴部長を相手にしているだけあり、中々根性がある。


「な?一生のお願いだって!頼む!」
「イヤ」


しかし、そうこうしているうちに二人は下駄箱まで来てしまい、遂には校舎の外へと出てしまった。





一方視点は変わって、こちらには切原以外、つまり二年レギュラー陣がその面を揃えていた。先輩命令で一年である切原をまず始めに嗾(けしか)けたというのがまるでバレバレである。そしてその七人は、揃って物陰から蘭と切原の尾行をしている最中であった。


「赤也の奴、全然ダメだな…」
「赤也も、アイツの割には結構上手いこと誘えてるんだけどな。でも、やっぱりあの鉄壁蘭ちゃんには通用しないようだね……ってことで。真田、行こうか」
「む…」


幸村に指名(という名の命令を)された真田は、少し渋い表情をしながらも、蘭と切原の前へと姿を現した。当然蘭は不審そうに彼を見遣った。


「…弦一郎さんまで、一体どうしたんスか」
「蘭、どうしても頼まれてくれんか」
「……いくら弦一郎さんの頼みでも、イヤなモンはイヤっすよ。マネージャーなんて、私の性分には合わないっすから」
「……」

それを見て、幸村やその他一行は溜め息を吐いた。やはり一筋縄ではいけないか、というのが本音である。


「……この際、皆で行こうか」

その幸村の言葉を皮切りに、皆が一斉に蘭の前へぞろぞろと姿を現した。


「やあ、蘭ちゃん。どうかな、赤也から話は聞いてくれたかい?」
「…話つっても、臨時マネージャーをやってくれしか聞いてないっすよ」
「フフ、それだけで充分だよ」


一部始終を見ていた癖に何とも白々しい笑顔で蘭にそう言った幸村に、蘭は隠しもせずに不機嫌そうな顔をしてみせた。更に幸村は言った。


「じゃあ、そうだな…交換条件として、赤也を一週間パシりに使える権利をあげるよ」
「何スかそれ!?」
「いらないっすわ」
「え、お前即答で断んのかよ?!それはそれで何か寂しいんだけど…」

そう言ってメソメソしだした切原。それを見た幸村は、内心ほくそ笑んだ──これは、使えるじゃないか。
因みに切原が半ベソなのは、打算や態とではなく完全なる彼の素である。


「……」
「…あーあ。蘭ちゃんが赤也泣かしたー、あーあ」
「……」

この空気じゃ、蘭は断れやしないだろう。蘭は折れるに違いない。


しかし、その幸村の考えは非常に甘かったのだ。


「………アンタは私の友達じゃなかったの」
「!!」
「…友達をパシりに使うなんて、おかしいじゃない」

「……蘭ーーー!!お前ってホンット最高!!大好き!!俺ら一生親友な!!」
「ひっつかないで、暑苦しい」


蘭の思わぬところでかまされた“デレ”に、切原は歓喜の涙を流して彼女へと飛び付いた。つくづく単純な男だと思われるが、蘭のこんな応答は切原にとっては初めてだったのだ、この反応も当然と言える。


「…これは一本取られたね」
「他の策を練るか…」


──ここから、彼ら男子テニス部と遠山蘭との攻防戦が始まった。

- 2 / 7 -
春風