黒髪のウィーズリー成長記 - 春風
ウィーズリー一家の朝

体の水分を粗方拭き終わったランは、部屋着であるぶかぶかのTシャツ ──何番目の兄の所有物であったかはもうすっかり忘れてしまったが、取り敢えず兄のお下がりだ──と紺色のスキニーに着替えて、沢山の兄達と一人の妹を起こすために、ジグザグに上へと伸びる狭い階段を上った。

二つ目の踊り場の扉をノックをして中にいるパーシーへ声を掛けると、割とはっきりとした応答が返って来る。これはもう起こしに部屋へ入る必要はない。ランは更に階段を上った。


ランは三番目の踊り場に辿り着いた。扉に片耳を押し当ててその耳をそば立ててみるものの、中からは何も物音はしない。まずはここ、ウィーズリー一家の中で一番末っ子である妹のジニー兼自分の部屋だ。
ランは二回ノックをして、その扉を開け放った。ピンクを基調とされた可愛らしい内装の部屋である──因みにこれは全てジニーの趣味だ。魔法界の有名バンドとホリヘッド・ハーピーズという女性だけのクィディッチ・チームのポスターが壁に貼られ、日当たりの良い窓からは爽やかな朝の陽射しが差し込んでいる。

ランは部屋へ足を踏み入れて二段ベッドの下に眠る彼女の枕元に立ち、体を丸めてすっぽりと頭から毛布を被るこの部屋のもう一人の主である自分の妹に、そっと声を掛けた。


「ジニー、起きて。朝だよ」
「ん…ラン、おはよう…」
「おはよう。朝食がもうできてるよ」
「はーい…今起きるわ、ちょっと待って…」

そう言ってモゾモゾと体を動かすと、ジニーはやがて緩やかな動作で体を起こした。ウィーズリー一家の象徴とも言えるその豊かな赤毛には、これまた見事に寝癖が付いている。

「んー…ラン、おはよう…」
「おはよう。さぁ、兄さん達が来る前に顔洗いに行きなさい」
「はーい…ねぇラン、もうちょっと寝ちゃ駄目…?」
「私は別にいいけど。けれどジニー、今のあなた物凄い寝癖が付いてるわよ」
「えぇ!そんな、嘘ッ?!」

するとジニーは今迄の寝惚け眼が嘘のようにまで勢い良くベットから飛び起きて、ドタバタと足音騒がしく階段を降りていったのだった。

今日は、家族全員揃ってダイアゴン横丁へと出掛ける日だ。少し背伸びをしてお洒落をしたい年頃の少女は、みっともない寝癖を付けたまま外を出歩くことを以ての外としているのである。


*****

三階にある扉をノックをせずに静かに開ける。案の定部屋はとても煙たく、とても人間が眠る部屋だとは到底思えない。
よくもこの中で二人はぐーすかと盛大に鼾をかいて眠れるものだと、ランは常々そう思うのだった。ランとて魔法薬を作っている時に部屋に匂いが充満してしまうこともあるが、その後にはしっかりと換気をしなければ気がすまない。

ランは部屋へズカズカと入り込むと、カーテンを勢い良く引き、窓を全開に開け放った。
すると瓜二つの顔が二つ、突如顔に浴びせられた朝日に顔を顰めた。


「うわっ、ラン…止めてくれよ…」
「眩しいじゃないか…まるで両目をキツツキに突っつかれたみたいだ…」
「おはよう、朝だよ」

ランがそう言うと、ムクッと上半身を起こした二人から、それぞれランへ向かって枕が飛んで来た。けれど、寝起きの人間の力などたかが知れている。ランは二つの枕を楽々受け止めると、寝惚け眼の二人に向かって容赦なく全力で枕を投げ付け返した。猛スピードで一直線に飛んで行った二つの枕は、二つのボスッという音と共にそれぞれの顔面に命中する。

「うっ…!ラン、お前相変わらず容赦ねーのな…」
「これで目が覚めるでしょ。早く顔を洗ってよ、その内パーシーとロンが起きてくるから洗面台が混み合うわ」
「へいへい、起きるさ」
「そうさ、飛び起きてやるさ」
「「ランが頬にキスをくれたらな!」」
「馬鹿言わないでさっさと起きて」

バッサリと切り捨てたランに対してぶつくさと文句を垂れつつもベッドから這い出る二人の兄を確認して、ランは最後の部屋へと向かうのだった。

- 2 / 3 -
春風