ハイキューごちゃ - 春風
粗筋色々

##NAME1##は会社の同期だ。容姿で女性を惹き付けることを自覚している及川にとって、異性としてではなく仕事仲間としてカラッとした関係を求めてくる##NAME1##は貴重な存在で、そんな##NAME1##に好意を抱いていないと言えば嘘になる。
じっと見つめて目が合っても、にこっとも笑わない。なに?と素っ気なく、しかし相手を認める眼差しをくれる。仕事の意見がぶつかり合っても一歩も引かず、##NAME1##の案が採用されたことは既に一度や二度ではない。

将来を考えない関係であれば、自分の定めたボーダーライン内にいる女性ならわりと誰でもいい。だって一時の関係でいつか別れる。相手には申し訳ないが結婚の話題を出されるたびに上手く誤魔化し、親に会ってほしいと言われると最高に嫌だった。
だが、そんな恋愛は飽きた。年齢も年齢だ。実家の両親は結婚への期待を大きくしてくる。今までいろんなタイプの女性と付き合ってきた及川は、自分の可愛さを武器にしない女性への美学を感じていた。社内を見ても可愛いと言われる女性はわりと多いが、男と同列で張り合って信頼される##NAME1##のような女性はなかなかいない。そのとき及川は彼女の底知れぬ魅力に気づいたのだ。


あの日は金曜日で、互いに翌日の予定もなく、寂しい者同士で飲む流れになった。及川は酒に強い。どこにその酒が消えるんだと言われるほどアルコールに強く、二升は軽々と開けてしまうし、新人歓迎会で立ち向かってくる先輩を十人斬りしたときはさすがにふらついたが、とにかく極度に強く二日酔いもしない。適当に入った、駅から少し離れた居酒屋でああだこうだと仕事からプライベートまで話す。及川は一年前に彼女と別れたきり恋愛は御無沙汰で、##NAME1##も半年前にフラれて以来仕事に邁進していた。
今までは同期として何気なく傍にいてアピールしていた。多分##NAME1##を本気で狙っている奴はそこそこいる。でも一番近いのも、こうして下心を隠して飲みに誘えるのも自分だけだと思っていた。


説明する用意をしていたが、##NAME1##はすっかり押し黙った。想像していた反応と違うとそれはそれで不安になる。
琴子がすっと及川の股間を指差し、続いて自身の股に指を移動させる。顔は疑問形だ。及川はこくりと頷いた。残念だが##NAME1##のそこは昨夜及川の熱に穿たれていた。


「てかお前女ならもっと可愛い反応とか、こう、なんかないの!?人の股間を堂々と指差すな!」
「うるさい!アンタが相手でそんなことあるわけないでしょ!信じられないんだけど!あんた私が酔ってるのをいいことに連れ込んだわけ!?」
「違うから!元は##NAME1##がキスしてくるから──」
「言い訳はいらねぇこのあほんだらー!」

やはり弁明の隙さえ与えられなかった。同罪ならばこちらが言い訳を重ねる理由などどこにもないはずだが、こういうときに男は「お持ち帰りした」「本能の赴くまま無茶苦茶にした」と勝手なイメージをつけられて損だと思う。
枕を投げつけられてベッドから転がり落ちた及川を残し、##NAME1##は肩を怒らせながら帰宅の準備を始めた。今は何をしても誤解しか生まない。早々に解散するのが吉だ。黙って##NAME1##の後に続いた。

ああ、やってしまった。これは下心の代償かもしれない。



* * *



「…ってわけなんだけど、これ##NAME1##は俺のことどう思ったと思う?」
「酒に強いことを逆手に取って酔った女ばっかり食う最低なヤリチン」
「ちょ、クロちゃん!俺ヤリチンじゃねえから!そのイメージよくない!」
「その前にどっかの大サーカスみたいなあだ名やめろ」

##NAME1##は会社の同期だ。容姿で女性を惹き付けることを自覚している及川にとって、異性としてではなく仕事仲間としてカラッとした関係を求めてくる##NAME1##は貴重な存在で、そんな##NAME1##に好意を抱いていないと言えば嘘になる。
じっと見つめて目が合っても、にこっとも笑わない。なに?と素っ気なく、しかし相手を認める眼差しをくれる。仕事の意見がぶつかり合っても一歩も引かず、##NAME1##の案が採用されたことは一度や二度ではない。

