君の鼓動と僕の鼓動 - 春風



「な〜んだ、てっきり告白かと思ったよ」
「…は?」


僕はとんだ勘違いしていたみたい。だって僕に向けられているのは、紛れもない嫌悪感剥き出しの鋭い視線だったから。


「は?勝手に思い上がらないで。アンタ、本当に最低。人間が成ってないよ」


――最低。


告げられたそれは、僕の胸にズシッと圧し掛かる。僕も一人の人間であって、いくら可愛くて気になる子にそんなことを言われて、黙ってなんかいれなかった。


「……僕は、先輩だよ?」


僕がそう言うと、案の定、何が言いたいのかと言う目で僕を見つめるその子。


「こう見えても僕は、凄く人気者なんだ…特に、女の子達にね。…だから、僕くらいの力があると、君ぐらいすぐに潰せるんだよ。僕にこんな口きいていいの?」


そう言ってから、僕の胸の内へは後悔が襲って来た。


――違う、僕が言いたいことはきっとそんなことじゃないんだ。


するとその子は、更に僕を鋭く睨んだ。


「生憎、そんな卑怯者なんかを恐れる必要はないので。…沖田先輩、そんなことを言うなんて更に失望しました」


僕に向かって憎々しげにそう吐き捨てたその子に、本気で興味が湧いた。


「っ!ね、ねぇ、待って!」


思わずその背中を呼びとめれば、あからさまに嫌そうな顔をして振り返るその子。
あぁ、完全に嫌われちゃったな、これ。まぁ元より千鶴ちゃんからは、碌な話しされてないんだろうけど。


「…君の名前、教えてよ」


口から出たそれは、やっぱり思ってもみないことで。いつもなら心の中に押し留めるはずのその言葉も、何故だろう、今日は口からポンポンと飛び出て来ちゃうんだ。


「…あぁ、早速私を潰そうって考え?別にいいけど、私はアンタなんかには絶対に屈しないから」
「違う、そんなんじゃない―」
「東雲」


そう告げると、その子は屋上を後にしようとした。この子が吐き捨てるように言ったのは、恐らくその苗字だろう。


「違うんだけど。僕が知りたいのは下の名前だよ」
「……アンタなんかに教える必要はないでしょ。苗字だけでも十分じゃない」


そう吐き捨てると、その子は今度こそ本当に屋上を出て行ってしまった。


「………」


“東雲”と、そう言い放ったあの子の声が、妙に僕の耳に残っている。


「……調べてみよう」


この後僕は、調べて直ぐに東雲蘭ちゃんという女の子の存在を知った。どうやら、ずば抜けて美人だと学年性別問わずかなり有名な女の子らしい。


この日から、僕は蘭ちゃんの姿を自然と目で探すようになったんだ。

今思えば、これが想いの始まりだったのかもね。




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春風