警視庁のマドンナさん - 春風
謎の男とバスジャック事件

ラヒラと手を振り、腕から血を流す死神もビックリ事件ホイホイな江戸川コナンを遠目で眺めコナン以外の子供に事情聴取しようかと思ったものの、子供達と引率である科学者、阿笠博士と共に消えてしまっている。
コナンの言葉からするに、逃げ遅れた女の子、灰原が大怪我を負ったので付き添いで一緒に病院に言った、と言うものの大怪我を負ったのはコナンだ。
帝丹高校の校医、新出智明のお叱りを受けている。
小学生らしい表情で笑っているものの、殺人現場で名探偵、眠りの小五郎こと毛利小五朗の手伝いをし、探偵ごっこをしている時とは大違いだ。

変わった子だな、とコナンを視界から外し、乗客を引き連れている佐藤から離れ、コナンの側に居た女性一人を引っ張り、佐藤ら乗客からもコナンからも距離を取る。
胸ポケットからペンと手帳を取りだし、まずは外人女性――ジョディ・サンテミリオンから話を聞いている、という外面を見せているが、実際に事情聴取は行っていない。
こそこそと小さな声でのやり取りは何処か密会を思い浮かばさせる。


「ジョディ、どういう事よ、コレ」
「ごめんなさい。ベルモットを追ってきたら……」
「そうじゃない。なんで赤井がいるの、って聞いてるの。幾ら髪が短くて、眼鏡をかけていても貴女と違って私は証人保護プログラムを受けていないから──あの頃と名前は変わってないのよ?」

視線は手帳に落としたまま、適当に文字を書くフリをして泉は言う。
キッと手帳からジョディに視線を移し、睨むもののジョディは苦笑を浮かべ"参った"という意味で軽く両手を上げている。それを見ていたらしいコナンが遠くから、知り合いなのー?と言いながら、駆け寄ってきたではないか。
子供が苦手な訳ではない。年相応に見えないコナンや、灰原哀という少女が苦手なだけだ。まるで、常に見られている気がして。

ニコニコとまだ手当てをしてもらっていない痛々しい腕を隠しもせず、ジョディ先生と、友達?とトーンを下げながら問いかけてきたコナン。
最近の小学生怖い。豹変しすぎ。
そう心の中で突っ込むものの、ポーカーフェイスが崩れる、なんて事はなく柚希はコナンの身長に合わせてその場で屈み、小さく耳打ちをする。
前の職場で一緒だったの、と。
えっ、と言葉に詰まり驚いたコナンにニコリと微笑みかけると、佐藤ちゃん江戸川君よろしくー。と言い彼女に押し付けた。

ジョディと同じ職場だった、とコナンには言ったが正確には"今も"同じ職場である。
柚希の出身地は以外にも、アメリカである。父がアメリカ人で母が日本人のハーフであるが二人とも日本語ペラペラなため、アメリカで産まれ育ちながらも日本語も英語もペラペラになった。今の職場、警視庁、つまり日本で働いているとなると前の職場は自然とアメリカを浮かべるだろう。
間違いはない。ただ、問題なのは今も同じ職場、であること。

涼宮柚希、そしてジョディ・サンテミリオン、本名ジョディ・スターリングはFBI捜査官であり、調査のため日本に来日してきている。それも、極秘の任務のため柚希は特例でFBI捜査官でありながらも日本の警察として働き、一方ジョディは帝丹高校で英語教師を勤めている。


「ジョディ、貴女江戸川君に警戒されてる様だけど?」
「黒の組織の人間と勘違いしてるじゃない?さっきトカレフの安全装置をかけたりしたから……」
「馬ッ鹿ねぇ……!言っておくけど、彼に目をつけられたら終わりと思いなさい!あと、分かってると思うけど、」
「言わなくても大丈夫よ。……oh!Thank Youデス!これでお家、帰れますか?」


FBI捜査官ジョディから帝丹高校英語教師ジョディのスイッチに切り替わり、突然片言の日本語を話始めた。
あー、警視庁に移動しましょうねー。
柚希も同様に、警視庁の柚希のスイッチが入り英語ができない設定なので日本語でそう返しついでにぐいぐい彼女の背を押す。
ただ同じ職場の人間、であればよかったのに。
視線は足元。締め付けられる心臓に気づかないフリをして眉を寄せる。

柚希とジョディは、ただ同じFBI捜査官で、ただ同じ組織を追って来日した、というだけではなく同じ人を好きになってしまった。
残念ながら柚希は七年前、ジョディは五年前に別れており今は彼氏がいないフリーな女性だが。
と、言っても、恋敵というほどギスギスした関係ではなくむしろ良好な関係である。

ゴホゴホッ、という咳き込んだ声が背後からしたため、柚希は慌てて佐藤のいる方へ駆け出す。
先程会話に出てきた"赤井君"がこのバスになぜか乗り合わせていたのだ。
顔を見られるのも、名前を知られるのも不味い。
警察が手配した大型バスが既についていたので、早く乗ってくださーい!と乗客に急かす佐藤に突撃し、ごめん今日は事情聴取遠慮しておく。と耳元で呟く。


「は、はぁ!?どういうことよ!」
「ほんとゴメン!今度埋め合わせするからお願い…!!あ、あと被害者の前で私の名前、口に出さないように言っておいて」
「ちょっと待ってよ!どうやって本庁に戻るつもり!?」
「自腹でタクシー拾う!それと江戸川君に私の事聞かれても知らないで通してね!じゃッ!!」


あの少年とも思えぬ少年に本来の自分を知られるのが何故か怖かった。
よし、さっさと警視庁戻ろう。
そう意気込み、足を踏み出して前へ前進しようとしたものの誰かに腕を捕まれ停止する。
次は何なんだ、と苛々と焦りが混ざりながら声に感情を乗せず、何か?と問いかけならが腕の主を確認し、一瞬息が詰まった。

スキーウェアを着用している所をみると、犯人にさせられそうになったのだろう。帽子を被っており、裾が長めに立ててあるため目くらいしか見えない男性。名を赤井秀一。
柚希のかつての恋人であり、幼馴染みであり、そして、自分を殺そうとした男。


「……あの、どうかされましたか?」
「……知人に、良く似ていたので、つい。お名前お伺いしても?」
「……山田、花子です」
「…………そうですか」


最後に会った五年前よりも色んな場所が成長したにも関わらず、髪の毛の長さだけは成長どころか退化してしまっている今の柚希。
定番の山田花子を名乗ると、彼は納得したのかはたまた追求しても無意味と判断したのか手を離し、引き留めてすいません山田さん。と謝罪を述べた。
山田ではないので全く謝罪されている気分にはならないが、いえ。と営業スマイル着きで返事をし、一気に駆け出す。

捕まれていた手首が、物凄く熱く感じた。
まさか、な……。と赤井が逃げ出した柚希の背を愛しそうに見つめながら呟いていたなど知るよしもない。

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春風