将来を考えない関係であれば、自分の定めたボーダーライン内にいる女性ならわりと誰でもいい。だって一時の関係でいつか別れる。相手には申し訳ないが結婚の話題を出されるたびに上手く誤魔化し、親に会ってほしいと言われると最高に嫌だった。
だが、そんな恋愛は飽きた。年齢も年齢だ。実家の両親は結婚への期待を大きくしてくる。今までいろんなタイプの女性と付き合ってきた及川は、自分の可愛さを武器にしない女性への美学を感じていた。社内を見ても可愛いと言われる女性はわりと多いが、男と同列で張り合って信頼される##NAME1##のような女性はなかなかいない。そのとき及川は##NAME1##の底知れぬ魅力に気づいたのだ。


あの日は金曜日で、互いに翌日の予定もなく、寂しい者同士で飲む流れになった。及川は酒に強い。どこにその酒が消えるんだと言われるほどアルコールに強く、二升は軽々と開けてしまうし、新人歓迎会で立ち向かってくる先輩を十人斬りしたときはさすがにふらついたが、とにかく極度に強く二日酔いもしない。適当に入った、駅から少し離れた居酒屋でああだこうだと仕事からプライベートまで話す。及川は一年前に彼女と別れたきり恋愛は御無沙汰で、##NAME1##も半年前にフラれて以来仕事に邁進していた。
今までは同期として何気なく傍にいてアピールしていた。多分##NAME1##を本気で狙っている奴はそこそこいる。でも一番近いのも、こうして下心を隠して飲みに誘えるのも自分だけだと思っていた。



「おいかわがお酒につよくてむかつくー」
「はいはい、分かったから##NAME1##はそこら辺でやめようね。三日酔いとか嫌でしょ?」

##NAME1##とは何度も飲みに出掛けているが今日の荒れ具合は凄まじい。さすがにこれ以上は、と飲みかけのグラスを奪って中身を空にする。##NAME1##はそんな及川を恨めしそうに見ながら目をとろんとさせている。ほら、これだ。他の女とは違う、こういうところにとてつもない美しさを感じて惹かれるのだ。



「…黒尾、結婚するね」
「ああそうだね。付き合って一年だってさ」

黒尾は及川と##NAME1##の同期で、将来的にはかなりの地位に行くだろうと噂される社内随一の出世候補だ。かくいう及川もかなり良い位置付けをされているが。##NAME1##曰く、及川と黒尾は同じように胡散臭いらしい。その黒尾はめでたく社内の恋人と婚約した。その彼女も同期で特に##NAME1##と仲が良い。
なるほど、ますます可愛いな。つまり大切な親友を奪われて拗ねているわけだ。いいね。素晴らしい。


「##NAME1##も彼氏作ったらいいのに」

その相手は俺だといいけど。



「…まだわからないの」
「なにが」
「私は結婚しても絶対に仕事は辞めないし、素直に家庭にも入れない。もちろん旦那も子供も大切にするけど、子供を預けて早いうちに仕事に復帰すると思う。そんな女が誰かを好きになって好きになってもらって、そのうえ母親まで務まるのか。分からないし自信もない」

でも、あの子を見てると一人前に女としての幸せは欲しいって思うの。


「そんなの欲張りだと思わない?旦那と子供がかわいそうだよ」

及川は##NAME1##の弱音に痺れた。手足がピリピリと電気を持つ。ねえ##NAME1##、そうやって不安になっているのはね、君に覚悟があるからだよ。誰かを愛して生涯を添い遂げる覚悟が。子を産み慈しみ育てる覚悟が。だから君はここまで美しいんだ。
店を出て千鳥足で歩く##NAME1##を支える。これは家まで送るパターンかなと頭で道順を組み立てた。堰が切れたのかグズグズと泣きそうな声を上げている##NAME1##に言った。



