とある訓練兵Aについての周囲の考察 - 春風
湧き上がる疑問と同族意識

あれから私は、ラン・シノノメをこっそりと観察し続けた。
本当にアイツは友達が少ない。つまり、一日に口を開く回数が酷く少ない。その分、シノノメを観察することはとても楽だった。まぁ、他人とは違って必要以上に群れて騒がない様子には、それなりに好感が持てるけど。


アルミンとは図書館でたまに会うと喋っているようだが、大概その内容は専ら座学についてだけ。一体何がそんなに楽しいのか、本当にあそこまでいくと感心を通り越して呆れさえする。そして、そこへエレンが積極的に彼女に話しかけようとしている様子だが、その度に全てミカサに阻まれている。
更に私はシノノメと同室であるため、シノノメの生活を把握するにはうってつけの状況であった。クリスタが話し掛けてもシノノメは碌な返事もせず、そのクリスタはそのままユミルに強引に連れて行かれる。

そんな、一見何とでもないシノノメの生活。私が観察する意味なんてないんじゃないのと思えるくらいの、普通の地味な人間だ。


しかし、そんな私でも、シノノメから目を離さざるを得ない場合が存在する。
──そう、立体機動の訓練時だ。


「本日は班ごとに分かれて、巨人の討伐数を競い合う!!本日行われるのは、貴様らが立体機動装置を適切に扱えるのかどうかの確認と、森林で巨人と戦闘を行う場合の実戦形式訓練だ!今日の訓練は採点こそしないが、最終的な成績にも繋がってくる!心して挑め!!いいか、知っての通り、班員同士で上手く連携ができないと巨人の相手なんざ夢のまた夢だ!」

その日の班分けでは、私はシノノメとは違う班になってしまった。
討伐班が違えば当然シノノメを追うことはまず不可能になるし、もし仮に班が一緒になったとしても、あのハリボテの巨人を全神経を集中させて探している最中に他の方向へ目を配るなど、私には到底できない。何せ、この立体機動の訓練の成績は、上位十位に入るためには必須課題なのだから。


「ああ、アニも同じ班なんだね。心強いや、よろしくね」
「…そう」

私の班の班長はマルコだった。確かに、皆んなの話に耳を傾けて意見を纏めるのが上手い彼は、班長には適役だろう。まぁ、今日では採点がされることはないだろうから、それなりに無難に立ち回ろうと思う。


**********

「誰が休んで良いと言った!!それとも貴様だけ宙ぶらりんになって巨人の餌になるか!!」

教官の煩い怒鳴り声が聞こえる。きっと、私の後ろにいるアルミンがワイヤーを突き刺す位置を間違えて宙吊り状態になったからだろう。いくら同じ班だとは言え、それを待っている余裕はない私は、巨人の模型を探す為に、巨木の上に降り立って周囲をグルリと見渡した。


──ダンッ!!

「!!」

誰かが重たい足音を響かせて、隣の木の太い幹へ着地した。
慌ててそちらへ目をやると──その姿に、背筋にゾクリと寒気が走る。そこにいたのは、紛れもないラン・シノノメだった。


「(この女…息切れの一つもしていない)」


立体機動の訓練は、身体中をベルトで縛り上げて固定をして空中を高速で飛び回るもので、体力、耐G能力、そして空間把握能力が必要とされる。人によってそのセンスの有無はあるけれど、この装置を装着してからの訓練を受けて凡そ一ヶ月の私ら訓練兵は、それこそ調査兵団の熟練兵士にしてみればどんぐりの背比べ並みに実力に大差はないのだろうと予想が付く。

人間の体の構造上、本来であれば必要のない厄介なものを装着して高速移動しているにも関わらず、これだけの訓練の中にこんなに平然としていられるなんて。汗を拭う素振りすらも見せやしない、なんて…。


──やっぱりコイツは、化け物だ。


「…アンタ、本気出せば良いのに」

気付けば私は、その幹へ移り隣に立ちシノノメへ話し掛けていた。シノノメが、ゆっくりと私の方へ顔を向ける。
…隣に並んで初めて分かったけど、意外と背が低いのか。私より少し高いくらいだから、恐らく160cmあるかないかの程度だろう。もっと高いと思い込んでいたのは、この女が放つ独特の威圧感のせいだろう。


「……」
「アンタ、本当は強いんでしょ?」

この女はいつも、その見た目と性格から同期の連中からの揶揄いの対象にされても、まるで自分のことではないかのように酷く冷めた様子で受け止めているのだ。まるで、人がやることなすことその全てに興味がないかのように表情を微動だにせず、その眼鏡の奥にある瞳でただ眺めるだけ。他人事のようなその態度は、余計にあの馬鹿どものバカげた行為をエスカレートさせている。

ただ、私には分かる──この分厚いレンズで隠されているだけで、その瞳は見た者を凍り付かせるような闇に酷似した色をしているのだろう。


「…いつもアンタのこと色々言ってくる男たち、あそこにいるけど」
「……」
「あんな奴等なんて、一発で仕留められるんじゃないのかい」
「…別に、そんなことない」

そう。この女は──私と同じで、その力を持て余している。
決して同族なんかではないけれど、少しの同じ匂いがする…ただそれだけ。


「…まぁ、良いけどさ」


別に私には、関係ない。所詮、どいつもこいつも他人なのだから。群れたところで一体何になるというのだ。どうせ、後にも先にも、彼らは私たちにとっての敵なのだ。

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春風