赤兎 - 春風
青天霹靂

「うーん。確かに改めてこうやって見ると、##NAME1##ってお兄ちゃんと顔似てるね」


戦闘は阿伏兎によって一旦は収束された。
すると神威は、##NAME1##と沖田の顔を交互に眺めて一人呑気にそんな言う。沖田は殺気を飛ばすが、神威はそれを物ともしない。##NAME1##はそんな神威の様子を、苛立たしげに見遣った。


「そりゃ遺伝子だ、当たり前だろ」
「そうかな。俺には妹がいるけど、全然似てないよ」
「…お前みたいな男に妹なんていたのか、初耳だな」
「うん、俺の妹なのにこれがまた弱いんだ。神楽っていうんだけどね」
「「な!?」」

その口から漏れた聞き覚えのあり過ぎる名前に、沖田と山崎は更に耳を疑った。


「万事屋の旦那のとこの……」
「…あのチャイナか」
「…アリ、お侍さん、アイツのこと知ってるの?俺が家出たときにそのまま置いていったんだけど。弱過ぎて相手にもならなかったよ。……ヘェ、地球に来てたんだ」

神威はニコニコと言葉を続ける。その表情からは何の感情も読み取れない。
すると、##NAME1##が小さな声でポソッと呟いた。


「…全く可哀想な妹だな、こんな戦闘狂の馬鹿兄貴を持って」
「##NAME1##、犯すヨ?ってゆーかさ君、この頃俺を度々おちょくってくるよネ。まさか俺に喧嘩売ってる?売られた喧嘩は買う主義って##NAME1##も知ってるだろ?ちょっとこらしめた方がいいのかな?」
「悪い、ちょっと調子乗った」


神威は笑顔で、けれども##NAME1##の手首をミシミシと音が鳴るぐらい掴んだ。しかし##NAME1##は、少し顔を顰めただけである。


──もう##NAME1##を探し当てたし、用はないかな。


そう判断した神威は、沖田ら真選組一行に向かって言った。


「じゃーね、真選組の皆。##NAME1##は俺が嫁に貰ったから。大丈夫、一生大切にするから心配ないよ」
「心配ないよじゃねーよバ神威、まず貰われてもねーよ。阿伏兎、コイツちょっとボコれ」
「オイオイ止めてくれ、そこで普通俺に回すか?」

神威は##NAME1##の手首を握り締めながら、沖田ら真選組隊士に背を向けた。##NAME1##も阿伏兎も、それに続こうとする。


「##NAME1##、待て!!」

しかし、沖田は素早く##NAME1##の隣に駆け寄って、神威に握られていない反対の手を掴んだ。
沖田には、##NAME1##に聞きたいことは山の如くあった。


──今この機会を逃すと、次はねェ…!!


本能的に、そう感じたのだった。


「何でお前が……」

沖田は、##NAME1##の瞳を見つめて言った。その瞳に宿る感情を探ろうとでもするように。


「……夜兎なんかの凶暴な連中とつるんでいるんでさァ……」
「………」

その質問に##NAME1##は目を逸らし、口を閉ざす。その眉間には、僅かに皺が寄った。
暫くしてやっと開かれたその口から出て来たのは、余りにも冷徹なものだった。


「……私がどう過ごそうが、アンタには関係ない。そうでしょ?」
「………」


沖田は思わず黙り込んだ。しかし、そのまま言葉を続けた。


「お前、俺や姉さんが…あの野郎が、どんだけ心配したか……お前、分かってんのかよ……」
「………」


沖田が苦しそうに声を振り絞った。しかし相変わらず##NAME1##の表情に変化はなく、ただ無表情に遠くの虚空を見つめている。

その##NAME1##の肩に、神威が手を掛けて##NAME1##を庇った。


「これ以上コイツを責めないでよ。ね、##NAME1##」
「神威……。それよりお前、顔近い」

いつの間にか神威の顔は##NAME1##と数センチの距離にあった。


「え?チューして俺たちの仲を見せ付けてやろうよ」
「なんでそうなるんだよ、この馬鹿。私らはそんなに仲良くはないでしょう」
「…それはそれでちょっと傷付くんだけどなぁ」


