君の鼓動と僕の鼓動 - 春風



「あ、来た来た。蘭ちゃん、こっちだよ」


更衣室から出てきた蘭ちゃんは、胴着姿に前の大会の時みたいに髪を高く結っていて、何だか女剣士って感じで凛々しい。

因みに、やっぱりその透き通るように白い項が色っぽいなって思ったのは、僕だけの秘密。

僕の呼ぶ声に気が付いた蘭ちゃんはこちらに来ると、その僕を見据えた。僕の隣には審判役の一君がいて、当の一君は蘭ちゃんをじっと見つめている。


「ただの打ち合いだけど、審判を一君にお願いしたよ」
「そう。一先輩、お手数ですが宜しくお願いします」
「い、いや、構わない。……それより、何故お前と総司が打ち合いをすることに―?」
「ねぇ一君、僕らは直ぐに試合始めたいんだ。その話は後でもいい?」
「………あぁ、構わない」


何だか納得がいっていない表情の一君だったけど、ここは僕も譲れないんだから。

一君の顔には、明らかに僕と蘭ちゃんの仲に対しての嫉妬が見て取れた。
だって、出会ってからの年月は一君の足元にも及ばないのに、蘭ちゃんとタメ口で話されてる僕だもんね。


「沖田、もう準備はいいの?」
「うん、いつでも。ねぇ蘭ちゃん、沖田じゃなくって総司って呼んでよ。タメ口なのに苗字って、やっぱり違和感あるんだけど」
「………さっさと始めましょう」
「つれないなぁ」


勿論こんなことを言うのには思惑があるんだ。その思惑なんて簡単、一君にもっと嫉妬させるため。
だってこれ、結構楽しいんだよ?


「………」


無言で竹刀を渡してくれた一君の表情は、明らかに不機嫌そうに歪んでいる。
一君弄りも面白いけど、そろそろ蘭ちゃんとの打ち合いに神経を集中させないとね。


「始め!」


一君の声を合図に、僕と蘭ちゃんは後ろに飛び下がった。
自分で言うのもどうかと思うけど、かなり素早い自然な動作だったと思うな。勿論、同じく蘭ちゃんも。


「…お先にどうぞ」


どうやら蘭ちゃんは、先に攻撃せずに、僕の動きを観察するらしい。
僕は意を決して、竹刀を持つ手に力を込めた。


「なら、遠慮しないよ…!」


パキンッ!


一段と力を込めて、いきなり蘭ちゃんに仕掛けてみた。すると、小気味良い音と共に弾き返される竹刀。
まさか女の子が僕のを受け止めるなんて思ってもなかったから、思わず僕の口角は上がる。


「へぇっ、中々やるね。流石、優勝は伊達じゃないや」
「…随分と余裕なのね」


バキン


「おっと」


すると、蘭ちゃんはいきなり突いてきた。それはかなり熟練したものだ。これは油断は禁物だね。


「どうせ女だって、内心馬鹿にしてる?後悔しないでよね」
「そんな、馬鹿になんかしてないよ」


そんな憎まれ口を叩きながらも、暫くの間竹刀を交わして気が付いたこと。


蘭ちゃんは、かなり並外れた瞬発力を持っていて、動き一つ一つが速い。力は勿論僕の方が上だから、どちらにしろ僕ら二人はいいレベル同士なんだ。


「ねぇ、僕らかなり良い好敵手なんじゃない?それは蘭ちゃんも感じてるんでしょ?」
「…うん」


鋭い嫌味の一つ二つは飛んで来るだろうと思ってたのに、予想に反してまさかの肯定の返事がされる。

それでも、打ち合いはただただひたすら続いた。


「沖田」
「何だい?」
「私ね、今凄い楽しい」
「!!」


そう呟いた蘭ちゃんは、笑っていて。

僕が初めて見た、蘭ちゃんの笑顔。こんな形で見たくはなかった気もするけど、それは想像以上に綺麗で可愛くて、僕の頭は真っ白になってしまった。


「止め!」


そこで一君の静止の合図が入った。徐々に離れた竹刀の切っ先に寂しさを覚えたけど、蘭ちゃんも同じ思いなんだと思うと、餓鬼みたいだけど何だか嬉しくなった。

やっぱり僕って一途だよね。

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春風