黒髪のウィーズリー成長記 - 春風
ウィーズリー一家の朝

既に日課となっている早朝の飛行練習を終えて、ランは冷たいシャワーを体いっぱいに浴びて汗を流していた。艶を放つ射干玉ぬばたまの黒髪が、背中や腰にぺたりと張り付く。水を含んで重たくなったそれを手で掻き上げると、床のタイルに水飛沫が撒き散らされた。
すると、そのシャワールームに、コンコンという軽快なノックの音と、それに続いて温かい女性の声が響いた。


「ランちゃん、そこにいるかしら?」
「いるよ、母さん」

それを耳にしたランは、キュッという小気味好い音をさせてシャワーの栓を締めた。右手を後ろに伸ばしてバスタオルを鷲掴み濡れた体を拭くその一通りの動作は、もう随分と手慣れたものだ。

「ランちゃん、着替え終わったら皆を起こして来てくれる?…もう、本当皆揃って寝坊助なんだから」
「ええ、分かった」
「いつも悪いわね」
「別に。もう慣れたよ」

ランがそう言うと、母親であるモリーは朗らかな明るい笑い声を上げた。耳に入ったそれに、ランはガシガシと頭を拭きながら、僅かに口元へ笑みを浮かべるのであった。

本来ならばウィーズリー一家の女子は飛行が禁止される中、ランは次兄の箒であるクリーンスイープ5号を借りて、毎朝日が昇る直前まで丘の空を全力飛行するのが日課となっていた。
地面に向かって垂直になり衝突する直前にまで急降下して、箒の先が草に触れるか触れないかの時点で方向を急激に変えてみせる──これが中々に難しい──この練習が、ランの最近のお気に入りである。失敗して顔中が傷だらけになっても、ランは次兄から貰った即効性の塗り薬を使うことで、母による猛追撃を逃れていた。


つまり、ランが飛行訓練をしているということを、モリーは知らないのだ。それ故にランは、ウィーズリー一家の中では珍しく、毎朝シャワーを浴びるのが日課の早起きが得意な良い子ちゃんという母からの認識を受けているのであった。

軽く乾かした腰まで伸びる長く美しい豊かな黒髪を、手首に付けていた黒いゴムで後ろで緩く結わえた。
──ランの一日が、今日も始まる。

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