シロツメクサの動乱 - 春風
こっそりと許嫁の捜索開始

視点:鳳長太郎


「なら、今から現状整理と作戦会議すんで。こっちに注目してな」


部活が終わるなり、レギュラー専用の部室でいち早く着替えを済ませた忍足さんが、まだ着替えている俺たちに向かってそう言った。そんな忍足さんに、我が宍戸さんがワイシャツ片手に上半身裸のまま眉を顰めて面倒臭そうに言った。


「現状整理も何も、あの堅物の真田に許嫁がいるってことが発覚したってだけじゃねーか」
「アホか!!」

すると忍足さんは、あろうことか宍戸さんの頭をスパン!と勢い良く叩いたのだ。
いてぇだろうが!と叩かれた頭を抑える宍戸さんは、ちょっぴり涙目だ。…宍戸さんにこんなことをした忍足さんには軽く殺意が芽生えたけど、取り敢えず今はそれを抑えることにする。


「宍戸、これは由々しき事態やねんで?これがどーゆーことか分かるか?あの堅物で名の知れた皇帝真田に許嫁…下手したら俺らの内の誰よりも進んどるっちゅーことかもしれんのや」
「バッ!な、なんてこと言うんだよ忍足!」

忍足さんのそんな言葉に、宍戸さんは顔を真っ赤にさせた。これは黙っちゃいられない、ここはこの俺が宍戸さんを守らなくては!


「ちょっと忍足さん!宍戸さんはあなたみたいな脚フェチド変態とは違って本当に純情なんですから、変な影響を与えるような言い方止めて下さい!」
「長太郎、お前その言い方止めろよな…」
「鳳、お前は天然と言う名の凶器やな…ほんまタチ悪いわ…」
「?」

そう言うと何だか二人にげんなりとされたけど、宍戸さんを守るのは後輩として当然のことだから、俺は何も悪くないと思う。何で二人がそんなになっているのかは分からないけれど、取り敢えずここは首を傾げて誤魔化しておいた。


「つーか忍足、お前この前ジローからこの話聞いた時はあんまり興味なさそうだったじゃねーか!」
「アホか。あんな宍戸?俺はあの後家に帰って冷静になって、これがどんだけの大事態かってことに気ぃ付いたんや。あの時はあんまりに凄い衝撃で余裕ぶった発言しとったけど、恋愛小説マスターとしてはこんなおもろいネタを見逃す訳にはいかんのや」
「結局それって完璧にお前の私情っつーことじゃねーか!」
「ま、まぁまぁ宍戸さん、落ち着いて下さい!」


また忍足さんへ突っ掛かろうとする宍戸さんを制止していると、着替え終わって帰り支度を済ませた日吉が「お先に失礼します」と言って俺の横を通り過ぎて部室を出ようとしたので、思わずその腰にしがみ付いた。逃がさないよ!


「…おい鳳、離せ」
「嫌だよ!忍足さんの相手を俺だけに押し付けようったって、そうはさせないからね」
「悪いが俺はその手の話に全く興味はない。真田さんに許嫁がいようがいまいが、俺はただ下剋上をするだけだ」


俺と日吉がそんな言い合いをする中、忍足さんが「鳳…さっきからお前の悪意ない暴言で俺の心はズタボロやねんけど」とか何とか言ってた気がするけど、今の俺には関係ない。

あくまでも自分の姿勢を崩そうとしない日吉は、本当に相変わらずだと思う。でも、俺分かってるんだよ?──日吉だって、少し気になってるってこと。
かく言う俺だって、皇帝とまで呼ばれるあの真田さんに許嫁なんて存在がいたということに、勿論興味津々だ。でも分かって欲しい…この感情は、忍足さんみたいな野次馬根性ではない。


