冬の訪れ
つい先日まで秋になったばかりで焼き芋食べようねなんて話していたのに早いもので、震える寒さを肌に感じる。もう冬が近いらしい。
はぁ、と冷えた両手に息を吹きかける。
「もう冬だね」
「……うん。寒くなってきた」
鼻が赤くなっている彼が可愛らしくて思わずふふと笑ってしまう。
「どうかしたの?」
「凪砂くん、鼻真っ赤だよ?」
「……ああ、寒いから。ふふ、君も真っ赤」
鼻が赤いことを指摘され指の背で頬を撫でられる。彼の指先はとても冷たかった。彼の指が離れるのが寂しくてひとつ、我儘を言う。寒さのせいか人肌が恋しいのかもしれない。
「手。繋いでもいい、かな?」
周りに人影がないことから、彼に少しだけ甘えてみる。
「……うん」
目を細めて微笑む彼に胸が高鳴るのを感じる。いいんだろうか。彼にいつも周囲を気にしようと注意しているのは私の方ではないか。私からの我儘に驚きを覚える彼だったが、私からの意外な言葉に喜びを隠せていなかった。
手を差し出す彼の左手に私の右手を重ねる。遠慮がちに触れると、彼が近づいて指を絡めてきた。私の顔の前で、私に見せつけるかのように。
トクンっと心臓が大きく揺れて私の鼓動はそれを合図に速く音を立てる。
「凪砂くんの手はあったかいね」
彼の腕にすり寄ると嬉しそうに微笑んでいた。
「君を温めるためにあるのかも」
「ふふ、そうなの?」
目を伏せて頬を染める彼が可愛らしくて思わず笑みが溢れてしまう。緩む口元を抑えられないでいると、空いている方の手で髪を梳かすように撫でられる。
「今は、君の甘える姿に満足しているだけにするね。これ以上は困らせてしまうから」
私から始めたことなのに、結果として彼に遠慮をさせてしまい申し訳ない気持ちが募る。きゅっと苦しくなる胸。
「無理。しなくてもいいんだからね……」
白い息と共に吐き出たその言葉は消えるように空気に溶け込んだ。彼の耳に届いただろうか。少しだけ黙った彼の様子を見るに、聞こえていなくとも私の心境を汲み取ってくれているはずだ。
すると、「その代わり」と続ける彼が私の耳元で呟いた。
「……帰ったら、君にたくさん口付けたい」
耳から入る彼の重低音は私の心を揺さぶるのに十分だった。驚きのあまり勢いよく彼の顔を見上げる。先程とは違う鋭く熱を含んだ瞳は彼のふわふわとした雰囲気をガラッと変えた。これは、帰ったら止まらないだろう。何が彼のスイッチを押してしまったのかわからないが、それでも彼の熱に染まった瞳は私の胸を更に圧迫した。
「耳、真っ赤だね」
息苦しいと思えるほど胸の疼きが酷くて止まらない。こんなにも寒いのに、彼の魅力に熱でやられてしまいそうだ。
そんな私を他所に音符が見えるほどご機嫌な様子の彼。彼の言葉ひとつでこんなにも振り回されてしまうのが悔しくもあり嬉しくもある。これは完全に惚れた弱み、というものだ。彼には全く敵わない。
私の手を掴んで離さない彼に愛しさが溢れる。
帰るのが楽しみになったのか、明らかに足早になった彼が可愛くて破顔してしまった。すぐに迎える凍えそうな冬も、彼となら暖かく感じられるかもしれない。こんなにも冬が待ち遠しいのは彼がいるから。