唐松に寄り添って - 春風
改革へ向けての出立

視点:第三者



そして、蘭を臨時マネージャーへ招き入れた彼らは、遂に合同合宿前日を迎えた。


「いよいよ明日から、氷帝主催の合同合宿が開催される」

立海大メンバーは全員がコートにきちんと整列をして、前に仁王立ちする幸村と真田へと視線を向けていた。一身にその視線を受けている二人は、皆を見渡して毅然とした口調で言った。


「当初はレギュラーだけの参加だったはずが、氷帝部長の跡部の厚意で部員全員の参加が許された。皆、一人一人がくれぐれもそのことに感謝して、この合宿に臨むように」
「「はいッ!」」
「だが、幾ら急な参加であるとは言え、我ら王者立海に負けは許されん!全力で行くぞ!」
「「はいッ!!」」


幸村と真田のその言葉に、皆が揃って返事をする。幸村は更に続けた。


「前にも伝えているけれど、明日は朝六時半校門前に集合。…特に仁王と丸井に赤也、遅刻には気を付けなよ」
「安心しんしゃい、俺は柳生にモーニングコールして貰うから心配いらんぜよ」
「え!仁王ズルい!俺も頼むぜぃ!」
「幸村ブチョー!決め付けるなんてまじひでぇ!ぜってぇ間に合ってやるッスよ!!」
「では、遅刻したら三強による鉄拳の刑三連発で」
「ナイス蓮二、それ採用」
「うむ。俺一人の鉄拳で懲りないならばその手で行くか」
「「ええええぇえっ!?」」
「…プピーナ」


柳の提案にぽんっ!と手を打った後、何処ぞの監督顔負けのビシッと指を差す輝かしい笑顔の幸村と、続いて頷く真田に絶望の色を浮かべた三人。追い打ちと言わんばかりに、皆の笑い声がコートに響く。

皆のその様子を確認すると、幸村は一番前の列の端に立つ蘭の方へとその目を向けた。


「そして今回、臨時マネージャーとして遠山さんが参加してくれることは、前に皆に言ったと思う。改めて遠山さん、宜しく頼むよ」
「…はい、こちらこそお願いします」

すると蘭は前に立つ二人に頭を下げるとくるりとその身を翻して部員らの方へと向き直り、いつもよりも少し声を張って言った。


「…合宿というものが今回が初めてなので、慣れないことも少しあるかもしれません。ですが私は、全力でサポートさせて貰います。…宜しく、お願いします」


そしてぺこりとその頭を下げた蘭。すると部員は全員が拍手をしつつ、それぞれが「宜しく頼むぜ!」やら「何かあったら言えよな!」やら蘭へと言葉を掛ける。非常に気持ちの良い部活である。事実蘭はこの数日間で彼らを「中々気の良い奴らだ」と少々上から目線ながらもそのように評価を下していたのであった。
拍手が鳴り止んだところで、幸村が号令の声を張り上げた。


「レギュラー全員と遠山さんは、連絡事項があるからその場に残ってくれ。それでは解散!」
「「あざぁっしたぁッ!!」」


体育会系特有のまるで軍隊のように為されるこの一糸乱れぬ挨拶には、漸く蘭も慣れて来たのであった。
わらわらとそれぞれネットの片付けや着替えへと散っていく部員たち。そんな中、集合を掛けられたレギュラーたちと蘭は皆幸村と真田の元へと集まった。


「蘭ちゃん、持っていく荷物の用意は粗方終わった?」
「はい、今日洗濯機回してる最中にマッハで終わらせました。今から最終確認しとくっす」
「ありがとう、任せたよ」
「ただ、買い出しが必要なもんが少しあるんで、帰りに行って明日持って来るっす。領収書出して貰って立て替えときます」
「…それは多いのか?」
「別に、私一人で持てる程度っすよ」
「いや、お前の“一人で持てる”は普通の人間の比じゃねーだろい…」
丸井のツッコミに皆がうんうんと頷いた。対する蘭は別に何でもないという顔をしている。
男として面目ないという仔細な男心を読み取れる程、蘭は大人ではなかった。


「それより遠山、お前は自分の支度終わったのか?あんまり遅くなると、帰って寝る時間遅くなるだろ?明日も朝早いんだし、それにお前には合宿で働いて貰うんだから俺買って来てやろうか?」


蘭に気を使ってそう言ったのは、他でもないジャッカルだった。


「……」
「な、何だよ?」
「……アンタ、ホントいい人っスね」
「は?!」


蘭は彼女にしては穏やかな目付きで桑原をジッと見ると、桑原に対してそんな評価をしてみせた。多少上から目線なのは、最早彼女のお愛嬌である。


「いや、支度はこれからっスよ」
「え!お前まだやってねーのかよぃ!俺でももう殆ど済ませてるぜ!」
「あー、私十五分もあれば支度終わるんで」
「…女の子なのに随分と早いね」
「俺でも色々やってたら三十分は掛かるぜ?」
「私、荷物少ないですし」
「でもさ蘭、ふつー女子って荷物多いもんじゃねえの?」
「さぁ。着替えにタオル、洗面用具にスマホの充電器があれば充分じゃない?」
「……お前女子としてどうかと思うぜその発言。もっとさ、こう、オシャレとか…」
「Tシャツ数枚にスキニーが日数分あればいいじゃん」
「他にもあるじゃん!あ、最低日焼け止めとかって持ってねーの?」
「家にないと思う。切原、もし必要だったら貸してね」
「いやどう見てもぜってー必要だろ!お前肌ビョーニンみたいに白いじゃん!塗らねえとヤバいことになるぜ!」
「…ちょっと。病人って失礼じゃない」

切原のその言葉に眉を顰めた蘭であったが、


「なら日焼け止めも買う。それに、服もちょっと少ないし…」
「蘭。部屋着ならば、俺の家に数着置きっ放しのものがあったはずだが」
「あー…なら弦一郎さん、持って来てくれますか」
「うむ、構わん。母上に頼んでおこう」
「ごめんなさい」
「なぁ、この会話ってツッコミ待ちなの?!それともこの二人素でこれ言ってんの?!」


赤也のツッコミに、真田と蘭の二人は揃ってきょとんとした表情をしてみせた。「俺普段そこまでツッコミ体質じゃねーんだけど、蘭といたらツッコミどころあり過ぎて…」とは、後の赤也のボヤキである。

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