「##NAME2##と付き合える男はほんとに幸せだと思う。自信持てよ」

ちょっと上から目線になったかもしれない。けれどこれが二人の間柄に最も相応しい激励になった、はずだった。



「じゃあ試してみる?」

襟口をぐいっと掴まれる。##NAME1##のキスはとんでもなく気持ちよかった。今までひたすら待っている女性とばかり付き合ってきた。自分から誘うなんてとんでもないとお行儀よく待つ彼女たちは確かに可愛かったが、それ以上に肩が凝った。

火がつくように煽られるキスは初めてだ。すぐに形勢を逆転させると路地の壁に押し付け、人目をはばからず求め合う。それからホテルに転がり込むのは息をすることと同じくらい容易かった。
途中から及川も夢中になり、体の熱とアルコールが反応して起きた直後は記憶が曖昧だったが、時間が経つにつれて鮮明に思い出した。##NAME1##の言葉の一語ずつや恥じらう顔、声の甘さと初めて呼ばれた名前と呼吸の乱れを。



「…確かにめっちゃいい女だしこのまま一気に…とは思ったけど、まさか好きって言う前にそこまで行くとは俺としても予想外すぎてさ」

起きて、うろたえて、後悔した。満更でもないと思わなかったわけではないが――本気だからこそ##NAME1##とはこんなふうになりたくなかった。



「酒に酔って誘われてあはんうふんしたわけだろ。もう謝って好きだって言うしかないんじゃねーの」
「クロちゃんは完全に俺をバカにしてるよね?何その男子中学生みたいな擬音」
「まあ##NAME2##もなー難しいだろうなー」

定食を平らげた黒尾はお冷やに手を伸ばす。黒尾を見る及川は仕事よりも真剣だ。


「ああいう女って大抵“頼られ甲斐がない”とかくだらねえ理由でフラれてんの。実際は頼ってもらえねえような男気しか持ってない奴が悪いんだけどな。だから囲い込んで弱音を引き出してやれ。##NAME2##もいろんなもん抱え込んでるぞ、多分。あとは頼られるのと同じくらい頼れ」

初めて貰う真面目なアドバイスを刻み込む。頼られたい、頼りたい。及川は、初めて恋をしてから今までずっと、##NAME1##との出会いと黒尾の言葉を待っていたような気がした。


「俺はお前らお似合いだと思うぜ」



* * *



俊足で特攻するべきか、少し距離と時間を置き冷静になるべきか。及川が決めかねているうちに、状況は第三者の手によって大きく変えられてしまった。
会社の売上に大貢献している超得意先の懇親会(という名のパーティー)への参加を、揃って命じられたのだ。##NAME1##は先方のご指名らしく、その情報を小耳に挟んだ及川は眉をひそめた。及川と黒尾は見てくれの良さと対応のそつの無さから取引先の交流に引っ張り凧だ。先方の女性から大変好評らしい。

まあ、と及川は思う。パーティーなんて適当にあしらっていればいい。目上の女性に何かしらの圧力をかけながら迫られても、自分を守れる程度には口は達者だ。黒尾には劣るが。
しかし、##NAME1##は?なぜ彼女が選ばれた?及川が把握している限り琴子は先方へ出向いたことはない。##NAME1##の外出先はそれとなくチェックしているので間違いない。気持ち悪いと一蹴されればそれまでだが気になるのだから仕方ないではないか。
それなのに先方の指名付きとは穏やかではない、と思いつつ互いに上の指示に逆らえないのだ、揃っての参加でよかったと思うことにした。



「よろしく」

社用車に乗り込む前に挨拶すると、頬を赤らめた琴子にぷいっと無視された。これは意識されているのだろうか。ていうか恥じらっているのに強気の仕草が殺人的に可愛い。おまけに普段の隙の無いキャリアウーマンの格好とは打って変わって、##NAME1##本来の女性らしさをふんだんに魅せた柔らかいパーティードレスがたまらない。抱きたい。



「なんだお前ら、ケンカか?頼むから会場では仲良くしてろよ」

運転手を務める営業に笑われてしまった。同乗するのは運転手と及川たち若手二人、総務のお偉方。取締役とは現地で合流する。



「及川、##NAME2##から目離すなよ」

背中をぽんと叩かれた。運転席に乗り込んだ大先輩の後を追い、その言葉の真意を確認できないまま後部座席に座る。到着すると、わざわざその言葉について確かめるまでもなく及川は状況を理解することになった。