すると##NAME1##は、神威の方には向かず、小さくこう言った。


「……神威、ありがと。助かった」


それは、聞こえるか聞こえないかの小さな声だった。
しかしそれをしっかりと耳に入れた神威は、##NAME1##を見て、少しだけ頬を緩ませた。


──また、神威に助けられた。

内心神威に感謝をした##NAME1##は、売って変わってキッと顔を上げると、沖田を鋭い眼差しで見つめて言い放った。


「アンタなんか大嫌い、ミツバも大嫌いだ。お前なんて知らない。私はもう、アンタなんかを兄貴だとは思っていないし、思ったこともない。今更、兄貴ヅラをして来るな」

##NAME1##はそう言って、沖田の手を乱暴に振り払い背を向けた。


「神威、阿伏兎、行くぞ」

そう言って─……

タンッ!
──踏み切って跳躍し、屋根の上へと姿を消した。その動きは、明らかに人間離れしていた。


「「「……」」」
「相変わらず身軽だよネ、##NAME1##って」
「あぁ、全くだ」

阿伏兎と共に神威は、##NAME1##の跳躍に続こうとしたが、突然「あ」と声を上げた。


「そうだ。自己紹介がまだだったネ?俺は、宇宙海賊春雨第七師団団長の神威」
「「「!?」」」


沖田らは目を剥いた。なんせ神威の口から出たのは、かの有名な最強海賊春雨第七師団であり、その名に驚くのは当然だ。


「で、こっちが団員の阿伏兎。ちなみに、##NAME1##は俺の補佐をしてるよ。覚えててね、##NAME1##のオニイサン」

神威はそう言葉を切った。


ダンッ!


そして神威と阿伏兎は##NAME1##と同じようにそれに続き、姿を消した。
沖田率いる真選組は、その場に取り残された。放っておかれた、見るも無残な五人の攘夷浪士の死体と血と共に。重苦しい沈黙が、その場を包んだ。


**********

「副長、こっちです!」

土方が山崎によって案内されたのは、狭い路地裏だった。


「……!?」

辺りに立ち込める血臭に、土方は思わず口元を手で覆った。すると、その探していた背中が見えた。


「そ、総悟!?」


沖田は、いつもの彼らしくなく地面にへたり込んでいた。
土方は思わず焦って沖田に駆け寄り、その名前を呼んだ。


「総悟!?オイ、総悟!!」

名前を呼ぶと、沖田は焦点の合わぬ目を土方に向けた。その目には、薄くではあるが涙が光っていた。
普段からは想像もつかないこの姿は、先程まで起こっていた何かが、どれほどのものだったかを語っていた。

沖田は、力なく口を開いた。


「土方さん……。俺は…どうすりゃあいいんでさァ………」

その口から漏れて来たのは、細く儚い、今にも消えてしまいそうな声だった。


「どうした?お前、一体何があった?」


──自分の声が、妙に野太く感じる。

沖田は俯いて地面に手を着き、嗚咽を漏らして泣く様子を見て、土方はそう感じた。


「…##NAME1##……」
「は?」
「……##NAME1##が、いたんでさァ……」
「!!?」


──##NAME1##?

呆気なく、土方の思考はここで完全に停止した。


「ど、何処にだ!?」
「…##NAME1##が、俺達の前から消えた##NAME1##が、春雨第七師団員になっていやがったんでさァ………」
「!?」

聞こえたそれに、土方は真剣に我が耳を疑った。


「っつーことは、この死体はまさか…」
「……」
「アイツか、##NAME1##が殺したのか…?」


まさかと思い、土方は沖田に問うた。沖田の否定の言葉を期待しながら。
しかし、沖田は力無く頷いた。


「……マジかよ………」

──##NAME1##。お前は宇宙にいるのか?俺等の所へは?


「……戻って来ねェのかよ、##NAME1##…」


そう呟いた土方の目からも、スゥッと音もなく一筋の涙が流れた。その横顔は、巨大な海賊船らが飛び交う、もう昔とはすっかり変わってしまった江戸の空を見上げていた。


- 続 -

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春風