唐松に寄り添って - 春風
熱き青春への招き

視点:幸村精市


今俺は、顔も知らないような女子生徒に校舎裏へと呼び出されている。そして目の前にいるその子が途切れ途切れの(それも何だか態とらしい)口調で俺へと伝えてくるのは、やっぱり予想通り自分を彼女にして欲しいっていう告白だった。


「…悪いけど、今はテニスに専念したいんだ」


今までの俺だと“気持ちはとても嬉しいんだけど”とか“ごめんね”だとか言ってたけれど、それは全て封印することにした。だって、あんなことになるのはもうごめんだしね。
俺がバッサリとそう言うと、その女の子は見る見るうちに目に涙を浮かべていって、そこを足早に去って行った。そんな姿を見て、俺は思わず溜め息を吐いた。けれど、幾分か気持ちは軽く思える。


明らかに、俺たち男子テニス部を取り巻く環境は、あの試合から変化した。と言うよりも、蘭ちゃんがみせたあのプレイによって、と言うべきかな。

あの児島瑠理香は、女子テニス部部長も辞めて学校を自主退学したらしい。俺たちでさえもかなりだったんだから、真向かいから対面した彼女にしてみれば余程の衝撃だったんだろう。


「……」


今でも、あの素晴らしいリターンエースを明確に脳裏へと思い浮かべることができる。
嗚呼。これからあの子が強くなったら、いつか俺と対戦してくれないかな。もしかしたら俺を凌駕するくらいのセンスがあるんじゃないかな。





「…幸村さん、それに皆さん。今、少し宜しいでしょうか」


ある日、屋上でレギュラー皆で揃って弁当を食べていると、そこへ蘭ちゃんがやって来た。その表情は硬く、あの返事をしに来てくれたんだと直ぐに察することができた。
蘭ちゃんは俺や他のメンバーをぐるりと見渡すなり、その頭を下げて言った。


「私はあの日テニスをして、少しの興味を抱きました。それから考えたんですが…何かに熱中するという経験が今までなかった私にとってこういう機会が与えられということは、ある転機なのかなって思いました。なので──私を、合宿へ連れて行って下さい」
「…ああ、勿論だよ。俺たちは、君を心から歓迎する」

蘭ちゃんのその言葉を聞いて、俺や皆がやっと笑顔を浮かべた。

嗚呼。本当に、良かった。


「蘭ちゃん!!俺嬉しいぜよ!」
「仁王センパイ、蘭に触り過ぎですってば!蘭ー!俺にぎゅってしろよ!」
「赤也ァ!軽々しく女子に抱擁を求めるなどたるんどるわ!だが蘭、よくぞ引き受けてくれた!宜しく頼むぞ」
「弦一郎、声が大きい。…遠山、俺もお前が引き受けてくれたこと、非常に嬉しく思う。マネージャー業務は俺が手取り足取り教えるから心配は無用だ」
「おい柳、何だかその言い方怪しいんだが最近お前ホントどうした…?あ、遠山、俺からも宜しく頼むぜ。うるさい連中で大変だろうけど、俺もできる限りサポートするからよ」
「桑原くんの仰る通りです。遠山さん、引き受けて下さって本当にありがとうございます。私もお手伝いさせて頂きますね」
「…微力ながら、お役に立てればいいかなって、思うっす」


ほんの僅かに頬を染めて俯きながらそう言った蘭ちゃんに、赤也と仁王がみっともなくガバッと飛び付いたから、それぞれデコピンを一発ずつお見舞いしてやった。フフ、ざまあ。


本当に、これから色々と大変になるだろうな。でも、それがどこか楽しみに思えてならない自分がいるんだよね。


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春風