高級ホテルのワンフロアを貸し切ったパーティーは必要以上に豪華絢爛、謝恩会など名ばかりで会社を私物化した金持ちの道楽としか思えない。及川は、こういう世界もあるのだと社会勉強をしつつ飲み食いに徹すると決めた。##NAME1##もいる。自宅で味気ない夕飯を一人で食べるよりよっぽどいい。
大先輩に付いてまずは周囲への挨拶を。適度に胃に物を入れつつ立食パーティー独特の雰囲気を味わっていると、わっと入り口近辺が湧いた。主催企業の経営陣が入ってきたところだった。
一族で利益を貪る典型的な家族経営の輩にとって、財産を見せつける場としてこのようなパーティーはうってつけだろう。こんなもんやるくらいなら社員に還元しろっつーのと悪態を吐きながらドリンクを煽った及川は、主催であり主賓でもあるその一族を見つめる##NAME1##の顔色がよくないことに気づいた。

顔色が悪いというか、何かを覚悟しているというか。その横顔は決意に満ちているが、及川の好きな##NAME1##ではない。
主賓の塊の中から一人の男が抜け出してこちらに近づいてきた。及川の前を通り過ぎると隣にいた琴子の前で立ち止まる。



「##NAME2##さん!来てくれたんだね!」

ハア?なんだこいつ?とガンを飛ばした及川の横で会話は続く。そうしているうちに社長の挨拶でいよいよパーティーが本格的に始まり、その男は一旦琴子の前から姿を消した。
はあ分かったぞ。あいつが##NAME2##を指名した奴だな。三十代後半程度の彼は、万札を食べて生きてきましたと言わんばかりに無駄に育ちの良いボンクラの匂いがした。

奴は##NAME1##をかなり気に入っているそうで、場が落ち着くと##NAME1##にべったりになった。増えるスキンシップに比例して及川の気分は下降の一途を辿る。どんな経緯があるか知らないが奴の行動は前々から及川の会社内で問題になっていたようで、営業や総務のお偉方も口を出しはしないが注意深く##NAME1##を気にしている。
皆の前で堂々と肩を抱き寄せられ、顔を近づけられる。さすがにこれは単なる同僚としてでもイライラするわ、と上司の指示もなく止めに入ろうとした及川を##NAME1##は目で制した。

大丈夫だから、と。そう言われれば極力気にすることしか出来ない。そんな自分が歯痒くてたまらない。
誰も彼も##NAME1##ばかりを気にしていられるわけではない。及川は女性にエスコートを求められ、営業の大先輩は関係者との交流に忙しい。そして、そのときは訪れた。



「まずい、##NAME2##がいない」

慌てて及川も辺りを見回す。琴子と――あのクソ男もいないではないか。



「及川、見てこい。##NAME2##回収したらタクシーで帰れ。社長たちの許可も取ってある。ただし相手はボンクラでも取引先の次期社長だ、殴るなよ」
「了解」

暴力以外は何をしてもいいわけね、と会社では決して拝めないやんちゃな笑みを見せてくれた上司の言葉を勝手に広く解釈し、会場を抜け出したと同時に長い足を駆使して走り出す。
どこにいるんだよ##NAME2##。そんな思い詰めた顔なんてお前らしくない。活発で強気で、友達のことすっげえ大事に思ってて、でも実は泣き虫で、必死に弱さを隠してる。そんなお前が好きだから無理に変わろうとしなくていいし、無理にがんばろうとすることもないんだ。

見つけた二人はちょうどエレベーターに乗り込んだ。クソ男はあろうことか琴子の肩を抱いている。扉が閉まりきる前に無理やりこじ開けると、二人ともとても驚いた顔になった。



