君の鼓動と僕の鼓動 - 春風



「蘭、着いたぞ」
「…ん……ありが、と…。私もう、大丈夫だから、トシさんは学校、戻って………」
「馬鹿野郎。俺はもう許可は取ってんだから気にすんじゃねぇ」


とある高機能セキュリティマンションの前。
俺は隣にぐったりと座る蘭に声を掛けるが、返って来た返事はあまりにか細いもので、コイツが全く大丈夫なんかじゃないと分かる。

ふざけんな、何が大丈夫だ。大丈夫な要素なんて一つもねーじゃねぇかよ。


「オイ、立てるか?」


俺は一旦車を寄せて端に止め、運転席を降りて助手席に回ってそっと扉を開いた。
そこで辛そうに肩で息をする蘭を見て何とも言えなくなった俺は、蘭の膝裏と華奢な腰に手を回し、無理矢理その体を横抱きにした。


「わっ…トシ、さん……」
「るせぇ、黙ってろ」


手が塞がっている中で、我ながら器用に蘭の家の合鍵をポケット取り出して、それをまた器用に鍵穴に差し込んだ。

辺りは既に暗くなり掛けている。こりゃSHRには間に合わなかったか。


「トシさん、ごめんね…。SHR、間に合わなかったよ、ね……」
「んなことお前が気にするな」


ガチャッ


扉を開けると、見慣れた光景が目に入ってきた。


「部屋は変わってねーよな?」
「うん、左…」


言われた通りに部屋へ入る。

すると。


「っ///!」


下着が干してあって、俺の目は自然とそっちに向いちまった。幸か不幸か、蘭は今目を閉じているため、俺の真っ赤であろう顔は見えていないはず。
綺麗に整えられたベットに蘭を横たえ部屋を見渡すと、調度品が女らしくなってきているのが分かった。


「…お粥でも作って来るから待ってろ」
「だ、大丈夫だから、いいよ。ありがとう、寝てたら治る―」
「食わなきゃ治るもんも治らねーよ。それにお前今日、昼も食ってねーだろ。それに…」


体重が軽過ぎだ。お前、しっかり毎日自炊してんのか?

そう問うと、あからさまに目を反らした蘭。………やってねーんだな。


「お前は……ッ!いっつもいっつも、飯はしっかり食えって、俺に何回言わせる気だ!」
「ご、ごめんなさい…」
「だから体弱くなるんだ!いいか、今日は俺が作るのを全部食え。明日からは毎日夕飯の写メを送れ」
「えー…面倒だよ…」
「分かったよ、な?」
「………ハイ」


有無を言わさないような口調でそう言うと、渋々と言ったように頷く蘭。可愛い動作に、俺の頬は思わずだらしなく綻んだ。


「よし、いい子だ。ならちょっと寝て待ってろ、作ってくる。台所借りんぞ」
「ん……」


再びそう頷く蘭の頭を撫で、部屋を後にした。


「………ハァ………」


―――蘭の匂いで、一杯だった。因みに俺は断じて変態などじゃあねぇ。


俺が蘭を恋愛対象として見出したのは、いつだったか。覚えていない。

どちらにせよ、今俺は惚れた女の家にいる訳であって、その蘭はベットの中で。下着を見てしまって、でも蘭は小さな頃に妹的存在であったことは事実で。


でも、今の俺は、コイツが好きだ。教師と生徒ではあるけれど、んなもんどうだっていい。


「………作るか」


開いた冷蔵庫の中には、食材のしの字もないくらいに空っぽで、俺の眉間には皺が寄った。

とにかく今は、アイツの風邪を治してやらねーと。
俺はもう一度溜め息を吐くと、脳裏に焼き付いて離れてくれない蘭の下着の残像を取り払うように、料理に取り掛かったのだった。




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春風