「醜い」なんて言わないで 13
「そ、そんなにわかりやすかったですか?」
「……いや、他の人にはわからないんじゃない。君の様子をあんなにも眺めていたのは僕だけだろうし」
私のことを心から心配してくれた彼に言わないのは失礼かもしれない。こんなにもずっと私のことを見てくれていて少しの変化に気づいてくれた。彼になら話しても良いかもしれない。こんな話をしても迷惑かもしれないが、彼ならそんなことかい、と笑い飛ばしてくれるような気がした。
「……弓親五席の治療をした時、改めて感じたんです。私の霊力が少ないことを」
彼は何も言わずに私の話を真剣に聞いてくれる。
「私が無理をしていたことご存知でしたか? 無理をしてもあなた一人の治療を十分にできなかったんです。周りの隊士の力を借りなくては。
こんなことでは、もし弓親五席がもっと重傷で隊舎に来たら。そう思うと不安で仕方ないんです」
彼が重傷を負って隊舎に運ばれる。そんな光景を思うだけでゾっとした。私は段々と不安な気持ちを隠せなくなりいつのまにか眉間に皺が寄っていた。
「ブッサイクだねぇ。もっと笑いなよ。その顔だよ。君の醜い所は。
それってつまり……僕が弱いとでも言いたいのかい?」
「いえ! そんなことは――」
「あるね。君のその言葉は僕への侮辱にもなるよ。
……安心しなよ。君が心配するようなことは何もないよ。僕は美しくて強いからさ」
その言葉にまた涙が溢れそうになる。
「でも……」
「ほら、泣かない!」
頬を両手で覆われて頬を潰されてしまった。
「ゆ、ゆみちかごせき」
「ふふ、ブサイクだね」
「は、はなしてください」
彼は簡単に私の頬を挟んでいた両手を離してくれて、悪戯をするような可愛い表情で笑っていた。そんな彼を見ていると、今までの曇り続けていた心は晴れた気がした。いずれにせよ彼の本心がわかってよかった。教えてくれた斑目三席に感謝の言葉を伝えなくては。そういえば、斑目三席が言っていたことは何だったんだろう。
「あの、弓親五席。『醜いと思ってる人を見ない』ってどういうことですか?」
純粋な疑問が湧き上がり質問すると、目を見開いて固まったかと思ったら頬を染めていた。両手で顔を覆いこちらをギロリと睨んでいた。
「……それ、一角にでも聞いたのかい」
「え、あ、はい。斑目三席が、醜いと思っているヤツをあんなにまじまじと見ねえ、とおっしゃっていました。けど……?」
ハァ、とため息をつき「一角のヤツ……」とボソリと言った。聞いてはいけない言葉だったのだろうか。
「あの、だめでしたか?」
「いや、だめじゃないけど。そうだよ。僕は醜いと思うものは見ない主義なんだ。
……この意味、わかるかい?」
ムッとする。いくら私でも鈍感ではない。醜いものは見ない、ということはつまり、つまり。つまり――。綺麗なものは見る? ぶわっと熱が急激に顔に集まるのを感じる。
「え、弓親五席どういう」
「……そういうことだよ」
そういうこと……。彼の頬が先ほどより赤く染まっているのに気づいた私の心は水が溢れた桶のように想いが溢れて止まらなかった。見ているだけだった私にはこの気持ちが何なのか知らない。彼に、好かれているということ。
「あの、私、弓親五席に近づけるように霊力を高めます。弓親五席の力になれるように!」
「君のその不安は杞憂さ。でも僕のためって言われたら仕方ないね。じゃあまずは、その醜い表情をどうにかしてくれないかな?」
彼が右手で私の涙が落ちた痕を優しく撫でた。まるで大切なものを愛でるように優しい眼差しで。
「だって僕は、醜いものは見ないからね」
ふぁさりと髪をはらい、ニッと笑った彼はいつも以上に綺麗で、後光が刺しているようだった。私の心臓はもう吹き飛びそうなほどに震えていた。彼が眩しくて目を細めると頬を人差し指の背ですりと触れられた。
あぁ、もうこれ以上欲張りになんてなりたくないのに。
*
回復した男性隊士は近くにいた四番隊の隊士に感謝を伝えた。
「お礼ならこの子にしてください。綾瀬川五席がいらっしゃってから最後まで治療を続けていたんです」
「……そうか」
枕元で熟睡している女性隊士。それはよく見覚えのある顔だった。目を細めあたたかい気持ちになる。静かに彼女の寝顔を見ている時間はゆったりと過ぎているようだった。
しばらくすると、回復したらしい友人も彼の元へと立ち寄った。
「おう、弓親。もう大丈夫なのか?」
「あぁ、この子のおかげでもうすっかり元気さ」
「そりゃあ良かったな。寝てるのか?」
「そうみたいだね。だから、静かにね」
長い指を口の前に当ててしーっという手振りをすれば、彼はその隊士を近くのソファへと運んだ。
「ありがとう」
感謝の言葉は既に眠っているその隊士には届かないが、彼女の表情は心なしか緩やかになっていた。彼はそんな様子の隊士をじっくりと見ては微笑み、部屋を後にした。