とある訓練兵Aについての周囲の考察 - 春風
地味で無口なあの女の子

地味な女の子。彼女を一言で表すとするなら、その一言に過ぎる。女の子に向かってこんな言い方が失礼なのは充分承知しているけど、これと言った特徴が彼女にはないのだから仕方がない。
…と言っても、地味ということも一つの特徴なのかもしれない。彼女を見ていると、派手な存在とは決して言えやしない僕でさえも、そう思ってしまう程なのだ。何せ彼女は、物凄く地味であるけれど、それ故に逆に周囲から浮いたある意味目立つ人物となっている。

瓶底眼鏡をして、無口で、何を行動するにもいつも一人。偶に見掛ける一人ではない時なんて、一人でいる彼女に対して気を使ったクリスタが話し掛けている時(けれどすぐにユミルにより引き離されてしまう)か、教官による監視の下で無理矢理組まされた相手役との格闘技訓練の時(教官が見ていない時の彼女は大抵一人で訓練場の隅にいる)くらいだ。
眼鏡の下にあるであろう瞳は、その分厚いレンズに遮られて見ることが出来ない。ただ、艶々とした長い黒髪だけが、とても綺麗なのだ。


「なぁ、見ろよ…。シノノメ、アイツまた一人でいるぜ」
「本当アイツって、何考えてんのか分からねぇ奴だよな。気色悪ィ…」
「今期の女には上玉が多いってのに、アイツだけは断突で不気味だよなぁ〜」

いつものように食堂で昼食を食べていると、今日も聞こえて来た。彼女に向けての悪口が至る所で言われている。けれど誰も咎める者はいない。これが日常茶飯事である。

要するに彼女は、104期訓練兵の中で除け者扱いをされているのだ。


「ねぇエレン、シノノメさんのことって、どう思う?」
「は?シノノメ…?そんな奴、いたっけ?」
そう言えば、目の前で夢中で食事を掻き込む正義感の塊そのもののような存在である彼は、彼女のことをどう思っているのだろう。
深く考えずに尋ねてみたけれど、パン屑を口の周りに付けながらキョトンとした表情でそう言った僕の親友に、思わず苦笑した。

エレンのような、純粋だけれどこの状況を知ろうともしない人が、一番酷いのかもしれない。彼に他意がないのは、長い付き合いだから分かってはいるけど。


「…いや、やっぱり何でもないよ」
「?何だよ、変なアルミンだな」
「…エレン、口の周りが汚れてる」
「分かってるって!ちょ、止めろよミカサ、ガキじゃねーんだから自分で出来るっての!」

そこでふと、思った。


「(……嗚呼)」

こんな状況を理解していて止めようともしない僕が、一番悪者なのかもしれないな…。

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春風