鬼滅の刃 - 春風


 強い者を求めて、大陸を渡って来た。そう言ってしまえば聞こえは非常に良いが、実際はそのような崇高な理由は何一つとしてない。本当の理由からは今だけは目を背けることにした。この極東の地まで、わざわざ[[rb:ア > ・]][[rb:レ > ・]]が追手を寄越すとは考えられない。

 夜兎族は、生命力が高く強靭な肉体を持っている。肉弾戦の戦闘力が高く俊敏な戦い方をし、極めて残忍な攻撃をするのも特徴。そのため私は人を殺めることがないように、普段は夜兎本来の能力を抑制するようにしている。

 戦いを好む種族で、数々の国を潰してきたといわれる。幾多の戦いでの犠牲及び「親殺し」という独特の古い風習や、夜兎を恐れた他種族達に故郷の国・徨安を襲撃されて滅ぼされたことにより、現在は絶滅寸前に陥っている。


 泉の容姿は顔中を覆うようにぐるぐると包帯を巻いているために、人一倍目立つ。
しかし下手に動かない限り、体力はかなり長持ちする。

「猪突猛進!!猪突猛進!!」


「オイ!!そこの包帯グルグル女!!俺と勝負しろ!!」

「いいわよ。…あなたは、それなりに腕が立ちそうね」
「俺は強い!!山の王だからな!!」
 久し振りの戦闘に、泉は自身の血が僅かに沸き立つような感覚を覚えて、口角を吊り上げた。


「お前……ゲホッ、い、一体、何モンだよ…」


「…私は泉、人よりちょっと力が強いだけよ。あなたは?」
「俺は嘴平伊之助だ!」

「お前、“鬼”ってやつか?」
「…鬼?」
 聞き慣れない単語に、首を傾げる。
 すぐに思考を巡らせて、その単語についての記憶の引き出しを検索した。祖国の資料庫にて、古びた日本についての資料の中で、確かにその単語を見た覚えがあったのだ。
 しかし、その鬼というものは、日本の妖怪であり、民話や郷土信仰などに登場する、伝説上の存在ではなかっただろうか。中国では鬼とは幽霊や亡霊の意味があるが、どちらにしても実在する生物のようには到底考えられない。

「その鬼…というものは、日本の伝説上の生き物ではないの?」
「デンセツ、ジョウ…?」
「言い伝えのことよ」
「いや。俺もよく知らねーけど、鬼は確かにいるって母ちゃんが言ってた」


「となると、部族の一つの名称かしら…」
「は?ブゾク?」
「同一の歴史的背景を持った共通の文化や言語、宗教や価値観の上で一定の地域にて共同生活を営む社会の単位よ」
「だあああああ!!堅ッ苦しい言葉じゃ分かんねぇよ!!」

どうやら、

「でも、よく見たら、お前とヤツらは気配が全然違う」
「!!あなたはその鬼を見たことがあるの?」

「うーん、鬼は人を食うぞ」
「………」

「オエッ、気持ち悪い…。私は美味しいものしか食べないわ…」
「今はヤマメとタケノコが一番美味いぜ!!」
「そうなの…」

******

「俺の母ちゃんは猪だ」


「今日から俺が弟になってやる!!」


「ッ、ふ、あははははは!」


「…嬉しい。よろしくね、伊之助」
「!!」

******
ある日山を下りた伊之助は鬼殺隊隊員と遭遇し、例のごとく戦いを挑む。
鬼殺隊隊員に勝った伊之助はその鬼殺隊隊員から鬼、鬼殺隊、試験の存在について知り、鬼殺隊隊員の持つ「日輪刀」を奪って試験に臨む。
こうして伊之助は鬼殺隊の情報を知り、入隊した。



「た、たた、たっ、炭治郎!!あ、ああああ、あ、あの人!!い、岩!!岩投げたよ!!」



「なぜ?」

「死ぬときくらいは、せめて──笑顔で見送ってあげなきゃ」



「ふうん。じゃあ、夜が明けるまでの間ずっと四肢を捥ぎ続けるしかないのね」
「いやいやいやいやグロいからああああ!!!」


「もうやめて…!」


「…別に、[[rb:甚振 > いたぶ]]るのが趣味なわけじゃないのよ」



「あなたは、美しいわ…」
「私は、そんないいものじゃない」

「いいものじゃないの。ましてや、あなたに羨んでもらえるような──碌な生き物じゃないの」



「夜兎は親殺しをする。血に抗えなくて、殺しそうになったわ」


*****

「お館様、お尋ねしたいことがございます」

「そこのミイラ女は何者ですか」


「鬼殺隊の癸の隊士を守ってくれたお方だよ。お礼を言いたいと思って、この場に足を運んで頂いたんだ」
「アア?隊士を守っただァ?」

「私は、決してあなたたちの隊士を非打算的に守った訳ではありません。私の弟分が命の危機に晒されていたので、それを助けたまでのことです」


「弟と言っても、血は繋がってはおりません。まず第一に、私は異国の生まれですから」

「日輪刀なくして、どのように殺したのか。私はそれが気になります」

「相手が攻撃を仕掛けてくる前に、心臓を手で突き刺しました。再生する度に四肢を捥ぎ取り、」


「…あの時は、例の鬼とやらの生物の殺し方を知らなかったので、そうするしか手がなかった」



「ってことは、…は?コイツ、素手で鬼とやったってことか?!」
「はい」


「私は、中国の夜兎という傭兵部族の末裔です」


「その薄気味悪い包帯は何なの?血に濡れたままで気色悪いんだけど」
「私たちは直射日光が苦手なので、全身に巻いているんです」
「…ったく、聞けば聞く程ますます鬼にしか見えねぇ」
「伊黒さん、宇髄さん。包帯を巻いたくらいでは、鬼は日のもとへは出られませんよ」


