七夕 -the next year-
七夕の日、夜空の星はあまりはっきりと見えなかった。もちろん都会に住む私たちには小さな輝きを放つ星々を見分けることなど難しい。
それでも彼も私もゆったりと過ごすのが好きだということもあり、度々星を見上げては夜風に当たることがある。
今日は特に七夕ということもあって雰囲気だけでも味わっていた。
「あまり星見えないね。残念」
彼はそうだねとだけ言って一途に小さな星々を眺めていた。真剣に星空を見上げる横顔はとても綺麗だ。
夜のライトに照らされた街もいつも通りのはずなのに、こんな日は特別に思える。
ふと生ぬるい風が私たちの肌をかすめたのを感じた。その時、ずっと星を見ていた彼が突然口を開いた。
「去年私が言ったこと、覚えているかな?」
「言ったこと?」
「……そう。七夕の織姫と彦星のように年に一度だけ会うというのもいいって言ったこと」
去年彼が言ってた気がする。確か、私と会えない時間で愛を育むことができる、と。
「覚えてるよ。どうかしたの?」
彼は俯きながら最適な言葉を探っているように思えた。何か彼の中で言いたいことを整理しているのだろう。そう思い静かに待つ。
「……忘れて欲しいんだ、あのことを」
彼から出た言葉は意外だった。彼があれほど情熱的に、真摯的な気持ちで紡いだ言葉を撤回するなんて。
「君と会えないのは、寂しい」
その言葉を耳にした瞬間、私の心が大きく揺さぶられた。いつも弱音を吐かず毅然とした態度をとっている彼が、弱々しい表情をしている。しかも私のことで。
彼が私のことを真剣に愛しているということを知り、彼が愛おしく感じられた。彼の弱った顔を見てこんなに胸をときめかすなんて、酷い彼女だ。
何か言わなくては。心を落ち着かせて彼を宥めるよう、声を発する。
「大丈夫だよ。七夕がなくても会いに行くよ。これからも凪砂くんの側にずっといるからね」
優しく抱きしめて背中をさすると、彼は「うん」と言って私に応えるように抱きしめた。
私をどこにも行かせたくないと言わんばかりに強く、優しく。