黒髪のウィーズリー成長記 - 春風
ダイアゴン横丁とノクターン横丁

移動煙突粉を使って、ダイアゴン横丁へとやって来たラン達ウィーズリー家。しかし、大人数を纏め上げてぞろぞろと一行を引き連れる一家の母親モリーは、大層に不機嫌であった。

それは朝の出来事、全てはロンの一言から始まった。

*****

「ママ〜。何で今日は皆早起きなんだい?今日って何かあったっけ?」

ダイニングに寝惚け眼のまま降りて来たと思えば開口早々そう言ったロンに、モリーはキュッと眉を吊り上げてその口を徐々に開いた。それを目の当たりにしてしまったランは、思わずその整った黒眉を顰めたのであった。

──嗚呼、また始まった。


「何を仰い!!全くもうッ、ロンったら!今日はあなたたちの学用品を買いに行くって前々から言っておいたでしょう!!さぁ、ボンヤリしてないで早くお食べなさいな!」

そう言い放つとモリーは、フライパンを片手にロンの皿へとソーセージを乱暴に滑らせて、焼き立てのフカフカに軟らかいパンの入った籠をダンッ!とテーブルへと置いた──と言うよりもこの場合、叩き付けたという表現の方が明らかに正しい──のであった。
それからもモリーは朝から家事や支度に追いに追われ、一触即発の状態が続いた。「全く、自分のことなのに欠片も覚えてもいないんだから」だとか、「一年生になる頃のビルやチャーリーは、もっとしっかりしていたわ」とか、何だかブツブツと文句を言っている。そんなモリーの様子に、ロンは少し肩身が狭そうに視線を落として、朝食に集中をしようとそっと皿に手を伸ばすのであった。

そこへ、先に席に着いてソーセージを齧っていたフレッドとジョージが、未だ寝癖の付いたままのロンを見てニヤニヤとしながら揶揄いを入れた。


「仕方ないよママ。何たって、鼻垂れロニー坊やはまだまだお子ちゃまなんだから」
「そうだよママ、ロニー坊やはまだ自分の予定を把握出来るようなイイ頭はしていないんだから」
「煩いなぁ!大体、僕鼻水なんて垂らしてないじゃないか!」
「ロン、食事中にお下品です!それにあなたたちもロンを苛めないの!」
「「苛めてないよ、弄ってるだけ!!」」
「フレッド!ジョージッ!」


ドタバタと足音高く逃げて行った双子にモリーが甲高い声で怒るものの、あの二人は何度怒られようとも懲りやしない。その様子に、更にモリーの苛々は高まった。ランはそれを横目に、巻き込まれては堪ったもんじゃないとばかりに、ただひたすらに食器洗いに勤しんだ。モリーは怒りながら魔法を使って家事を行うと、どうも注意散漫になってしまう為、ランのその行いは何とも賢い選択であるだろう──皿が十数枚、割られずに済んだのだから。


*****

「アーサー!アーサー!もう、何処にいるのッ?!」

隠れ穴に、再びモリーの声が響く。自室で着替えていたランは、母の声に階段の踊り場から身を乗り出し、下の階にいるモリーへと声を張り上げた。

「母さん。父さんなら、部屋にはいないみたいだよ」
「まぁ、あの人ったら…こんな忙しい時に何処へ行ったのかしら?」
するとモリーの顔が、まさか…?という疑惑の表情に変化する一部始終の様子を見て、ランはまた頭痛を覚えざるを得なかった。
般若もびっくりな形相をしたモリーが、隠れ穴を飛び出して隣の車庫へと急いだ。

「アーサー…!!」

やはりモリーの勘は当たっており、非魔法使いが使用する電気製品らが山のように積まれている中に、アーサーの姿があった。
ヤバい!見つかった!という何とも情けない顔をしてみせたアーサーは、あたふたと慌てて言い訳を考えてモリーへと弁解してみせた。


「あ、あー…いや、モリー。これはプラグと言って、マグルの素晴らしい──」
「そのプラグとやらはッ…!今から私たちが買い物へ行く為に必要なものですかッ…?!」

モリーのその余りの剣幕に、アーサーはシュンと萎れその身を竦めてしまったのであった。


*****

──ドガン!バコン!
隠れ穴に、大きな爆発音が響き渡る。自室で本を読んでいたランは揺れを感じ、しかし直ぐにその原因を悟って瞬時に耳を塞いでみせた。

「次は一体何事ッ?!」

次の瞬間には聞こえて来たモリーのビリビリとした激しい怒声に、ランは再びその眉を顰めた。耳を塞いでいても、かなりの音量である。その心の声を言ってみるなれば、「もう勘弁してくれ」というやつだ。

「ちょっと待って…!ゲホッ、ゴホッ…」
「うわぁ…何てこったい!最悪だ!悪夢だ!見ろジョージ、一昨日からの実験の成果が全部パーだ!」


次の瞬間には案の定、上の階から聞こえて来たその双子の声。全く床が抜けなくて幸いだと、モリーの怒鳴り声と双子の慌てふためく声を聞きつつランは一人思うのであった。

「一体全体今のは何の音ですッ?!」
「「うわ、ママ…!!」」

これから暫く説教が続くだろう。そう判断したランは、気分転換をしようと下のリビングに降りて紅茶でも飲もうとお湯を沸かし始める。
するとそこに、何やらヘトヘトのアーサーがやって来た。


「ああ、ラン…。それ僕にも淹れてくれないかい?」
「うん、いいよ」

その疲れ切った表情に、ランは砂糖をたっぷり入れたミルクティーを淹れてあげようと、食器棚からマグカップを二つ取り出したのであった。


*****

そして漸く、やっと皆で揃って出掛けれると皆思ったその時、パタパタと足音を響かせリビングへと駆け降りて来たジニーがいきなりワンワンと泣き喚き出した。聞くと、着て行く服が決まらないのだと言う。仕方なくランはジニーを連れて自室へと戻ると、さっさと適当な服を着せてやり、その上で抱っこを強請るジニーを片手で抱き上げてやるのであった。


「お姉ちゃん、私この服似合ってる?おかしくない?」
「うん、とても良く似合っているよ。可愛い」

そうして何とかジニーの機嫌を直してやりつつも、ランは妹を抱き上げたまま暖炉の前に立ち、片手でフルーパウダーを鷲掴み滑舌良く言い放った。

「ダイアゴン横丁!」

結果、家を出る筈であった予定時刻を大幅に過ぎてしまい、モリーの不機嫌さは上限に達していたのだ。
そんな様子で迎えた一家での買い物に、アーサーとランは呆れたように溜め息を吐いたのであった。家を出るまでにホトホト疲れ果ててしまった。

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