「すみませんね、彼女返してもらっていいですか?あんたが偉い人でも彼女は渡せないもんで」
「なっ…なんだお前!」
「一応うちの上司の許可は取ってるんで」

琴子の手を引いて抱き寄せる。寸でのところでエレベーターの扉は閉まり、彼は一人で客室へ運ばれた。



「帰るよ」

それだけ言ってあとはほとんど無言だった。正面玄関から外へ出る前に琴子にスーツを掛ける。生憎彼女のコートはクロークに預けたままで、今さら取りに戻る気にもならない。



「いらない。及川が寒いでしょ」
「俺はいいから泉が着てな。預けた荷物はそのうち取りに行こう」

タクシーの運転手に琴子の自宅近辺を告げる。ここから三十分もかからないはずだ。別に怒っているわけではない。ぼんやりと状況を理解しているものの、詳細は知らず、何より今は##NAME1##が無事だったことに安堵している。
汚え手で##NAME2##に触りやがって。俺だって事故で抱いただけで大事なことはなんも言えてないのに、あいつは自分の立場を振りかざして##NAME2##を、と途中からただの僻みになっているのはご愛嬌だ。

ここで止めてくださいと隣から聞こえた。車外に出た琴子は、この人を家までお願いしますと言いながらこちらを見やる。貸していたスーツは丁寧に畳んで##NAME1##がいた場所にある。ちょっと待てよ、なんでこんな、くそ!



「俺も降ります!」

慌てて支払いを済ませる。小さくなりつつある琴子を追いかけても追いかけても近づかず、その背中は掴めない残像のようで。
やっと肩を引いて振り向かせることができた。十二月の外気の中でこのドレスは寒いだろうに。再びスーツを肩に掛ける。



「泉、今日のなに」

人気のない住宅街だ。季節と時間のせいか、街全体がひんやりとしている。



「……べつに」
「俺がお前のこと好きなの気づいてるでしょ。こっちだって好きでもない女抱けるほどバカじゃないしね。いいから全部教えて」

明確に好きと言われたことに驚いていた琴子は、深いため息をついてから話し始めた。ため息をつきたいのはこちらなのに。



「前にうちの会社に来たとき、私を見て気に入ったんだって。たまに上司を交えて食事に行ってたの。今回は指名があったからパーティーに参加した。それだけ」
「ホテルに誘われたんだろ」

##NAME1##は従おうとしていた。



「##NAME2##さ、チャンスとか思わなかっただろうね」
「…思って何が悪いの?彼氏はいない。誰かに迷惑になることもない。私が我慢したらそれで済む。仕事のために、それくらいなら」
「それくらいとか言うな」
「男のあんたには分からない!私たちは女ってだけで不利になるのに、使えるものを使って何が悪いの!」

ああもう、なんでお前は。どうしようもなくなって、月の光のようにキラキラとして見える街灯の下、及川は##NAME1##を抱きしめた。その体は冷たい。



「##NAME1##の気持ちは分からないけど、俺は今日お前を信じて頼ったよ」
「なに、それ…」
「会場であんまりにもあのクソ男の行動がイラついて、指示も受けてないのに##NAME1##を連れ出そうとした。でもあのときお前、目で言ったじゃん。大丈夫だからって。だから俺は##NAME1##を信じた。じゃなかったら今ごろ俺のクビ飛んでたかもね」

俺は##NAME1##を頼った。だから##NAME1##も俺を信じて頼っていいよ。



「なによ、及川のくせに…」

胸に温かい雫が染みた気がした。ぽんぽんと背中をさすると嗚咽が深くなる。



「いやだった。及川は…いやじゃなかったのに、あいつに触られると気持ち悪くて、及川助けてって…っ」
「遅くなってごめん。無事でよかったよ。…##NAME1##」

今夜はどうしてもこの腕の中の熱を手放す気になれそうにない。それらしい言い訳を探した。
クロークに預けた荷物、明日の朝いっしょに取りに行こうか。そんなダサい言い訳しか思い付かない自分はやはり情けない。酒の勢いを借りて好きって言いたかったのに言えず、挙げ句ホテルでうっかり間違え、攻めあぐねていたのだから。駆け込み寺は身近な同期。ボンクラの力を借りてやっと本音を引き出せた。



「結婚式はクロちゃんにスピーチしてもらおうか」

気の早い提案に、##NAME1##は及川の胸に顔を押し付けて言った。



「…あんたなんかと結婚するわけないでしょ」

きっとこれは##NAME1##なりの精一杯の強がりだろう。全てが愛おしい。可愛くてたまらないやと思いながら##NAME1##の髪を撫でた。あの日と同じ香りが及川をさらに酔わせた。


「その言葉、結婚式の朝にもう一回聞きたいものだね」

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春風