ただ彼を目で追うだけ 05
あの幻だと思われる日から二日過ぎた。今では変わらず派手な戦いをした十一番隊士たちが怪我を負って四番隊舎にくる。いつも通りの光景だ。先日の殺伐とした雰囲気は嘘のようであった。私も周りに迷惑をかけないようにいつも通りの心持ちで仕事に臨んだ。
すると、昨日の今日で十一番隊に行くことになった。詰所にはいかなかったものの、皆が完治したわけではない。経過観察と共に薬を置きに複数の隊士とともに赴いた。
十一番隊に行きたがる四番隊士など早々いない。卯ノ花隊長が隊士たちに呼びかけたが、皆聞こえないふりをして目を逸らした。それはそうだ、あんなに嫌がられている上恐ろしい十一番隊舎に行きたいと思わないはずだ。
直接頼みに行っても「今日はちょっと」、「忙しいので」の一点張り。しびれを切らした隊長に雰囲気は最悪だった。手を挙げて行きたいと言える状況じゃなかったが、隊長とぱちりと目が合った私は「あはは……」と困ったように愛想笑いを浮かべる。断ろうかどうか迷ったが、もう遅かった。
「行ってくれますね?」という凄まじい形相に、思わず「はい」と答えてしまった。
嫌ではないという理由で選ばれた(というか無理やり行かされた、というのが正しい)私たちは引き受けてくれたからという理由でゆっくり行ってきても良いと言われた。偶然にも今日は友人たちも私も手が空いていたからだ。
意外にも彼女らは十一番隊への印象が他の四番隊士に比べて最悪ではないため、むしろ忙しい仕事からたまには外れるのも良いとまで言って嬉しそうにしていた。
そんな私は内心そわそわしながら彼女たちの話を聞いていた。十一番隊に行くということは彼に会えるかもしれないということ。そんな淡い期待を持ちながら、遠い距離を話しながら歩き続けた。
案の定雰囲気が怖い十一番隊だが、全隊士がそうというわけではなく、事情を説明すると案外簡単に案内してくれた。
その途中隊舎内をちらりと見やるが、彼の姿はどこにもいなかった。今日は任務で不在なのだろうか。
「世話になったな」
そう言われてあたたかい気持ちになった。四番隊の隊士として当たり前にしていることでも感謝されるというのは心の底から嬉しい。
「それでは、失礼します」
十一番隊舎を離れようとしてその時、後ろで誰かが友人に話しかけるのを耳にする。
「あ、斑目三席」
「おう。この間はありがとな。おかげで今は絶好調だ」
腕を大きく回したようで、まだ痛むのか、いってぇという声が聞こえる。私は緊張で振り返ることができない。斑目三席がいるということは、もしかして。もしかして。
「まだ完治してないんだから、無理しないんだよ。一角」
聞き慣れたその声は、私の心を揺さぶるのに十分だった。勢いよく振り返り、彼の顔をはっきりと認識する。
あぁ、元気そうでよかった。
「斑目三席。と、あ、あ……綾瀬川五席! お、お疲れ様です!」
私の勢いに驚いたのか、目を丸くした綾瀬川五席はすぐさま「あぁ、お疲れ様」と優しい表情で微笑んだ。
「それでは、私はこの後卯ノ花隊長に呼ばれておりますので失礼します!」
「あ、ちょっと!」
私はまるで駆け足のように忙しなくそう言ってその場を離れる。
後ろで同期が何か言っていたが今はそれどころでない。会えた。そして、元気だった。治療した痕もあった。あれは夢では、幻ではなかった。その事実だけで私の胸はいっぱいだった。
あんなに柔らかい表情で私と話してくれた。そんな彼を間近で見たことで私の心の中にひとつ、小さな欲が沸き上がるのを感じた。彼ともっと話したい。そんな身勝手な欲だった。
その傷を治療したのは私です。あの日あなたと話したのは私です。
そんな彼にとってはどうでもいいようなことを教えたい。教えてどうなるか、そんなことはどうでも良かった。
私が直接彼に関わったのはここまで。彼の様子を見る限り、私の事は覚えていないようだった。私の身勝手な願望は確実に叶わない。そしてまた彼をただ見つめるだけのいつも通りの日常に戻る。そう確信していた。
しかし、そんな私の考えは簡単に打ち砕かれてしまう。