黒髪のウィーズリー成長記 - 春風
クリスマス

その昼過ぎ、図書館に読み終わった本を返して新しい本を借りたランは、酷い寒さに身を縮こまらせて足早に廊下を歩いていた。中庭を見れば、ウィーズリー四兄弟とハリーが雪合戦をしているようだった。
「…信じられない」
全身雪まみれになりながら走り回っている彼らを見て、ランは唖然として呆れたように眉尻を下げた。あの様子では凍える程寒いに違いない。

「やぁ」
「ラン」
「「クリスマスの散歩かい?」」
我が兄達ながら、相変わらず見事な掛け合いである。その一方の背中で、勢い良く飛んで来た雪玉が弾けた。
「うわっ!ロンずるいぞ!」
双子がランに気を取られている隙に、ロンとハリーとパーシーの猛攻が始まったようだ。

「…こんな寒いのに、本当に元気ね」
「ランも入れよ!」
「私はご遠慮するわ。今でも充分に寒いのに、これ以上はもう勘弁よ」
ランは男子らしくはしゃぎ回る彼らに手を振って、身を翻してその場を立ち去ろうとした。

──ヒュン!!
ランの顔の真横を剛速球の拳大の雪玉が掠める。ランはゆっくりと後方を振り返り、無言でジロリと出所を睨み付けた。

「げっ…!おいラン、今のハリーだぜ!」
「えっ?は?ち、違うよラン!僕じゃない!ジョージだからね!」
にんまりと笑うジョージにあたふたと慌てふためくハリー。ランは口角を吊り上げた。犯人は一目瞭然である。


「──受けて立とうじゃないの」
肩に掛けていたマントをベンチへ脱ぎ去り、その上に本をそっと置いて防水魔法を掛けて、ランはジョージ目掛けて雪玉を握る右手を思い切り振り被った。

*****

「ったく!ラン、お前の肩は一体どんな作りをしてるんだい?」
「全く、お前たち二人のおかげで僕の眼鏡にまで飛び火したじゃないか…」
「すげー痛え…」
「自業自得よ」

ゼイゼイと息を弾ませながら各々文句を言う男子勢を横目に、ランはニヤリと笑った。その笑みを見たハリーは、フレッドとジョージそっくりだと苦笑いした。
フレッド、ハリー、ランの青チームとジョージ、パーシー、ロンの赤チームでの対決は、青チームの完全勝利であった。ジョージの奇想天外な戦略とハリーの素早い身のこなし、ランの強烈な投球による攻撃はとても上手く噛み合って、赤チームの三人は青チームの三人よりもビッショリに濡れていた。

ホグワーツ城の玄関扉まで来た時、ランははっと息を呑んで、勢い良く頭上を振り仰ぐ。まるでねっとりとこちらを値踏みするかのような、不躾で不埒な、更に言葉を憚らず言うなれば──尾籠びろうな視線を感じたのだ。その視線の出所を探るが、逆光でまるで鏡のように反射する窓がその姿を隠してしまっている。その気持ちの悪い視線は、ランが城に入るまでの間ずっと後をついて来た。城に入った途端に消えた視線は、その後も向けられているような気がして、ランは背筋にじっとりとした冷たいものが流れるのを感じ、一人フッと吐息した。

「……」
──誰かに相談すべきであろうか。
しかし、確かな情報もないまま余計な心配を掛ける訳にもいかない。

表情を固くして一人思案するランを、ハリーが不思議そうに見遣った。

*****

夕食は七面鳥のサンドイッチ、マフィン、トライフル、クリスマスケーキ。
少し食欲がなくなったランは、甘いものを除いたそれらを少しだけ食べて談話室に帰った。あんなことがあったからだろうか、閑散とした談話室は妙に薄気味悪く感じて、ランは直ぐに女子寮へ引っ込んでシャワーを浴びた。

寝支度を済ませたランは、ベッドの脇のまだ開封していないプレゼントに手を伸ばした。その中には、先程まではなかったエメラルド色の包みがあった。付けられていたカードを読み、ランは目を見開いた。

「…!!」


ラン・ウィーズリー
有り難く頂戴させて頂こう。
S.S


「まあ!!」
憂鬱な気分も吹き飛ぶようなプレゼントに、ランは興奮して頬を赤らめた。
──ランが何処を探しても手に入らなかった魔法薬の専門書だ。これらの本の中には些か危険過ぎる魔法薬の調合方法も書かれているが、魔法薬学教授たるスネイプ張本人か送られて来たということは…そういうことであろう。事実、ランはその効能には左程興味はなく、その崇高且つ論理的な理論展開がランの興味をこの上なく擽るのだ。
予想外のプレゼントに、ランの先程までの気分は嘘のように上昇した。

長兄のビルからのプレゼントは、エジプトの名産であるガラスの香水瓶。その透明度は素晴らしく、ランは机の上のオルゴールの横にそっと飾った。相変わらず誰よりもお洒落で少し気障な兄らしいプレゼントに、ランは口元を綻ばせた。


最後のプレゼントは、紺碧の包装紙に銀のリボンで彩られた小さな包みであった。そのリボンに手紙が挟まっている。ランには、それが誰からのプレゼントなのか直ぐに分かり、顔をより一層に綻ばせた。


親愛なるランへ


ラン、メリークリスマス!とても寒い日が続くけれど、体調には充分に気を付けろよ。お前は家族の中で誰よりも冷え性なんだからな。

学校では上手くやっているか?お前のことだから、俺が心配するまでもないと思うけど、何かあったらすぐに言ってくれ。呪いなんて掛けられようものなら、倍返しにしてやればいい。母さんが許さなくても俺が許す。でも、校則には充分に注意しろよ──見つからないように、な?

ラン、お前がもう学年末の試験の準備を始めてるってパーシーからの梟便で聞いたけど、それ本当か?全く、頭が下がるよ…。

俺はつい三日前、ドラゴンの噴射した火でまた火傷をしたよ。アイツらは本当に魅力的だ。またランにもいつか見せてやるからな。

良いクリスマスと年末を。また会える日を楽しみにしているよ。

チャーリーより

P.S.勉強に夢中になるのはいいけれど、夜更かしはするなよ。何かに興味を持ったお前は、すぐに夜更かししがちだから。


次兄の手紙を握り締める。ランは何度もそれを読み返した後、その小さな包みの包装紙を、どのプレゼントよりも丁寧に開けた。


「…ッ!!」

ハッと息を呑む。
──瑠璃ラピスラズリのピアスであった。

この石は“最強の幸運をもたらす聖なる石”として、魔法界でも広く知られている。他に類を見ない、吸い込まれそうな深い濃紺。そこに浮かぶ白い模様や散りばめられた金色が、まるで夜空の雲や星のようにも見えてとても神秘的だ。


「…私も、会いたいわ」
ランは早速明日から付けようと心に決めて、そのピアスの小箱を枕元に置いて眠りに就いた。窓の外では雪がしんしんと降り積もる、何とも静穏な夜であった。


- 続 -

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春風