とある訓練兵Aについての周囲の考察 - 春風
肥大する猜疑の念

ベルトルトとジャンの奇行は一先ず置いておいて。やはりラン・シノノメは化け物だった──この俺が言うのも何なのだが。


あれから俺は、訓練の度にラン・シノノメの姿を探した。勿論それはベルトルトのこともあるが、何よりもシノノメの秘密を暴き出さなければという気持ちからだ。
しかし、自ら進んで話をするような間柄の人間が元より少ないあの女を、この沢山の訓練兵の中から毎回の訓練毎に見つけ出すということは、まるで藁の中から針を探すかというレベルで難しかった。何しろ、最近になってアルミンやエレンと話をしている様子が見られるようになったくらいなのだ…アイツの交友関係は異常に狭いと言えるであろう。

しかしそのように考えると、あの女の“仲間”はいないのか…?そうだとすると、あの女はただ単なる身体能力の高いたげの人間なのか…?と、そんな疑問が湧き上がって来る。


取り敢えずその点に関しては追々考えることにして、対人格闘術の訓練中にシノノメの姿を見つけた俺は、今日もその行動を観察することにした。俺の視線の先にいるシノノメは、キース教官から隠れるかのようにして、人混みの影にひっそりと佇んでいた。

シノノメは、大概の訓練でサボりを極めている。と言っても、あの女は目立つ人間ではないから、アニとは違って誰からも気付かれずに済んでいるようである。相手をする人間がまずいない…又は相手をする人間がいれば、必ず手を抜いている。皆気が付いているのかどうかはいまいち分からないが、相手に投げられた際の何とも上手い受け身は、最早神懸かりであると言っても良いだろう。
ただ、立体機動の訓練の時だけは、こっちもこっちで必死だから、毎度その姿を見失ってしまうのだが。


「(何故、あの女は身体能力が高いことを態々隠しているんだ…?ただ単に面倒臭がりなだけなのか……?)」
「…ねぇ、ライナー」
「ッ!!ア、アニ!どうした?」


そんなことを考えていると、いつの間にか背後に立っていたアニが不審げな目でこちらを見ていたので、シノノメから目を離さざるを得なくなった。何やら言いたげなその様子に、俺は屈んで耳を貸す。
するとアニは、いつも通りの無表情で俺へと言った。


「……アンタ最近、あの地味女のことばかり見てないかい」
「ッ!!」


そして、余りにも図星過ぎるその発言に、俺は思わず目を剥いた。
まさか、気付かれていたとは。だがこの場合、気付いたのがアニで良かったのだと内心胸を撫で下ろして良い方向で捉えることにした。


だから、この時の俺は気が付いていなかったのだ──そんな俺を観察している、ある人物がいたことに──なんて。

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春風