唐松に寄り添って - 春風
改革へ向けての出立

視点:仁王雅治



これは蘭ちゃんと一緒におれる、チャンスじゃ。
そう一瞬で判断をした俺の行動は、早かった。


「…なら俺、蘭ちゃんとお買い物行ってくるぜよ。実は俺も、明日の支度なぁんもしとらんのじゃ。買いに行かなあかんもんも多くてのう」


口元にいつもの笑みを浮かべてやってそう言った俺に、皆が何とも言えない不審げな目線を向けて来た。ただ柳生だけは、この様子を面白そうにニコニコと見守っている。
すると疑わしそうな顔をした赤也が俺をジロジロ見た。


「…仁王センパイって確か、いっつも支度ギリギリまでできない人ッスよね?マジ大丈夫なんすか?」
「心配いらんぜよ。いざとなったら柳生に手伝って貰うき」
「何言ってるんですか。いくらダブルスパートナーだとは言え、私は支度の手助けなんてしませんからね」
「…プピーナ」


あれ、柳生は俺の味方してくれると思っとったんじゃがのう。案外そうでもなさそうじゃ。







「蘭ちゃんは何買うんじゃ?」
「スポーツタオルが足りないんで、数枚買っときたいっす」
「なら、俺がいつも行っとるスポーツショップに行こか」
「うぃっす」


そんなこんなで取り敢えず蘭ちゃんとの約束を取り付けた俺は、蘭ちゃんと二人並んで歩道を歩いとった。俺も蘭ちゃんも制服やから、何かドキドキする。これが制服デートってやつなんか、堪らんぜよ。
道行く人らが擦れ違う度に、それにスポーツショップに辿り着いた後にも店内のスポーツバッグを担いだ男子高校生の軍団が俺らをジロジロと見てくるんやけど、これって俺らがカップルに見えとるんやろな。…うわ、最高じゃ。


「…他には何が足りひん?」
「後はドリンクボトルが五個っすね。平部員のが割れたらしいので」

そう言いつつボトルの種類と値段を確認しながら、俺が持つ(と言うよりも俺が無理矢理蘭ちゃんから奪い取った)買い物籠の中にそれらを入れる。


「……」


その時に、絆創膏が二枚貼られた蘭ちゃんの掌がチラリと見えた。あの試合の時にはマメが出来ていた痛々しかった手やけど、もう結構治っとって安心する。蘭ちゃんみたいな小さい手した女の子があんな血豆こさえとったらアカンぜよ。


「そう言や蘭ちゃん、洋服は買わんでええんか?俺がプロデュースしたるぜよ?」
「…体操服持ってけばなんとかなるんで、遠慮しとくっすわ」
「…プリッ」


体操服って…どうなんじゃ…。でもまぁ蘭ちゃんの体操服姿は可愛えからええんじゃがの。でも…こうも素直に、男の夢をぶち壊されるとか……流石じゃ……。

買い物を終えて蘭ちゃんの右手から荷物を奪い取って、その手を自分の左手と絡める。すると蘭ちゃんは、俺に繋がれたその手を横目でチラリと見て、いつもの低めの声で言った。


「…仁王さん。離して欲しいんですけど」
「やじゃ」
「やじゃじゃないです」
「やーじゃ」
「……」
「もう一個荷物持ったるき、そんな顔せんで」
「…私力あるんで大丈夫っすよ」
「それでも持ったる。な?遠慮せんで?」
「…どうもっす」


蘭ちゃんの左手からもう一つの重たそうな荷物を持って、再び右手を握り直す。
蘭ちゃんは俺の手を振り払うかと思いきや、その手にそっと少しだけ力を込めてくれた。


「蘭ちゃんって左利きなんじゃろ?俺もじゃき、お揃いじゃな」
「…両方使えるっちゃ使えるんスけど、柳さんに“お前は左手の握力の方が強いから左にしておけ”って言われて」
「…ふーん、それも参謀の知恵やったんか」


蘭ちゃんは何やかんや参謀に懐いとると思う。蘭ちゃんはあの試合の時にテニスを教えて貰ったらしい。ラケットとかも参謀と一緒に買いに行ったようやし、どうやら全幅の信頼を寄せとるようじゃ。

真田の幼馴染っちゅーのは仕方ないとは思うが、参謀の奴め…。一人だけ抜け駆けしよって、狡いぜよ。


「参謀ばっかり…妬けるのう」
「…は?焼けるって、何がっすか?」
「……」

返って来た的外れな答えに、少し気落ちする。
意識して貰えるようになるには、こりゃあ相当の時間が掛かりそうじゃ。他の連中が大人しい限り、様子見つつ気長にアピールしていこかのう。ただ、ライバルはホンマに多いから油断は禁物じゃき。


- 続 -

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春風