「その下剋上する相手に許嫁がいるんだよ?日吉だって彼女いないじゃん。どう足掻いたって俺たちが負けてることに変わりないだろ?…それとも何?日吉は真田さんに男として負けてるっていうこの状況に満足なわけ?下剋上掲げてる日吉が?」
「……」
「宍戸さんも、皆さんも聞いて下さい。確かに真田さんは皇帝と呼ばれる強さ、その二つ名に見合う実力を持った人です。俺も、敵ながらにその強さは尊敬に値すると思うんです。でも!俺は、男として真田さんに負けているというこの状況は…屈辱でなりません!!」


そうだ、今の俺たちは“一人の男”としてあの真田さんに負けているのだ。こんなこと、勝利に貪欲な氷帝テニス部が見逃す訳にはいかない。だからこそ、その許嫁がどんな人物かどうかをきちんと見極める必要がある。許嫁なんて、家の事情でそうなっているだけかもしれないし、もしそうなら俺たちは負けてなんかいないってことになるんだから。

すると、暫く何かを思案するように黙り込んでいた皆が、一斉にその顔を上げた。


「…下剋上だ!!」
「そう!その勢いだよ日吉!」
「まぁ確かに、あの真田の相手なんて、ちょっと気になるな!くそくそ!真田の癖に!」
「そうですよね向日さん!こんなの見逃せませんよね!」
「…知っといて悪いことはない、かもな」
「そうでしょ宍戸さん!さすが宍戸さんです!宍戸さんならきっとそう言ってくれると思っていました!」
「……まぁ過程はどうであれ、お前らが乗り気になってくれたんなら俺は何も言わへんわ」


とにかく、俺の説得が響いたのか、皆は何とか納得してくれた。
すると早速向日さんが忍足さんへと向かって、とある疑問を投げ掛けた。


「でも侑士?俺たちは何も動くことなんてできねーだろ?これからどうすんだ?」
「せやねん。さっき乾からのメール見たら、立海も青学の連中も手は尽くしたようやけど、どっちとも手詰まりらしいわ。せやから、ここらで何らかのアクション起こさなこの事態は一つも変化せーへんっちゅーことや」
「なら、何か案を考えなきゃいけませんよね…。皆さん。何か思い付きますか?」
「zzz…」
「下剋上だ…」
「ウス…」

忍足さんに乗っかって議題を振ってみたけれど、全然案が湧いて来ない。話を進める上で八人中三人が使い物にならないんだから、仕方ないと言えば仕方ないのかもしれないけど。

すると、終始この遣り取りを椅子に腰掛けて優雅に脚を組んで黙って見守っていた跡部さんが、突如ククッ…と笑い出した。それに俺たちは皆一旦言葉を噤んで、跡部さんに注目をした。


「ハーッハッハッハ!真田の奴、面白ぇじゃねーの!ここまで俺様たちの興味を擽る話題は久しぶりだぜ!」
「…跡部、お前ならこの状況をどう対処するっちゅーねん」
「決まってんだろ。…おい樺地、電話だ!掛ける先は──青学の手塚と立海の幸村だ」
「ウス」

跡部さんがそう言うと、樺地はケータイを取りにロッカーへと向かった。それぞれの部長に電話なんて掛けて、一体どうするんだろう?
頭の回らない俺を差し置いて、自称恋愛小説マスター忍足さんは何かを察したのか、跡部さんを見詰めて驚いたようにその切れ長の目を見開いた。


「ま、まさか跡部、お前…」
「ああ、そのまさかだ」


パチン!
跡部さんのいつもの指パッチンが決まり、俺たちはその次の言葉を待った。


「合同合宿、やってやろうじゃねぇの。そうすれば、奴だってボロを出すかもしれねーだろ。そうでなくても、俺たちが探りを入れる機会も生まれるだろうよ」


…おお。


「「…さすが跡部/さん」」
「ハーッハッハッハ!」

やっぱりこの人は、どこの誰よりも行動力があると思う。勿論その経済力があってこそなんだろうけど、それでもこうにまで思い切った決断力を見せ付けられると、正直感嘆するしかない。流石です、跡部さん。


- 続 -

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春風