Prologue -00-

 私と彼の関係。それは極めて不透明なものだと思う。家族のような存在でもなく、恋人関係でもない。周囲の人は私たちのことを見て十中八九こう言うだろう。
 
『不純な関係』

 否定はできない。血の繋がりもなく世間から許しを得ているわけでもない。彼と私は所謂「異性」だから。一つ屋根の下、共に住んでいれば何かあるのではないかと邪推されるのも理解できる。それを否定したところで、更に疑わしくなるだけだ。
 実際には彼と私の間に不純な関係はないし、彼はそのような気持ちを私に抱いたことがないと言う。私も同様だ。私は成人している身として未成年の彼を保護する立場で居続けなくてはならない。
 それに、恋愛感情とは別に好意をもっている。見守る対象の彼には自身の庇護欲をくすぐるほどの愛しさを感じていて、彼のことは実の弟のように慕っているからだ。

 彼の成長を見守る中で気づいたのは、ひととしての成長の中で一番大事にしていたのはひとを『愛』するということ。更に彼の言う、「『父』が愛したアイドルになる」という言葉は物事を判断する時の原動力のようなものになっていた。
 ひとを愛するということを大切にしてきた彼の『愛』は『親愛』、『博愛』という意味を含んだものだった。彼は他の『愛』がこの世には存在することを知らなかった。
 一人の女性を本当の意味で愛したとき、彼はどんな風になるんだろうか。私のことなどどうでも良くなってしまうのだろうか。私のことは忘れて、私への愛も薄れていくのだろうか。
 そんな黒い感情が私の胸に浅ましくも生まれ始めた。彼に迷惑をかける不必要な感情だというのに。

「君を愛してる」

 もし、その相手が私だったのなら?
 そんな言葉を彼から向けられた時、私はどうなってしまうのだろうか。理性を失い、なし崩しに彼への恋愛感情をむき出しにしてしまうのだろうか。自分では抑えられないほど彼に堕ちてしまうかもしれない。彼はそれほどまでに人を惹きつけるから。

 そんな私の抵抗など無力なまでに、私は彼に徐々に堕ちていっていた。純朴さと同時にミステリアスな一面を持つ、不思議な魅力の彼に惹かれないわけはなかった。彼と過ごすうちに、この気持ちは庇護欲ではなく恋だということに気づくこととなった。
 彼を異性として意識してしまう私を責めながらも、私の力なき抵抗心はより一層彼への愛しさを加速させただけであった。
 そして彼もまた、私を姉のように慕うと共に、心情の変化が私への『愛』を変容させたようだった。
 私に対する『愛』が一体何か。
 元より日和くんに対するそれと同じはずだった私への『愛』は彼の中で徐々に移り変わり、未だ知らぬその『愛』は解けない難問のように一つ、彼の中でゆらゆらと漂っていた。それが何かを結論付けるまでは私に対する気持ちは形容し難いものになっていたらしい。
 彼の私への好きは私のとは違う。それでも彼は私を絶やさず『愛してる』と言ってくれたし、慕ってくれた。私はそれに応えたいと思えば思うほど苦しくなっていった。自らにかけた枷をいつまでも外せない私はどれほど滑稽なのだろう。
 私には彼との確かな関係を築く勇気も資格もない。彼を見守ってきた見返りなんて求めてはいなかった。それでも、彼は恋愛に臆病な私を愛して大切にしてくれた。
 彼との物語は、一冊の本では綴ることのできないほど濃厚で、繊細だ。
 彼の考えることは鮮明にわからずとも、私を慕う彼の言葉も、表情も、行動も。すべてに嘘偽りのない『愛』でいっぱいだ。
 

 これは彼と私の酸っぱくも甘い。そんな『愛』のお話。

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