「無惨に狙われる可能性があるね」



「…無惨?」


「お館様!!そのことを部外者に伝えるなど、いかがなものかと!!」



「──其奴は、強いのですか?」



「我々の最大にして、最強の敵です」
「…へぇ、そうですか」


目が爛々と輝く。

「是非一度相見あいまみえてみたいものです」


「私は君に、決して兵器として働いて欲しい訳ではないのだよ」
「……何故です?」


「母国では、私は雇い主にはただの殺戮兵器として扱われていました。そうではないのですか?」


「皆がそれぞれ誇りを掛けて、戦っているんだ」



「…残念ですが、私に誇りなんてものはありません」


「強者と戦い、打ち勝つ。それしか頭にないような、夜兎とはそういう生き物なのです」


「夜兎族は、宇宙最強最悪とも言われる傭兵部族戦闘民族で、陽の光には弱いものの、肉体は非常に強靭です。その素手だけで基本余裕で戦うことが可能な民族として、武器をもつ必要にせまられることがなく、そのために敢えて武器をもった体術というのが歴史的に発展しませんでした。通常では武器ではないけれど、日の光を避けるためのこの番傘を武器として使用することはあります」

「夜兎族には、親殺しという風習が今もなお根強く残っています」

「親を殺してこそ、一人前の夜兎として認められる。…夜兎が絶滅危惧種なのも当然です。互いに殺し合いをするのですから」


「ですが、この血にはどうしても抗えそうにはないのです」


「己と同等…それ以上の剛なる者の血をもって初めて──私の魂は潤う」

「あなた方のような人の領域に、私のような日陰者が踏み込むべきではありません」


「このことは他言しません。他言させようとしてくる者は全て抹殺致します故に、ご心配は無用にございます」



「君は、これからどうするんだい?」
「…私は、未知なる生物を求めて更に大陸へと渡ろうと思います。お身体にはお気を付けて」


「相談をさせて頂きたいのです。後三日間、待って頂けないかな」

「三日間ですね、構いませんよ」


*****


「…さあ。彼女を見て、皆はどうするべきだと思う?」



「俺は賛成だ。あんな逸材、そうそういねぇよ」

「ただでさえ人員不足なんだ」


「彼女は鬼に対する憎しみなどはない。ただ殺戮することだけが、彼女の生きる目的なんだ」

「…これから彼女がどう変わっていくかは分からないけれど、彼女の根本的な性質は、こちらも充分に理解しておかないといけないね」


「恐らく──この場にいる柱全員が、束になっても敵わぬ」


「表面上だけじゃねぇ、骨の髄まで血に塗れていやがる。…どんな生き方をしたらあんな匂いが人から出せるんだ」


「彼女を、兵器として受け入れたいわけではないんだ」


*****


「また血濡れかよ…」


「湯浴みをすると良いよ。案内して差し上げなさい」
「いえ、井戸水で構いません」
「お館様のお心遣いですよ!遠慮することは失礼に当たります」
「いいや、今彼女は鬼殺隊員ではないのだから、」

