唐松に寄り添って - 春風
“例のあの子”の観察日記

視点:遠山蘭


四時間目、移動教室の生物実験。
実験室に行くべく教室から出たのは良いけれど、向かう途中の廊下でどういうことか道を塞がれてしまった。因みにその道を塞いでいるのは何処から湧いたのか分からないくらいの大量の女子軍団で、皆口々に「幸村くーん!」「幸村様ー!こっち向いてぇー!」等と耳障りな甲高い声を発している。恐らく、例のアイドルテニス部のメンバーがその人垣の中にいるのだろう。
幸村っていう名前、どこかで聞いたことあるな…と少し考えると、確か昨日弦一郎さんに紹介して貰ったあの人だと記憶と照合ができた。

どう考えたって、邪魔だ。迷惑だ。自分のクラスで騒ぐのは大いに勝手だが(と言うか、私の視界にさえ入らなければ別にどうでもいい)、こういった人が多く通る場所で騒がれるのは邪魔で迷惑なことこの上ない。全く、とんだ巻き込みだ。


「…あの、そこ邪魔なんすけど。きゃあきゃあ湧くのは別に構わないっすけど、こうも通路塞がれちゃ堪りません」


口を開いて思ったことを言うと、何故だか思った以上に低い声が出た。
私の低い声は、女子ばかりの甲高い声の中で妙に目立ったのか、彼女らは一斉に私の方を振り返った。…何とも仲が宜しいようで。

すると、人垣はまるでモーセの十戒のように海が割れるように人垣が分かれて、私は無事そこを通れるようになった。万々歳だ。尤も、視線は酷く突き刺さって来るけど。


しかし、そうは問屋が卸さないのであった。


「……」


──何故、私は今、当の幸村精市本人に連行されているのだろうか?掴まれた手首、まあまあ握力強くて少し痛いんすけど。

- 2 / 6 -
春風