君の鼓動と僕の鼓動 - 春風



とにかく頑なに僕のことを拒み続ける蘭ちゃん。まともに話さえもしてくれやしない。

挙げ句の果てには、千鶴ちゃんに謝れだって?そんな過ぎたこと、どうだって良いじゃない。
なんて言ったら、更に蘭ちゃんに嫌われてしまうのは目に見えてるんだから、僕は黙っていた。

でも、僕だってそんなに気が長くはないんだから。


「……ねぇ。会う度に千鶴千鶴って言うけどさ、君は千鶴ちゃんの何なの?保護者気取り?」
「保護者?ふざけないでよ。私はただ、貴方が最低なことをしたことに対して怒ってるだけ」
「そんなの、ただの八つ当たりじゃない。これは千鶴ちゃんと僕との問題でしょ?」
「そう思ってるなら、さっさと千鶴に謝りに行ってよ」
「だから、それは君に言われる筋合いはないでしょ?君こそいい加減にしなよ」


いつの間にこんな惨めな口論になってしまったんだろう。本当はこんなことが言いたいんじゃないのに。


するとそこに、思いがけない第三者の乱入があった。


「蘭!」


聞き覚えのある声のした方向を見ると、一君が足早にこちらに近付いて来ていた。


――何で、一君が蘭ちゃんの名前を?


「…一先輩もいらっしゃったんですか」
「も、とは何だ。一緒にするな」


二人の砕けた口調から、二人が前々から知り合いだったことが分かった。

一君と仲良く話す蘭ちゃんを見て、僕の胸には良く分からないモヤモヤが出来る。あぁ、人はこれを嫉妬と言うんだなと、僕は初めて理解した。


「良く勝ったな。準決勝のあの籠手は見事なものだったと思う。敵の隙を上手く見極めていた」
「ありがとうございます。先輩、またご教授下さいね」
「アンタが何を言う、それはこちらの台詞だ。また腕を上げたようだな」
「………」


僕は正直に驚いた。だって、普段なら笑顔なんて滅多に見せやしない一君が、蘭ちゃんに微笑していたから。

でもどちらにせよ、あんまり放っておかれるのは、ムカつくよね。そろそろ乱入しようかな。


「ねぇ、知り合い?」
「……一先輩は、中学の頃からたまに面倒見て貰ったことがあるの。どちらにせよ、貴方には関係ないでしょ」
「いいじゃない、気になるんだから。ねぇ、何で剣道部には入らないの?」
「………」


素直で率直な疑問をぶつけてみた。すると蘭ちゃんは押し黙ってしまう。

今考えてみると、この時に僕がもう少し気を使えていたとするなら、結果は変わっていたのかもしれない。


「薄桜鬼高校の剣道部って、かなり強いんだよ」
「……知ってる」
「なら、何で―」
「私には、入る必要がないから」


――部活に入ったら、必要以上に人と関わらないといけないでしょう?私、そうゆうのが苦手、すっごい嫌なの。


そう吐き捨てて蘭ちゃんは、スタスタと早足で僕らの前から去って行った。
その口調は今まで以上に冷たくて、向けられた視線は今まで以上に鋭いものだった。


「……総司、アイツには深入りしてやるな」


蘭ちゃんの小さな後ろ姿を見送った僕ら二人は、何となく気まずい空気になってしまう。そんな中、一君はこんなことを言い出した。

自分の方が蘭ちゃんに近い位置にいる。それを暗示させられたような気がして、気の短い僕は一君に言い返してしまった。


情けないよ、こんなにも一人の女の子に振り回される僕なんて。でも、嫌いじゃないんだよね。


「何で僕の周りには、お節介焼きな人しかいないのかな。蘭ちゃんにしろ、一君にしろ。自分のことは自分で解決するものでしょ」


だから僕は、ひたすら蘭ちゃんを追うよ。そう言い切ると、一君は黙ってしまう。


「それに……」
「……何だ?」
「どうやら僕は、追われる恋より、追う恋の方が向いてるみたい」


だって、こんなにも楽しいんだから。

でも、一君も蘭ちゃんが好きなんだ、間違いない。なら尚更負けてなんかいられないよ。


ねぇ、蘭ちゃん、気が付いてた?君の僕を見る目は冷たいけど、けど奥にはどこか脅えている君がいるんだよ?


君が何を恐れているのかなんて、僕は知らない。でも、なら僕がそれを解いてあげる。

君のことはまだまだ何も知らない僕だけど、覚悟してなよ。絶対に、僕に惚れさせてみせるんだから。




- 4 / 4 -
春風