「……この屋敷には、あなたとその奥様、息子さんと娘さん、そしてあなた方九人しかいない。違いますか?」

「お前、何か探りやがったな?!」
「まさか、探らずとも気配で分かります」


「だからこそ、私のような得体の知れない部外者をこうも長々といさせるべきではない。…ここはあなた方の本部なのでしょう?であるとすれば尚更のことだ」



「…その無惨とやらが私を狙っていたとしても、関係ありません」

「──手を出せるものなら出してみろと、伝えるまでだ」


「これは…!」

「死にたくなければ、そこで惨めに震えていろと伝えろ」

「私は強い者と戦えるのであれば、一向に構いません」

「私を捨て駒として何なりとお使いください。──それが、あなたの大義となるなら」


「少し、畳に上がって私の子どもから説明をさせて頂きたいのだ。〇〇、湯汲みを」
「畏まりました」


「…我が目を、疑いました」

「……こりゃまた、偉い別嬪さんがいたもんだ」



「顔の皮膚を剥がされそうになったこともあります。まぁ…相手はその場で吹っ飛ばしましたが」



*****


「あなたには、最終選別を受けて頂かなければなりません」



「刀はいりませんよ。縄があれば充分です」

「日が昇るまでの間、手足をもぎ取れば良いだけです」


「……ご指導どうも。けれど、もう結構」



「んなら、俺のとこで面倒見てやるよ」
「いいえ、私のところへ」


「泉さん、もしもあなたの同意が得られれば、あなたの血液を採取して研究させて頂きたいのですが…」
「もちろん、構いませんよ」


「敬語は必要ありませんよ。私の方が恐らく年下ですし、私のこれは癖みたいなものですから」


「…うん、ならお言葉に甘えてそうするわね」


「今宵は最終選別にお集まりくださってありがとうございます。この藤重山には鬼殺の剣士様方が生け捕りにした鬼が閉じ込めてあり、外に出ることはできません」


「山の麓から中腹にかけて鬼どもの嫌う藤の花が一年中狂い咲いているからでございます」


*****

「短刀は、あまり鬼殺隊の方はお使いにはならぬのですが…」



「姉貴は基本的に肉弾戦だ」



*****

冨岡がスンッと鼻を鳴らした。

「──月のものか」

「……」
「……」

「…冨岡さんって、本当にそういう配慮に欠けていますよね」
「………すまない」


廊下で鉢合わせ。
「しのぶさん……」

「泉さん…!今日は丸一日寝ていて下さいと、私今朝あれほど言いましたよね?」


「本当にごめんなさい……その…とても申し訳ないのだけれど…私、汚しちゃって…」


「あら、そんなことですか?気にしないでください」
しのぶがサラリと言う。

「泉さん!いた!」
「アオイちゃん…」

「本当に……ごめんなさい。私、自分で洗うわ」
「ッ、だから!!本当に気にしないで下さい!!こちとら数え切れないくらいの怪我人を相手にしているんですよ!!血抜きくらい本当に慣れっこですから!!だからあなたは寝ていて下さい!!」



「…経血量が異常に多いですね。常人であれば死んでいるでしょう」
「死ィ?!」


「…それに、私のこれは、多くて二月くらい続くの…」


*****


「アーン?俺は神だ!!お前らみてぇなお子様どもみたいに飢えてねぇんだよ」


「おい、食えるか」

「ッ、!」

──その色香に、思わず当てられそうになる。


「…宇髄、さん?」
「おーおー、派手に寝込んでんなぁ」

「馬鹿か、無理に起き上がってんじゃねぇよ」


「…これ、あそこの?」
「お前、食いてぇつってたろ。店の親父に無理言って詰めてもらった」


「…すごく、美味しい」
「おう、良かったな」


「戦えない夜兎なんて無意味よ…。こうして寝ている間に、一体何匹の鬼をやれるのかしら」


「ハア?んな地味なこと気にしてんじゃねーよ」

目から鱗だ。
「…地味、かしら」
「ああ、地味すぎて話になんねぇよ」


「お前は、どう足掻いても女なんだ」

「ちょっとくらい伏せてる方が、可愛げがあっていいんじゃねぇの」


「二月はちょっととは言わないわ…」
「今まで散々働いてきたんだ、誰も文句は言わねぇさ」


「それにしても…随分と重てぇみたいだな」
「元々、夜兎の女は皆が基本重たいみたい…。私は、その中でも最も酷い方よ」

「…お前、俺の四人目の嫁にもらってやろうか」

「私みたいな殺戮兵器に、あなたみたいな良い人は勿体ないわ…」


「──この顔が、冗談に見えるか?」


「テメェ、姉貴に触ってんじゃねぇえええええ!!」
「泉さんを穢さないで頂きたいいいいいい!!」
「オッサン貴様ァ!!泉さんに気安く触るなァアアアアア!!」

「うるッせぇええエエ!!餓鬼共が!!男と女のやり取りに口挟んでんじゃねぇよ!!」


「泉、考えとけよ」



「…姉貴は、アイツが好きなのかよ」



「好きとか、そんな感情…どこかに置き忘れてきちゃったの」



「…大丈夫。伊之助、炭治郎、善逸。私、何故だか分からないけど──あなたたちのことは、死ぬまで大好きだと思うの」


*****


「──この人たちに、手出ししてんじゃないわよ」

帯を全て弾き飛ばす。



「あなた、この世のものとは思えないくらい、綺麗ね…」


「…兄弟がいるのね」


「…一人ぼっちじゃないことは、素晴らしいことね」



「姉貴…姉貴ぃ…!」

「伊之助、よく頑張ったのね」



「宇髄、さん…」


「…私の部族では、腕がもげても戦闘をしていたの。それしか生きる術がなかったから」


「──義手を、ご存知ですか?」
「!!」

「私の同僚たちが度々腕がもがれるものだから、私は度々それをこさえていたの。けれど、義手は信じられないくらいに高いから、それらの材料だけを調達してきて、皆が私に頼んだわ。…私は、それなりに器用な方だったから」


「──採寸をさせて頂けますか」


「安心して。同僚の男たちは皆それで戦闘を乗り切ったのよ。むしろ戦闘仕様だったから、既製品よりも頑丈なことで有名だったんだから」


「日常生活に不便が出ないくらいのものを作るから…待ってて」


「お前は…本当に、いい女だなぁ」


「生きていて、ッ、良かった…」

*****


「ただの貧血ですね」

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