唐松に寄り添って - 春風
“例のあの子”の観察日記

視点:幸村精市


朝練が終了した後、俺は柳と二人で“例のあの子”のことについて話をしつつ、教室へ向かっていた。


「遠山蘭…。外見は男子を中心に評価は高いが、性格は傍若無人で生意気で太々しく、毒舌で定評がある。一年の間では、彼女は良くも悪くも有名なようだ」
「蓮二にそんなに言われるなんて、あの子よっぽど凄い性格してるんだね。笑っちゃうな」
「色々な意味で予想の斜め上を行くな。多少愛想には欠けているが」
「あれは多少どころでは済まされないよ。何せ、この俺に向かって媚びた笑み一つ浮かべなかった。あそこまで不愛想な対応をされてしまうと、男としての自信を失うよ」
「真っ赤な嘘を吐くな。彼女の対応に内心苛立っていた癖に」
「あれ、バレてた?」

昨日の部活の前、名ばかりの顧問への用事を済ませて、俺と真田と蓮二、それに偶然出会った丸井とで海志館からコートへと向かっていた時のこと。俺たちは、“例のあの子”に出会った。

思っていた以上に見目は良く、確かにこれじゃあ馬鹿な男ならば簡単に引っ掛かってしまうだろうな、なんていう第一印象を抱いた。
艶のあるポッテリとした唇をしている小さな口、スッと鼻筋の通った鼻とが、何とも生意気そうだ。それに俺が次に注目したのは、制服の上からでも十分に分かる、彼女のしなやかな肢体。半袖から伸びる白い柔肌の腕に、制服のブラウスがパツパツになっている胸元。…仁王がこの子に注目していたのはこのせいかな?なんて思っちゃったり。聞いた話だと、アイツ胸フェチらしいし。

それから交わされた真田と彼女との会話には、思わず笑ってしまった。あの真田を揶揄い半分であしらえる女なんて、そうそういやしない。蓮二も丸井も、可笑しそうに肩を震わせている。
そんな俺たちのことなんてお構いなしの真田が、俺たちを彼女へと紹介する。俺が握手を求めると、彼女は少し躊躇した後、チラリと真田を見てから俺が差し出した右手を取ったのだ。


「(…真田が礼儀にうるさいから、握ったってことか)」

彼女の態度に、俺は少し傷付いた。
そりゃあ、必要以上に媚びを売られることは大嫌いだし、あの子にして欲しいなんて微塵も思わないけれどね…。でも、何だかなぁ…。


そんなことを思い返していると、更に蓮二が彼女について言った。

「特定の友人がいないせいで、情報が極めて集めにくい。それに、収得することができたとしても、その内容は極めて薄い。だが、彼女はさっぱりと単調な性格である為、その行動や心理状態は予測しやすいな」
「友人がいない、か…。小学校の時の友人くらい、いないの?」
「彼女はロサンゼルス州立セイントユース小学校出身だ」
「…ふぅん、帰国子女なんだね。でもさ、あの見た目で帰国子女っていうオプション付きなら、男からも女からもにも好かれそうなものだけど?」
「所業が悪いとは耳にしていない。恐らく、それを覆す程までに、彼女のコミュニケーション力に難があるということだろうな」

そんなこんなで話をしていると、あっという間に教室へと辿り着いてしまった。


「また何か分かったら伝えよう」
「…ありがとう」
「何を言う、これは俺の趣味だ。それに…」


俺自身も、彼女に興味を抱いているしな。
そう言って悪戯っぽくニヤリと俺へ笑ってみせた蓮二を、思わず凝視してしまった。…へぇ、面白くなりそうじゃないか。

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