君の鼓動と僕の鼓動 - 春風



「うわぁ…凄い人だね」


あんまり乗り気でないまま、先輩達に無理矢理連れられてきた全国高等学校剣道選抜大会の試合会場の総合体育館。

全国から勝ち進んで来た強者がいるんだから、ちょっとは見ておきたくもないかも。
何て一瞬でも思ってしまった僕が間違いだった。予想以上に人が多くて、もう既に嫌気が差して来ている自分は情けないとは思うんだけど。

でも今回は、そういうのには興味がありそうな真面目な一君も、珍しく行きたくなさげな様子。ちょっと意外かも。
まぁそんなことどうだって良いんだけど、ちょっと訳アリな気がするのは、僕の思い違いなんだろうか。


「あっちでは女子か!って、おい総司、ちゃんと見てるかァ?」
「ハイハイ、見てますよ」


正直、面倒になってきた僕は、何となく周囲が注目している女子の試合を眺めた。


「突きあり!勝負あり!」


すると、見事なまでの突きが一本決まり、突かれた相手は軽く後ろによろめいたのが分かった。主審を始め副審ら三人の審判の旗が上がる。


「……あの子、強い…」
「………」


こんな遠い場所から僕の目で見ても、あの女の子がタダ者じゃないことが見て分かる。そう思ったのは周囲の皆も一緒だったらしくて、隣の一君も何も喋ろうとしない。


「ア、アイツ、超強いな」
「でも、その割りに体小さくねぇか?」


その試合は終わり、蹲踞をして竹刀を納め、立ち上がり帯刀をし、そのまま後ろに五歩下がり提刀をし立礼をする。相手を見ながら後ろに下がるまで、一瞬足りとも気が抜けていない様子が、ここにいても伝わって来た。
でも、こんなに強い女の子なんていたっけ?
畳から出た小さな女の子は、面を外して手拭いをきちんと直した。

刹那、僕は驚愕したんだ。


「あれ……蘭、ちゃん…?」


――その女の子が、蘭ちゃんだったから。


「オ、オイ!あれ、うちの一年じゃねーか!」
「あ、あのハーフの超可愛い子だ!」


すると、新八さんや平助等がワイワイと騒ぎ立てる。まさか剣道をやっていただなんて…と僕等は呆然とした。


「………」


そんな僕等の様子を、一君が少し不機嫌そうに黙って見ていたことなんて、蘭ちゃんに夢中だった僕は気が付きやしなかったんだ。


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彼女はどんどん勝ち進み、準決勝では見事なまでの籠手を決めて、いつの間にかとうとう試合は決勝戦に。

そして。


パシンッ!


「面あり!」


決勝戦でも、蘭ちゃんは瞬く間に面を取ってしまった。


「勝者、東雲ーッ!」


審判に自分の名前を呼ばれた蘭ちゃんの表情は、ここからは見えなくって分からなかった。


「優勝、東雲蘭!」


とにかく、彼女は優勝した。僕の心臓が、今までにないくらいに波打っているのが分かる。試合を見て、体が硬直していたみたい。

でも、面を外し手拭いを取った時に見せたあのホッとしたような柔らかな表情に、更に僕の胸は高鳴ったんだ。

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春風