シロツメクサの動乱 - 春風
こっそりと許嫁の捜索開始

視点:手塚国光


日曜日の午前練が終わった後、俺たちレギュラー陣は揃って不二の家へと顔を出していた。…と言っても、一人大石は無理矢理菊丸や桃城に連れて来られたのだが。その道中も、皆はワイワイと喧しい程に議論を交わしていた。

その話題は言わずもがな、先日発覚した「真田の許嫁が青学にいる」という事実である。この手の話にはさして興味を抱かないと思われた越前や海堂までもが乗り気な様子には、正直かなり驚いた(その越前に「部長もこんなことに興味持つんだ、なんか意外っスね」と言われたことは、この際気にしないでおく。…俺とて人間だ、あの真田のことともなれば好奇心も抱く)。
しかしそれよりも更に予想外なことに、家へ招いた本人である不二が余りにも真剣な顔をしていたのだから、今日は帰宅後に家で課題をこなす予定であった俺も、この誘いを自然と断ることができず現在に至る。


居間のソファーに腰掛ける俺たちに紅茶と洋菓子を用意してくれた不二が、同じく席へと座るなりノートを片手に持つ乾へと身を乗り出した。


「それで乾、何か分かったことはあるかい?」
「いいや。先程蓮二からもメールがあったのだが、あっちも行き詰っているらしい。何しろ相手は、あの頑固で知られた真田だ…アイツらも注意して動かないといけないから、中々苦労しているようだね」
「うーん。真田さんがその許嫁とデートしている所を目撃できたら、一発なんスけどね〜」
「そうだにゃ〜。でも、そもそもまずあの真田がデートなんてするかぁ?」
「甘いッ!!」


そう言うなり突然立ち上がった不二に、菊丸を筆頭に俺たちは思わず大きく仰け反った。効果音をつけるならば、さしずめズビシィ!であろう勢いで不二は菊丸の顔面を指差しており、その目は開眼されていてかなり恐ろしい。
不二はそこに立ったまま、腰に手を当ててまるで説教をするような口調で続けた。


「あの真田に許嫁がいただなんて、僕たちが全く予想だにもし得なかったことが現に起こっているんだよ?!デートも例外じゃないに決まってるじゃないか!」
「お、おお…」
「あのォ、不二先輩?キャラ崩壊してるっすよ…」
「桃うるさい」
「は、はい!すんませんッス!」

不二の冷たい微笑を向けられた桃城は、その顔を真っ青にさせた。
…おい不二、お前なんて顔しているんだ。恐ろしいにも程があるだろう。


「でも、本当にじれったいよね。僕、面と向かって真田に聞いちゃおっかな?」
「ええええ不二先輩?!そんなんダメに決まってるじゃないッスか!!」
「でも、僕こんなウダウダとするのって余り好きじゃないんだよね。誰か、真田の電話番号って知ってるかい?あ、手塚なら知ってるよね」
「ちょ、不二先輩!ダメっすってば!」
「不二!今ここで俺たちが動いたら、何もかも水の泡になるにゃ!落ち着けってば〜!」
「クスッ、皆思い切りが足りないんだよ。海堂、手塚の携帯をこっちに持って来てくれないかい?」
「えっ…?!」
「あれ、聞こえなかった?手塚の携帯を、僕の所へと持って来てくれないかい?」
「えっ…い、いや。不二先輩、そんなのダメっすよ…!」


すると眉を下げた海堂が助けを求めるように俺の方を見て来たので、俺は仕方なく助け舟を出してやることにした。思わず口からは溜め息が漏れる。


「…不二、真田に直接聞くことは避けるべきだ。今俺たちがここで下手に動いたら、余計に警戒されてしまうだろう」
「…そ、そうッスよ!もうちょっと様子を見てからにしましょうよ!」


すると皆が口々に不二を宥め始めた。
…不二、一体どうしたというのだ。まさかこの不二の思考をここまで乱れさせるとは、この話は思っていた以上に皆に影響を及ぼしているようだ。確かに冷静に考えてみると、この手の話に耐性がない俺たちにとって、“あの真田”に“彼女”ではなく“許嫁”という存在がいたということを知らされることにより、俺たちは自身が気が付かぬ内に二重の打撃が与えられていたのだろう。


「なんか俺もう疲れたっス…不二先輩怖すぎ」

すると、げんなりとした顔の越前がのそのそとこちらへと這って来て、俺の隣の床へと座り込んだ。


「(…俺は避難所か)」


つい一人で内心突っ込んででしまった俺の心情を、誰も知ることはないだろう。任されていることに何ら不満もないが、つくづく部長の立ち位置には苦労が多いものである。
労いの意味を込めてその頭へ手をおいてやると、越前は力尽きたように机へと突っ伏してしまった。


真田、まさかお前がここまで俺たちに激震をもたらすとはな。長い付き合いだが俺にもその影すら見せなかったとは、正直驚いたぞ。
だがすまない、うちのレギュラーをここまで動揺させたんだ、俺たちにも知る権利は充分にあると思うのだが。

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春風