君の鼓動と僕の鼓動 - 春風



「流石、だね。この僕とここまで対等に竹刀を交えた女の子なんて、蘭ちゃんが初めてだよ」
「………それは光栄ね」


打ち合いの時に感じた雰囲気とは違う、殺伐としたこの空気。でも思わぬ収穫があった僕の機嫌はかなり良好だった。


そう、蘭ちゃんと僕との剣の愛称は、この上なく良いらしいんだ。
こんな些細なことが、僕にとっては嬉しくて仕方がない。


「………千鶴、水貰ってもいいかな?」
「う、うん。すぐに持ってくるよ」
「そう、ついでに沖田先輩の分もね」
「は?」


打ち合いが終わると同時にやって来た千鶴ちゃんに向かって、蘭ちゃんは事も無げに言った。

蘭ちゃんは、ホントにどんなつもりで言ってるんだろう?
千鶴ちゃんが僕らの声が届かない所まで駆けていったのを見届けて、僕は蘭ちゃんに詰め寄る。


「どうゆうつもり?僕、別に喉なんて乾いてないんだけど」
「別に水ぐらい良いじゃない」


すると千鶴ちゃんは二人分のコップを両手に持って、小走りで戻って来た。蘭ちゃんは笑顔でそれを受け取り、口に持っていく。


「その……沖田先輩も、どうぞ…」
「………ありがとう」


コップをおずおずと水を差し出して来た千鶴ちゃん。その縋るような目に負けて、僕は水を受け取り、軽く口を付けた。
すると、千鶴ちゃんの頬がほんのりと紅く染まったのが分かる。


「………」


成る程。蘭ちゃんの意図は、これか。

その証拠に、隣では蘭ちゃんが千鶴ちゃんの様子を伺っている。蘭ちゃんは満足げに少し笑みを浮かべると、千鶴ちゃんから目を剃らし水を飲んだ。


「じゃあ千鶴、私は帰るね。夕方は物騒だから、気を付けて」


蘭ちゃんは一方的にそう告げて、千鶴ちゃんに竹刀とコップを渡して、道場の出口に向かって歩き出してしまう。


「………」


何だろう。とても苛々するんだけど。

僕は苦々しくなって、一気に水を飲み干した。


「沖田先輩…。その…一緒に帰りませんか……?」


あぁ、ホントに苛々する。その対象は言わずもがな、僕から逃げる達人であるあの蘭ちゃんだ。

でも、ここで千鶴ちゃんを無下にしたら、蘭ちゃんからの株が落ちてしまう。


「………いいよ」


利害を思案した挙句、僕は仕方なく千鶴ちゃんの申し出に首を縦に振ったのだった。


これで僕は確信したんだ。

蘭ちゃんは、僕と千鶴ちゃんを再びくっつけようとしている。
それと同時に、蘭ちゃんが僕のことを、どうも思っていないということに、いやが上にも気が付かされてしまう。


「………流石に辛いんだけどなぁ」
「え、沖田先輩、何かおっしゃりましたか?」
「ううん、何も。気にしないで」


颯爽と道場を後にする、小さな袴の後ろ姿を見つめる。

ただ仲良くなって話しがしたいだけなのに。蘭ちゃんにここまで綺麗にあしらわれている僕って、ホントにつくづく可哀想だと思うよ。


でも、ここまでされるんだ、もう強硬手段にでるしかないよね。僕をここまで本気にさせたのは、蘭ちゃんなんだから。




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